小泉首相参拝訴訟
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小泉純一郎首相(当時)が2001年(平成13年)8月13日に秘書官同行の上公用車で靖国神社を訪れ「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳、献花代3万円を納め参拝した。この参拝に対する訴訟では地裁・高裁判決において公的参拝判断がなされた時に違憲判断がされたケースがあったが、傍論で述べられたものであり主文で原告敗訴としているので、政府はこのことを不満として上訴することができないと判断し、原告も上訴しなかった為判決は確定した(傍論#下級裁判所における「ねじれ判決」を参照のこと)。原告側が上告した裁判では、最高裁が憲法判断を避けたため、憲法判断がされることはなかった。地裁・高裁判決においても公的参拝が合憲だとされたケースはない。賠償請求についてはいずれも棄却されている。福岡地裁判決を受けた小泉首相は記者団の質問に「私的な参拝と言ってもいい」と語り、公私の区別をあえてあいまいにしてきた従来の姿勢を転換させた。 裁判所判決年日参拝は公的か私的か憲法判断賠償請求大阪地裁(一次) 2004年2月27日(村岡寛裁判長) 公的 - × 松山地裁 2004年3月16日(坂倉充信裁判長) - - × 福岡地裁 2004年4月7日(亀川清長裁判長) 公的 違憲 × 大阪地裁(二次) 2004年5月13日(吉川慎一裁判長) 私的 - × 千葉地裁 2004年11月25日(安藤裕子裁判長) 公的 - × 那覇地裁 2005年1月28日(西井和徒裁判長) - - × 東京地裁 2005年4月26日(柴田寛之裁判長) - - × 大阪高裁(一次) 2005年7月26日(大出晃之裁判長) - - × 東京高裁 2005年9月29日(浜野惺裁判長) 私的 - × 大阪高裁(二次) 2005年9月30日(大谷正治裁判長) 公的 違憲 × 高松高裁 2005年10月5日(水野武裁判長) - - × 福岡地方裁判所判決 2004年(平成16年)4月7日福岡地方裁判所(裁判長亀川清長)は原告の損害賠償請求を棄却した。しかし傍論において首相の参拝について政教分離に違反し違憲と述べた。総理大臣の公式参拝を傍論で違憲とする判断は1991年(平成3年)の仙台高裁判決に次いで二例目であった(下級裁判所が傍論で違憲を論じる問題点については傍論#下級裁判所における「ねじれ判決」を参照)。 2004年(平成16年)10月21日、福岡地裁判決が傍論において「参拝は違憲」としたことに対し、国民運動団体「英霊にこたえる会」(会長:堀江正夫元参院議員)が国会の裁判官訴追委員会に裁判を担当した3裁判官の罷免を求める訴追請求状6036通を提出した。請求状によれば、訴追理由について「判決は(形式上勝訴で控訴が封じられ)被告の憲法第32条『裁判を受ける権利』を奪うもので憲法違反」、「政治的目的で判決を書くことは越権行為。司法の中立性、独立を危うくした」としている(弾劾裁判も参照)。 千葉地方裁判所判決 千葉県内の戦没者遺族や宗教家ら39人からなる原告は、この参拝は総理大臣の職務行為として行なわれており、政教分離を定めた憲法に違反すると主張。小泉首相と国に1人当たり10万円の損害賠償を求めていた。2004年(平成16年)11月25日、千葉地方裁判所(裁判長:安藤裕子)は、参拝は公務と認定し、原告の慰謝料請求を棄却した。判決では、公用車や内閣総理大臣の肩書きを用いたりしているため、参拝は客観的に見て職務であると認定し、また公務員個人には国家賠償法における責任はないとした。また「信教の自由や、静かな宗教的な環境で信仰生活を送るという宗教的人格権を侵害された」として慰謝料の支払いを求めた原告側に対し、「信仰の具体的な強制、干渉や不利益な扱いを受けた事実はなく、信教の自由の侵害はない。宗教的人格権は法的に具体的に保護されたものではない」として退けた。 東京高等裁判所判決 2005年(平成17年)9月29日、東京高等裁判所(浜野惺(しずか)裁判長)は1審の千葉地裁判決を支持、原告側控訴を棄却した。ただし1審千葉地裁判決は、首相の参拝を「職務行為」と認定したが、この2審判決では、参拝は小泉首相の「個人的な行為」と認定した。また、参拝は職務行為ではないため、原告側主張は前提を欠くとした。以下、判決理由。 神社本殿での拝礼は、個人的信条に基づく宗教上の行為、私的行為として首相個人が憲法20条1項で保障される信教の自由の範囲。故に礼拝行為が内閣総理大臣の職務行為とは言えない。 献花代は私費負担。献花一対を本殿に供えた行為は、私的宗教行為ないし個人の儀礼上の行為。いずれも個人の行為の域を出ず、首相の職務行為とは認められない。 「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳した行為は、個人の肩書を付したに過ぎない。 神社参拝の往復に公用車を用い、秘書官とSPを同行させた点。総理大臣の地位にある者が、公務完了前に私的行為を行う場合に必要な措置。これをもって一連の参拝行為を職務行為と評価することは困難。 1982年4月17日の閣議決定により、毎年8月15日が「戦没者を追悼し平和を祈念する日」とされ、2001年8月15日も全国戦没者追悼式が実施。しかし参拝は13日であり、政府追悼式と一体性を有さない。 ※ 2005年9月29日付け 『東奥日報』掲載「靖国訴訟判決要旨」(共同通信配信)に加筆修正。 大阪高等裁判所判決(二次) 2005年(平成17年)9月30日、大阪高等裁判所(大谷正治裁判長)は小泉首相の参拝をめぐる訴訟としては高裁段階で初の違憲判断を示した。判決は、参拝は「総理大臣の職務としてなされたものと認めるのが相当」と判断。さらに、参拝は「極めて宗教的意義の深い行為」であったと認定し違憲と結論付けた。一方で、信教の自由などの権利が侵害されたとは言えないとして、賠償は認めなかった。原告は上告せず、判決は確定した。
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