富井政章の延期法案賛成演説
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「民法典論争」の記事における「富井政章の延期法案賛成演説」の解説
論争が進むにつれて、延期派の中心村田保は院外断行派から激しく敵視され、襲撃の噂が流れた。元田肇の証言によれば、政府は当初断行派議員にのみ警護を付けたが、官報局長高橋健三の猛抗議により、延期派議員にも付けるようになったという。 普段は閑散としている傍聴席は700人を超え、議場は騒然とし、議長蜂須賀茂韶は非常鈴を鳴らして事態の収集に努めねばならなかった。 最終的に、感情論に奔らず純理的観点から延期論を述べた、富井政章の貴族院演説が延期派勝利に大きく寄与したと伝えられる。 民法に最も反対であります…学問の進歩…を参考にして居ることが実に少い、殊に独逸民法草案であるとか白耳義(ベルギー)民法草案とか云ふものは全く参考していない…是は寧ろ前置であります。…新民法は条文が頗る繁多にして分り悪い、其中立法者の言ふべからざることをいって居る…此民法は殆ど起草者の著書と云ふ如き体裁を以て居ると思ふ、臣民の権利義務を定むると云ふ法文の体裁は全く失って居ると思ひます。其定義とか区別と言ふものが間違って居らねばまだしもであるが、実に非難すべきものが多い…契約と云う如き言葉さへも其意義が一定して居らぬ、 …自然義務と云ふものを…法律に鄭重に規定したと云ふことは古今何れの国の法律に於ても其例を見ざる所であります、昨日自然法の義務の説明を承りました、併し私が今日まで解する所の自然法の思想とは全く違って居ると思ひます…形式主義の制度が行れて…外形の手続を欠いた時は何程意思が明瞭であっても其為したる所の契約は無効である是が羅馬法の主義であった…それでは不公平であると云ふことから…自然義務…を認めて…弊害を矯めたのである、今日の法律に於ては全く謂れのないものである。 …一般学校の教師が生徒に向かって云ふことを立法者が一つ一つ規定して居る、是は実際の弊害のない様なことである…と云ふ人が定めてあらうと思ひます…けれども…若し此の如き講義録体の錯雑とした法典を実施すれば世間何処の学校も皆此法典の弁別、順序、定義等に括られて仕まって此法律を解くと云ふことになると思ひます…我国に此学問のために最も必要である所の比較的研究と云ふことも衰へてしまう…誠に迂遠の議論の様でありますけれども、私が始から此民法に反対した所の最重大の理由であります…此点が直らぬ限はどこまでも私は反対である。 …それから人事編…は最も攻撃を受くる部分であります…昔の家族制度が段々と変って来る時代…に此画一の制度を設けて親族の人事の関係を定めてしまうと云ふことは甚だ危険なことであらうと思ひます。 …昨日外務大臣の演説を承はりました…法権回復…は私共の深く希望する所である、併し…少くとも内地雑居を許さなあるまじ…日本に十分の利益があるとしても…法典を拵(こしら)えると云ふことは決して条約改正のためでない、日本国の法典を作るんであります。 …私は此法典…殊に民法をば十分に修正するには4年位は掛らうと思ひます、併し…会社法破産法…は速に修正を加へ一日も早く実行になることを望む…修正の出来た部分は議会の協賛を経て直ちに実施すると云ふ…修正案が出れば私は直ちに賛成を表する積であります、 …民法商法を行ふことは…日本国の歴史の上に於て実に特筆大書すべき大変革であらう…十分の修正を加へられ…又議会も大多数を以て通過…後に実施することを切に希望するものであります。 — 富井政章 この富井演説は、後世の仏法派民法学者からも高く評価されている。ただし演説の性質上多少の誇張もあり、前述のようにベルギー民法草案は少しは参照されたとみられている。 大木文相は再度登壇して富井への反論を試みたが、言語不明瞭で概して不評であった(国民新聞)。
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