合図
★1.吉報か凶報かを示す。意図的に、あるいは手違いにより、正しくない合図が送られることがある。
『妹背山婦女庭訓』3段目「吉野川」 吉野川を隔てて住む恋人どうしの久我之助・雛鳥に対し、帝を僣称する蘇我入鹿が、出仕と入内を求める。双方の親は、互いの息子・娘が入鹿の命令に従うなら花盛りの枝を、命令を拒否して死ぬなら花を散らした枝を、川に流して知らせ合うことにする。久我之助も雛鳥も死を選ぶが、一方の死を知ったら他方も生きてはいないので、双方の親は相手方の息子・娘を生かすために、偽ってそれぞれ花盛りの枝を流す。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第1章 アイゲウス王は息子テセウスに、クレタ島の迷宮から生きて帰れたら、船の黒帆を白帆に張り替えて合図するように命ずる。しかしテセウスは、冒険を終えて港に帰着する時、白帆を張るのを忘れてしまう。父王は黒帆を見て、テセウスは死んだものと思い、身を投じて死ぬ。
『国性爺合戦』3段目「甘輝館」 和藤内の明国再興の企てに、夫甘輝将軍が助勢してくれるならば、その妻錦祥女は白粉を溶いて遣水に流し、叶わなければ紅粉を流して合図をする。城外で待つ和藤内は、紅が流れるのを見て凶報と知るが、実はそれは錦祥女が自害して流した血であった。
『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)終章 トリスタンは毒槍で深手を負い、王妃イゾルデだけがこれを癒す術を知っている。トリスタンは、王妃イゾルデを迎えに行く友人に、「王妃が来てくれるなら船に白帆を揚げ、来ないなら黒帆をマストから垂らして、合図せよ」と請う。王妃イゾルデはトリスタンを救うべく船に乗り、白帆が揚がる。しかし、トリスタンの妻「白い手のイゾルデ」が、「黒帆が見える」と偽りを告げる。トリスタンは絶望して死ぬ→〔立ち聞き(盗み聞き)〕2。
★2.秘密の重要な合図。当事者以外には合図の意味はわからない。
『サムエル記』上・第20章 サウルが「ダビデを殺そう」と考え、ダビデは野原に隠れる。サウルの息子ヨナタンがダビデを救うべく、野に放った矢を子供に捜させて、安全か危険かを合図する。「矢は手前にあるから取って来い」と言ったら安全、「矢は向こうにある」と言ったら危険を意味し、ダビデは身の危険を知ってその地を去る。
『新版歌祭文』「野崎村」 お染と久松とは、互いの恋をあきらめることを久作に告げつつも、目と目で心中の覚悟をひそかに知らせあった。
『曾根崎心中』「天満屋」 徳兵衛は、友人九平次に大金をだまし取られ、死なねばならなくなる。愛人の遊女お初が、座敷で客の相手をしながら、縁の下に隠れている徳兵衛に足先で合図を送る。徳兵衛はお初の足首をとって自分の喉をなで、自害の覚悟を示す。
『椿三十郎』(黒澤明) 悪人一味の屋敷に捕われた椿三十郎は、見張りの男達に「赤い椿を遣水に流したら、大勢の侍がこの屋敷に斬りこむ。白い椿を流したら攻撃中止の合図だ」と教える。見張り達は恐れて、たくさんの白い椿を流す。実は、色の赤白にかかわらず、椿を流せば攻撃開始の合図になるのだった。
『平家物語』巻5「咸陽宮」 荊軻が秦の始皇帝を襲い、刺し殺そうとした時、始皇帝は最愛の后の琴をもう1度聞くだけの猶予を請うた。花陽夫人が琴で「7尺の屏風は高くとも、躍らばなどか越えざらん・・・・」と弾き、始皇帝に逃げる方法を教えた。
*→〔川〕7の『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第22章・〔接吻〕4の『マタイによる福音書』第26章。
★3.客をもてなす合図。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版第42巻18ページ サザエが訪問した家の主婦が盛んにタバコをふかすので、サザエは「癌のもとよ」と注意する。主婦は、「それならサインを変えなきゃ。煙を口から出したら店屋物を取らない客、鼻から出したら店屋物を取ってもてなす客、と決めて夫に合図しているの」と説明する。
『醒睡笑』巻之2「吝太郎」6 寺の住職が、「手を額に当てたならば客に上の酒を、胸をさすったら中の酒を、膝を叩いたら下の酒を出すように」と、弟子に言いつける。何度もそうしているうちに、檀家の人々もそれに気づく。ある時、例のごとく住職が膝を叩いて合図すると、客は「どうせなら額をなでて下され」と言った。
『十二人兄弟』(グリム)KHM9 王と妃の間に、男児ばかり12人が生まれる。王は「もし13人目に女児が生まれたら、その子に王国を与え、12人の息子は全員殺そう」と考える。妃は12人の息子を森へ避難させ、「私が男児を産んだら白い旗を、女児を産んだら赤い旗を、物見櫓(やぐら)に上げましょう」と告げる。やがて赤い旗が物見櫓に上がったので、12人兄弟は城へ帰らず、森の奥の小さな家に隠れ住む〔*生まれた女児は成長後、旅に出て兄たちを捜し出す〕。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第4日第8話 7人息子が、「もし次にまた男が生まれるなら、自分たちは家を出よう」と決める。生まれたのが男児ならペンとインキ壺を、女児ならスプーンと糸巻き棒を窓に置いて合図することにするが、女児が生まれたにもかかわらず、産婆が間違えてペンとインキ壺を置いた。7人息子はそれを見て、旅に出る。
★5.遅すぎた合図。
『ローランの歌』 シャルルマーニュ大帝の大軍がスペイン遠征を終え、フランスへ帰還しようとする。大帝の甥ローランが2万の騎兵を率いて、殿軍(しんがり)を受け持つ。異教徒10万が、ロンスヴォーの谷でローランたちを襲う。ローランが角笛を吹き鳴らせば、すぐにシャルルマーニュ大帝の本隊が駆けつけるはずだった。しかし誇り高いローランが角笛を吹いたのは、味方の残りが60人になり、ローラン自身も致命傷を負ってからだった。
『幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ』(山田洋次) 中年男の勇作は喧嘩のあげく人を殺して、網走刑務所で服役する。勇作は、最愛の妻光枝に離婚を申し出る。しかし彼は光枝を忘れられず、6年の刑期を終えて出所した日に、「もしまだ自分を待っていてくれるなら、家の前に立つ竿に、黄色いハンカチをぶらさげてくれ」と書いたハガキを、夕張の自宅へ出す。勇作は、途中で知り合った青年と娘に励まされ、夕張へ向かう。家の前の高い竿には、何十枚もの黄色いハンカチが風に吹かれていた。
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