右翼・反藩閥派・政界に波及
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「宮中某重大事件」の記事における「右翼・反藩閥派・政界に波及」の解説
杉浦は婚約解消問題が政争の具となることを避けるため、それまで山縣の政敵である大隈重信を頼ることを躊躇していた。しかし手詰まりになった状況を打開するべく、12月30日に大隈に近い牧野謙次郎早稲田大学教授を招き相談。牧野は翌日、塩沢昌貞とともに大隈を訪問した。大隈は天皇・皇后に働きかけると述べたものの、実際には何も行わなかった。しかしこれを機に話が急速に広まり、事態は政治色を強く帯びていった。 1920年末頃に杉浦らが接触していた相手には、邦彦王の義弟・壬生基義、北白川宮能久親王次女で有馬頼寧伯爵夫人の有馬貞子などがおり、壬生は皇后を説得できるのは生母の野間幾子しかいないと言い、有馬貞子は義姉の北白川宮成久王妃房子内親王に話をしてみると伝えていた。 12月24日には事件を聞きつけた右翼の巨頭である頭山満が、心服していた杉浦を訪問する。「原敬日記」に杉浦が頭山らに事件を漏らしたとの田中義一からの情報が書かれているが、1921年1月11日に再び会った際、杉浦は頭山に対し事件を政治問題化させないよう注意した。その後宮中某重大事件で頭山がどのような行動をとったかは定かでないが、浅見雅男は頭山の存在が山縣や原首相らに影響を与えたと推測している。 1月16日、杉浦門下の古島一雄が杉浦を訪問し、婚約解消問題を数人の新聞記者や、衆議院議員のうち「健全なる人々」に打ち明けることを話し合った。 1月23日、山縣ら藩閥を倒すためにこの事件を利用しようとしていた、城南荘・国民義会グループと呼ばれる五百木良三、牧野謙次郎、松平康国、押川方義、大竹貫一、佃信夫が集まり、婚約内定解消反対に向け協働することに決めた。翌日、牧野謙次郎は杉浦を訪ねるが、彼らを警戒していた杉浦に共闘を断られ、独自に行動を開始。6人連名で山縣や原へ警告書を送った。 1月24日には、来原慶助が、久邇宮家嘱員・武田健三の話をもとに書いた『宮内省の横暴不逞』と題する匿名の怪文書を政界や新聞社にばら撒いた。内容は、山縣(○○公と名前は伏せられている)が婚約解消を企てて中村宮内大臣らが動いていると批判するもので、原首相は怪文書を見て警戒を強め、床次竹二郎内務大臣は新聞・雑誌出版社に対し皇太子妃に関する報道の禁止を命じた。ただし、黒沢文貴によれば、薩摩出身の床次は人倫派に同情的であり、取り締まりは不十分だったとされる。 1月26日、読売新聞は、杉浦が宮内大臣と道徳上の意見が合わないという理由で東宮御学問所御用掛の辞表を出したと報道。宮中某重大事件への言及はなかったものの、同紙は発禁処分となった。これにより政府は事態の鎮静化を図ったが、「蒙古王」の異名を持つ衆議院議員の佐々木安五郎が発禁処分の理由を議会で追及すると騒ぎだす。これに対し宮中のことを議会で論ずるのはまずいと考えた古島一雄は、与党の政友会、野党の憲政会と立憲国民党に働きかけ、さらに奥繁三郎衆議院議長も巻き込み佐々木の質問を抑え込んだ。 こうした中、山縣は枢密院で婚約解消を決定しようとし、腹心の清浦奎吾副議長に命じた。しかし清浦は、枢密顧問官の平山成信や穂積陳重は杉浦派のため、枢密院で議論しても全会一致の見込みがないとして、及び腰で立ち消えとなる。しかも清浦は杉浦派の意見に賛同を示し山縣を裏切った。 2月1日には城南荘・国民義会グループが山縣に対し『上(たてまつる) 山県老公』と題した文を山縣邸に送った。その内容は来原の怪文書とほぼ同じで、山縣は秘書を通じて返答するが、物別れに終わる。また、右翼の内田良平と小美田隆義も2月9日に元老・首相へ書簡を送りつけた。加えて北一輝・大川周明・満川亀太郎らが結成した猶存社が山縣暗殺を企てているとの噂もあった。 そして右翼、国粋主義者らは2月11日の紀元節に総決起することとし準備を進めた。城南荘グループは学生や青年団を動員し「国民祈願式」を、内田良平らは民間労働者団体を誘い、皇太子成婚の成就と外遊延期を祈願する「祈願宝刀奉納式」を、それぞれ明治神宮で行うことを計画した。 なお、婚約を既成事実化させたい久邇宮家側では、後閑菊野らが情報源となって良子女王に関する記事を新聞に掲載させるといったマスコミ工作を行った。例を挙げると2月3日の東京日日新聞には、良子女王は一度も宮家職員を叱ったことはなく慈悲深い言葉をかけるというエピソードを紹介し、その人徳を褒め称える記事が掲載された。
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