口封じ
★1a.重要な秘密が外部にもれないように、大勢の人々を殺す。
『あきみち』(御伽草子) 盗賊金山八郎左衛門は、山中に三間四方の岩穴をこしらえ、秘密の隠れ家とした。工事に従事した3百人余の人夫は、口封じのため、1人残らず殺された〔*3百人余の人夫の亡魂は、後に、あきみちを助け、彼の父の仇である金山八郎左衛門を討たせた〕→〔人形〕3b。
宇都宮城の釣天井の伝説 宇都宮城主本多正純は、大工を城内に集めて釣天井を作り、将軍家光暗殺をはかる。工事完了後、秘密を守るために大工たちは全員殺され、古井戸に投げ入れられる。大工の1人、与五郎の亡霊が恋人お稲にこのことを告げ、お稲はことの始終を書き残して与五郎の後を追う。お稲の父が将軍の行列に直訴し、家光は宇都宮城へ寄らずに江戸へ帰る(栃木県宇都宮市本丸町)。
『御用金』(五社英雄) 越前・鯖井藩は、危機的な財政状態にあった。家老・六郷帯刀は、策略をもって幕府の御用船を沈め(*→〔道しるべ〕5)、積んでいた多量の金(きん)を奪って、藩財政の建て直しをはかる。浜辺の漁民たちを動員して、御用船から金を運び出すが、作業が終わると帯刀は、口封じのために漁民全員を殺した〔*その後も鯖井藩の財政は改善せず、3年後に、帯刀はふたたび御用船の金を奪おうとする。帯刀の義弟・脇坂孫兵衛がこれを阻止し、帯刀を斬る〕。
『仮名手本忠臣蔵』7段目「一力茶屋」 祇園で遊ぶ大星由良之助が、主君塩冶判官の妻顔世御前からの密書を読む。遊女お軽がそれを盗み見て、仇討ちの計画を知る。由良之助は「お前に惚れた」とお軽を口説き、ただちに身請けして、口封じのためお軽を殺そうと考える〔*しかし由良之助はお軽の忠誠心を知り、殺さずにおく〕。
*→〔アリバイ〕2の『幻の女』(アイリッシュ)・〔同一人物〕4の『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「刻印」・〔身代わり〕8の『昼顔』(ケッセル)。
★2.AがBから貴重な情報を聞き出す。Aはその情報を独占しようと考え、Bが他の人物に情報を教えぬよう、Bを殺して口を封じる。
『藤戸』(能) 佐々木盛綱は、備前国藤戸の合戦で先陣の手柄を立てようと、馬で渡れる浅瀬を土地の漁夫から聞き出す。盛綱は「漁夫が、浅瀬の場所を他の者にも教えるかもしれぬ」と思い、その場で漁夫を殺して海に沈める。戦功で領主となった盛綱のもとに、漁夫の母が恨みを述べにやって来る。盛綱は回向して、漁夫の霊を慰める。
『女の中にいる他人』(成瀬巳喜男) 田代は中年のサラリーマンで、妻との間に幼い2人の子供があり、老母も同居している。彼は意図せざる殺人を犯してしまい(*→〔死因〕3b)、思い悩んだ末に、「自首する」と妻に告げる。妻は「子供たちに、殺人犯の子としての一生を送らせるわけにはいかない」と考え、田代に劇薬を飲ませて殺す。世間は「田代はノイローゼのため自殺した」と見なし、彼の犯した殺人は発覚せずにすむ。
★4.口止め料。
『下降生活者』(大江健三郎) 昭和30年代。「僕」は官立大学の、将来を嘱望された助教授だった。「僕」は身分を隠し、路地で出会った青年と同性愛関係になる。ところが青年は、「僕」が講師として赴いた私大の学生だった。青年は「黙っていますよ。2万円くれるなら」と言い、「僕」はその請求に応じる。翌日、青年は山で無謀な登攀をして墜落死する。「僕」は大学を辞め、妻と離婚して、路地の生活を始める。
『屋根を歩む』(三島由紀夫) 人妻である愛子は恋人との情事を、屋根職人の黒川に見られてしまった(*→〔屋根〕2a)。愛子は口止め料を渡すが、黒川は受け取らない。愛子は「黒川に身をまかせれば、彼は私の秘密を夫に告げないだろう」と考え、2階の寝室前の屋根の修理にかこつけて黒川を呼び、寝室に導き入れようとする。黒川は、愛子の手を振り離そうとしたはずみに、屋根から転落する。愛子は黒川が死んだと思い、発狂した〔*黒川は右大腿部を骨折したが、命に別状はなかった〕。
*親の口を封じるために、息子を誘拐する→〔誘拐〕3の『知りすぎていた男』(ヒッチコック)。
*舌を切り取りしゃべれなくして、口を封じる→〔舌〕3の『タイタス・アンドロニカス』(シェイクスピア)第2幕・『変身物語』(オヴィディウス)巻6。
品詞の分類
名詞およびサ変動詞(交渉) | 密談 決裂 口封じ 和解 紛糾 |
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