仮病
『怪談乳房榎』(三遊亭円朝)6~16 浪人磯貝浪江は、絵の師匠菱川重信の妻おきせに横恋慕する。菱川重信の留守中に、おきせのもとを訪れた磯貝浪江は、帰り際に持病の癪が起こって苦しむふりをする。おきせは気の毒に思い、磯貝浪江を家に泊める。その夜、磯貝浪江はおきせの部屋へ夜這いして関係を持つ〔*1ヵ月後、磯貝浪江は、蛍狩りに出た菱川重信を待ち伏せ、不意打ちして殺す〕。
『こころ』(夏目漱石)下「先生と遺書」44~45 「先生」は、お嬢さんとKが留守の折をねらって、奥さんに話をしたいと考える。しかし片方が不在の時には片方がいる、ということが続き、奥さんと2人きりで話のできる機会がなかなか来ない。とうとう「先生」は仮病をつかい、お嬢さんもKも出かけてしまうまで、蒲団の中にいる。10時頃に「先生」が寝床から出たので、奥さんが給仕をしてくれる。「先生」は、「奥さん、お嬢さんを私に下さい」と言う。
『ヒルデブラントおじい』(グリム)KHM95 村の牧師が、「百姓ヒルデブラントの女房と、1日楽しく遊びたい」と思って、一計を案じる。ヒルデブラントの女房が病気のふりをして寝込み、牧師はヒルデブラントに「遠方のギョッケル山まで巡礼に行け。月桂樹の葉をもらってくれば、病人は治る」と説教する。ヒルデブラントが巡礼に出かけたあと、牧師が家にやって来て、女房と宴会を開く。ヒルデブラントは、途中で出会った名づけ親のおじさんから「お前はだまされたのだ」と聞き、家へ戻って牧師をたたき出す。
『あゝ結婚』(デ・シーカ) 中年男ドメニコが若い娘との結婚式の準備をしているところへ、愛人フィルメーナが重病で危篤だ、との知らせが入る。フィルメーナはもと娼婦で、ドメニコとは20年以上も内縁関係を続けていた。ドメニコは臨終の床にあるフィルメーナと、神父立会いのもとで結婚式を挙げる。ところがフィルメーナの病気は、仮病だった。彼女は娼婦時代、客の男たちとの間に3人の男児を産み、ひそかに育ててきた(*→〔三者択一〕7b)。子供たちの将来のために、父親とその戸籍が必要だったのだ。
『瀕死の探偵』(ドイル) 素人医学者スミスが、甥ヴィクタを伝染病菌に感染させて殺す。ホームズがそれを察知したので、スミスは細菌の付着した小箱を、ホームズに送りつける。ホームズは発病し、瀕死の状態になって、スミスを呼ぶ。スミスは勝ち誇り、甥ヴィクタを細菌で殺したこと、同じ細菌をホームズにも送ったことを認める。ホームズは、自分の病気が仮病であることを明かし、待機していたモートン警部がスミスを逮捕する。
★5b.瀕死の病人のふりをして敵を油断させ、討とうとするが失敗する。
『入鹿』(幸若舞) 鎌足は、帝から「悪臣入鹿を討て」と命ぜられる。鎌足は、まず養女を入鹿に嫁がせて縁戚関係となり、入鹿を油断させる。その後、風邪にかかったふりをし、何日かたった後に、「私は重態になった。死ぬ前に一目会いたい」と言って入鹿を呼び寄せ、討ち取ろうと謀る。入鹿は牛車に乗って見舞いに出かけるが、途中で「罠かもしれぬ」と思い返し、鎌足の屋敷へは行かなかった。
『妄想の原理』(木々高太郎) 小林青年は殺人を犯した時、癲癇発作による朦朧状態だったようによそおった。「病気ゆえ無罪」の判決を得よう、とたくらんだのである。精神病学の教授・大心地(おおころち)先生が小林青年を診察して「これは詐病だ」と見抜き、「この型の癲癇は、発作が1度起こると頻発する」と言って、小林青年の反応を見る。大心地先生の予想どおり、小林青年は癲癇発作の演技を繰り返すようになる。
『へんな薬』(星新一『ボッコちゃん』) 風邪そっくりの症状を起こす薬を、ケイ氏が開発した。飲めば熱と咳が出て、風邪をひいたような外見になる。当人は何の苦痛もなく、1時間で症状は治まる。ずる休みが可能になり、いやな仕事をせずにすむのだ。しかしケイ氏が腹痛を起こした時、友人は「これも仮病だろう」と思って医者を呼ばず、あやうく手遅れになるところだった。
★7.すべては「空(くう)」であり、病気もその実体はないことを説くために、病人のふりをする。
『維摩経』 維摩居士が病気になったと聞いて、文殊菩薩が、大勢の菩薩・仏弟子・天上の神々たちを連れて見舞いに行く。文殊が「どうして病気になったのか?」と尋ねると、維摩は「無知による愚かさと、存在への愛着によって、私は病気になった。一切衆生が病んでいるから、私も病んでいる。しかし私の身体は、実体としての存在ではないので、それに執着することはない」と答える〔*「空」についての問答の後、維摩は、多数の見舞客たちを右掌に乗せて仏(=釈尊)のもとへ向かう、などの神通力を発揮する〕。
仮病と同じ種類の言葉
Weblioに収録されているすべての辞書から仮病を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から仮病を検索
- >> 「仮病」を含む用語の索引
- 仮病のページへのリンク