人工衛星の構造と設計(1)
概念設計にはじまる人工衛星の設計
人工衛星の設計は、その衛星の目的を明確にし、目的達成に必要なシステムを検討する「概念設計」にはじまり、「予備設計」から「基本設計」へと進められます。予備設計では新技術の実現性を確認する「試作試験用モデル」を製作、基本設計に反映させます。その後、基本設計での電気や構造等の設計の妥当性を検討するための「エンジニアリングモデル」を用いて各種の試験が行われます。
繰り返し製作・試験されるモデル
続いて、エンジニアリングモデルでの試験結果を反映して詳細設計を行い、実機とまったく同じ仕様の「プロトタイプモデル」を製作します。このプロトタイプモデルに対しては、実際の宇宙環境よりも苛酷な条件での試験を行います。この試験で不具合等が発生しないことを確認した後、打上げ用の「フライトモデル」が製作され、実際の宇宙環境と同じ条件での試験が再度おこなわれます。
人工衛星の設計の進め方
このように、多くの試験とその結果の設計への反映を繰り返すため、衛星を設計してから打ち上げるまでは、新規設計の衛星の場合で7~12年、シリ−ズ機の場合でも2~3年はかかります。時間だけではなくかなり高額の費用も必要とされるため、人工衛星の設計にはシステム・エンジニアなどのメンバーによって大がかりなプロジェクトが組まれ、コストやスケジュール、性能などの徹底した管理のもとに計画が進められます。
人工衛星の構造と設計(2)
設計の際に求められる条件
人工衛星の設計に求められる基本的な事項としては、使用するロケットの打上げ能力やフェアリングの容積の制約から、重量と体積が挙げられます。ほかにも、太陽エネルギーのみが電力源となることから低消費電力であることや、打上げ時および宇宙環境のさまざまな過酷な環境条件(衝撃や振動、熱など)に耐えうること、故障しても修理ができないことから求められる高い信頼性などがあります。
「ミッション機器」と「バス機器」
人工衛星のシステムは、その衛星が担うミッションを遂行するうえで必要な「ミッション機器」と、衛星の基本的な機能として必要な「バス機器」から構成されています。ミッション機器とは、たとえば地球観測衛星の地球観測センサ、通信放送衛星の中継器などが相当します。バス機器はさらに、「テレメトリ・トラッキング・コマンド系」、「電源系」、「姿勢制御系」、「推進系」、「構体系」、「熱制御系」などのサブシステムから構成されています。
熱帯降雨観測衛星(TRMM)のミッション機器のひとつ、降雨レーダ
バス機器のサブシステムの役割
テレメトリ・トラッキング・コマンド系は主に地上との通信を受け持ちます。電源系は衛星に搭載されている各種の機器に電源を供給し、太陽電池もこの系に含まれます。姿勢制御系は衛星が常に正しい姿勢にあるよう衛星の姿勢を検知します。推進系は姿勢制御や軌道変更を行う機能を担います。構体系は衛星の形状を構成し、かつ保持します。熱制御系は、宇宙環境において搭載機器を常にある一定の許容範囲内の温度に保つことを主な機能としています。
人工衛星の構造と設計(3)
人工衛星の外形と姿勢制御方式
人工衛星の外形には、球形や円筒形、箱形、バス機器とミッション機器を上下に分けた複数ミッションモジュール型(MMS)などがあります。衛星の形は、搭載される機器の大きさや重量、姿勢制御方式、使用される打上げロケットなどを考慮して決定されます。一般的には、姿勢制御に「スピン安定方式」を採用する場合には円筒形または多角柱形、「三軸制御方式」を採用する場合には箱形の衛星となります。
人工衛星の電力源
人工衛星の電力源には、一般に太陽電池と蓄電池が使用されます。衛星が太陽の日射を受けている間は電力は太陽電池より供給され、太陽光から隠れたところを飛行するときには蓄電池を利用します。太陽電池そのものは、「スピン安定方式」の衛星では本体表面に、また「三軸制御方式」では本体から「太陽電池パドル」を設けその表面に貼られます。
宇宙用の太陽電池としては、一般にシリコン単結晶の半導体が用いられます。劣化防止のために表面をカバーガラスなどで被覆し、軌道上における電子や陽子の被爆量を抑えています。近年では耐放射線性の向上、重量軽減のための薄型化などが図られています。また、変換効率の高いガリウムひ素セルなども宇宙用として用いられています。変換効率はシリコン太陽電池で約14%、ガリウムひ素太陽電池で約17%です。
人工衛星の構造と設計(4)
人工衛星に利用される材料
人工衛星には、きびしい宇宙環境に耐えられる強い構造や、小型・軽量であることが要求されます。これらの条件を満たすために、構造材料は、一般機器の部品ではあまり使用されない特殊な材料を使用しています。主には衛星を軽量化するアルミニウム合金や繊維強化プラスチック、また使用する部位によって強度のあるステンレス鋼やチタンなどが利用されます。電子部品には、超真空中でもガスを発生しない特性をもつメタルケースやセラミックスなどが使われます。
人工衛星に搭載される電子部品
人工衛星に搭載される電子部品は、打上げ時や軌道変更時に受ける振動や衝撃に耐え、超真空や極端な温度変化といった過酷な宇宙環境で使用することができなければなりません。また、衛星の運用中にいったん故障を起こしても、地上の電化製品と異なり簡単に交換することはできませんから、高い信頼性が求められます。太陽電池の発電能力には限界がありますから、消費電力が少ないことも人工衛星用の電子部品に求められる条件です。
また、人工衛星は太陽から噴出してくる高エネルギー粒子を直接受けるほか、飛行する軌道によってはそれらが多く存在するバン・アレン帯を通過するため、強い放射能の影響を受けます。その影響から電子部品の機能が低下するのを防ぐため、アルミケースで覆うなどの対策が施されます。
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