事業再生ADRの申請
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 12:29 UTC 版)
「林原 (企業)」の記事における「事業再生ADRの申請」の解説
当初、林原は会社更生法ではなく、中国銀行および西村あさひ法律事務所に後押しされる形で事業再生ADRの成立を目指すもADR不成立で会社更生法適用になる。債権者全会一致が原則でハードルが高いADRと、ADR不成立時の最終手段である会社更生法の2択が提示され、民事再生法は提示されず、ADRは西村あさひ法律事務所の松嶋英機弁護士らが日本に紹介しており、本案件で実務を担う森倫洋弁護士らチームはADRの成功事例にしたい思惑があった、と林原グループ前専務取締役の林原靖は語っている。 ADR不成立の原因として債権者の銀行団のうち、メインの中国銀行およびサブの住友信託銀行の2行と、その他の銀行の利害が激しく対立したことがあげられるという。 2011年1月11日のADR第1回会合では、席上、代表取締役 林原健が謝罪し、弁護士からは経営責任をとって社長の林原健、専務の林原靖、ほか経理担当役員2人が退任する旨の報告があった。P/L上、業績快調でありながら、弁護士団が全役員の退任を勝手に決めたのは、銀行のADR同意を取りつけるための有効な取引材料にするためだったという。 中国銀行と住友信託銀行を除いた銀行団からは、林原への非難や罵声は全くなく、中国銀行と住友信託銀行への憤懣が激しく噴出したという。JR岡山駅南所有地に中国銀行が、林原美術館に住友信託銀行が、それぞれ抵当権を設定していることが明らかになったことと昨年末からADR申請まで中国銀行と住友信託銀行の2行のみで情報を独占したことに非難が集中した。さらに中国銀行と住友信託銀行の間のスタンスの違いも状況を難しくした。銀行がADR成立のためには担保登記の修正について柔軟な姿勢を示したのに対し、住友信託銀行は、「ADR成立を前提」としない限り担保登記の修正に応じないとの姿勢を変えず、この住友信託銀行の態度に他のメガバンクからの非難が集中した。他の銀行団のうち、三菱東京UFJ銀行は以前から十分な有価証券担保をとっていたので穏健な態度、逆に三井住友銀行には十分な担保が提供されておらず苛立ちを強めていた。みずほ銀行は自身の債権額はそれほどでもなかったが、シンジケート・ローンの幹事銀行として中小銀行を束ねるという役割があったという。1回目の会合の最後に、進行役の西村あさひ法律事務所の森倫洋弁護士から銀行団に第2回目の会合の出席の釘を刺し、初会合は終了した。 事業再生ADRの利点は、関係者の守秘義務を前提とし秘密裏に話し合いが持たれることで一般債権者の不安を煽らないという点にあるにも関わらず、2011年2月2日に第2回目のADR会合の前に新聞各紙に林原のADR申請がスクープされてしまった。報道内容は債権者各行に配布したADR説明用の資料を基にしていたこと、現実的に合計300部ほどの製本を銀行団に配ったことから、ADRの秘密保持の実効性はお粗末なものであり、中国銀行と住友信託銀行の思惑に不満であったいずれかの銀行関係者が確信犯的にマスコミに流したのが報道の理由であったと推測されたという。 この時点で秘密保持という事業再生ADRの利点は崩れており、2011年2月2日の第2回会議では東京・日本橋の会場まわりに多数の取材陣が駆けつけていた。 会議においては住友信託銀行は相変わらず「出口論」を変えるつもりはなく、さらに他の銀行を前にして、「自行をかつてのメインバンクとかサブメインというふうに考えずに、他の一般メガバンクと同等に扱ってほしい」などと発言し、他行から住友信託銀行のこの態度への不信が大きな焦点となったが、住友信託銀行は自行の駆け込み保全処理についての正当性を述べるばかりで、最後まで「出口論」を変えようとはしなかった。当然議論は紛糾し、賛否の大激論が巻き起こった。 会合に参加した林原靖によると、そこに突然、出席者の一人が立ち上がり、「皆さん、皆さん、お静かに願います。当行本部からたったいま、わたしの携帯に連絡が入りました。 西村あさひ法律事務所の弁護士が、東京地方裁判所に林原の会社更生法の申請をおこなったとのことです」との声が入り、会場からは一斉に「ウオーッ!」という悲鳴に近い叫び声と、銀行団から罵声と怒声の入り交じった会話で、会場は混乱のきわみに陥ったという。 なおこの更正法申立は平成23年2月2日に林原の代表取締役に就任したとされる福田恵温からの委任によってなされたとされているが、これは会社法319条1項に基づき林原の全株主の同意によって行われたと記録されている。しかし、林原靖によると林原健、靖は同日東京での債権者集会に朝より出ており、福田による同申立は西村あさひ法律事務所による不実、私文書偽造の疑いが濃厚である旨を指摘している。なお林原靖は2016年2月現在、著書において西村あさひ法律事務所の「○○弁護士(更正法の申請代理人であった森倫洋弁護士であると思われる)」に対して、説明義務違反に基づく懲戒請求を行っている。 西村あさひ法律事務所の次席の柴原多弁護士および郡谷大輔弁護士が発言を引き継ぐも、銀行団はなおも「われわれは納得できない。なぜこんなことになってしまったのか。いずれハッキリさせてもらうからな。いや、そうしてもらわねば困る。席を改め時間をかけてでも徹底的に追及するぞ」と大声で叫びつづけた。しかし、西村あさひ法律事務所が先走り的に行った会社更生法申請の事実は変えられず、二時間以上にわたる銀行団の大議論は、第一回にして「ADR不成立」の結論をもってここに終結することとなった。
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