上告審決定
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「千日デパートビル火災事件」の記事における「上告審決定」の解説
1990年(平成2年)11月29日、最高裁判所第一小法廷(裁判長裁判官・大堀誠一)で開かれた上告審において、裁判官全員一致の意見で決定が言い渡され、主文は「本件上告を棄却する」とされ、最高裁は原審判決を支持した。これにより3被告人の有罪が確定した。 最高裁判所は、被告弁護人1名の上告趣意のうち、憲法38条3項違反を主張したことについて、被告人C(プレイタウン支配人=同店防火管理責任者)の捜査段階での自白調書のみによって同被告人を有罪にしたものでないことは明らかであるから前提を欠く、とした。また、その他の主張については、意見を言うことを含めて、実質は事実誤認および法令違反の主張であり、さらに被告弁護人4名の上告趣意についても、事実誤認および単なる法令違反の主張であるから、いずれも適法な上告理由に当たらない、とした。最高裁判所は、決定にあたり被告人A(日本ドリーム観光・管理部管理課長=千日デパート防火管理者)、同B(千土地観光・代表取締役業務部長=プレイタウン管理権原者)、同Cの過失責任について、職権によって検討を加えた。 被告人Aの過失について (論旨)最高裁は被告人Aの過失について「千日デパートを経営管理する日本ドリーム観光は、夜間閉店後に店内工事が行われる場合、売場に大量の商品や可燃物が置かれている状況では火災が発生した場合に延焼拡大する恐れがあったので、可能な限りの防火対策を講じる注意義務があった。防火区画シャッターを可能な範囲で閉鎖し、保安係員を工事に立ち会わせたうえで、万が一に火災が発生した際には速やかに同シャッターを全て閉鎖し、消火作業を行うと同時にプレイタウンに火災発生を通報することで被害は最小に抑えられるのであり、右限度において同社は注意義務を負っていた。そのうえで被告人Aには、デパートビルの防火管理者として防火対策を実行する権限および履行可能性があったのであるから、各注意義務に違反して本件結果を招いた同被告人には過失責任がある」とした。 原判決では「本件火災の拡大を防止するためには、デパート閉店後に1階から4階までの売場内の防火区画シャッターを全部閉め(3階の自動降下式の4枚を除く)、工事が行われている場合は、工事に関連する防火区画シャッターのみを開け、保安係員を工事に立ち会わせ、あらかじめ開けておいたシャッターについては、いつでも閉鎖できるような体制を整えておくべきであり、被告人Aが右義務を履行できなかったような事情は認められない」として、その注意義務を肯定した。 閉店後の千日デパートで火災が発生した場合、従業員が不在になった各売場には多量の商品や可燃物が置かれているのであり、また5名体制の保安係員による防火および防犯等の保安管理は脆弱な状況下にあったので火災が容易に拡大する恐れがあった。したがって日本ドリーム観光としては、火災の拡大を防止するために法令上の有無を問わず、可能な限り様々な措置を講ずるべき注意義務があったことは明らかである。本件火災に限定して考えると、夜間工事が行われていた3階売場の防火区画シャッターを一部を除き全部閉鎖し、保安係員またはこれに代わるものを工事に立ち会わせ、出火に際しては直ちに出火場所側の防火区画シャッターを閉める措置を講じるとともに、プレイタウン側に火災発生を連絡する体制を採っておきさえすれば、煙は防火区画シャッターで区切られた部分に封じ込められ、7階プレイタウンへの煙の流入量を減少させることができたはずであり、保安係員またはそれに代わるものが保安室を経由してプレイタウン側に火災発生の連絡が入ることと相俟って、同店の客及び従業員を避難させることができたと認められる。日本ドリーム観光としては、すくなくとも右の限度において注意義務を負っていたと言うべきであり、原判決においても肯定されていると解される。 日本ドリーム観光の千日デパート管理部管理課長であり、千日デパートの防火管理者である被告人Aとしては、自らの権限により、上司である管理部次長の指示を求め、工事が行われる本件ビル3階の防火区画シャッター等を可能な範囲で閉鎖し、保安係員またはこれに代わる者を立ち会わせる措置を採るべき注意義務を履行すべき立場にあったと言うべきであり、右義務に違反し、本件結果を招いた被告人Aには過失責任がある。 —最高裁判所第一小法廷、判例時報1991(1368) 被告人Cの過失について (要旨)最高裁は被告人Cの過失について「右被告人はプレイタウンの防火管理者として同店に滞在する客や従業員らに対して火災発生の際に避難誘導するなどして安全を担保する注意義務がある。平素から避難経路を策定し従業員を指導したうえで避難誘導訓練をおこない、救助袋の保守管理と同器具を使用した避難訓練をおこなう注意義務もあった。本件火災に際してデパート保安係から火災通報を受けられなかった事情があったとしても、各注意義務を怠った被告人Cの過失は明らかである」とした。 被告人Cは、プレイタウンの防火管理者として、平素から救助袋の維持管理に努め、従業員を指揮して客らに対する避難誘導訓練を実施し、煙が店内に侵入した場合、従業員は速やかに客らをB階段に誘導し、あるいは救助袋を使用して避難させることにより、客らに対して避難の遅延による事故発生を未然に防止すべき注意義務があった。 被告人Cは、あらかじめ階下からの出火を想定し、避難のための適切な経路の点検をおこなっていれば、B階段が安全確実に地上に避難できることができる唯一の通路であるとの結論に達することは十分可能であったと認められる。被告人Cは、建物の高層部で多数の遊興客を扱うプレイタウンの防火管理者として、本件ビルの階下において火災が発生した場合、適切に客らを避難誘導できるように、平素から避難誘導訓練を実施しておくべき注意義務を負っていたと言うべきである。したがって、保安係員らがいずれもプレイタウンに火災の発生を通報することを全く失念していたという事情を考慮しても、右注意義務を怠った被告人Cの過失は明らかである。 —最高裁判所第一小法廷、判例時報1991(1368) 被告人Bの過失について (要旨)最高裁は被告人Bの過失について「右被告人はプレイタウンの管理権原者であり、同店の防火責任者である部下の被告人Cと同様の注意義務があった。また被告人Cが防火管理業務を適切に実施しているかを指導監督する注意義務があったが、それを怠った被告人Bの過失は明らかである」とした。 被告人Bは、プレイタウンの管理権原者として、同店の防火管理者である被告人Cとともに、右被告人が負っていたのと同様の注意義務があった。被告人Bは、救助袋の修理または取替えが放置されていたことなどから、適切な避難誘導訓練が平素から十分に実施されていないことを知っていたにも関わらず、管理権原者として、防火管理者である被告人Cが防火管理業務を適切に実施しているかどうかを具体的に監督すべき注意義務を果たしていなかったのであるから、この点で被告人Bの過失は明らかである。 —最高裁判所第一小法廷、判例時報1991(1368) 以上の検討結果および原審判決を支持したうえで、最高裁判所は3被告人について、最終的な決定を言い渡した。 最終結論 よって、刑事訴訟法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 — 最高裁判所第一小法廷、判例時報1991(1368) →冒頭インフォボックス「最高裁判所判例」も参照のこと。
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