レイプ神話とポルノ規制論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 06:45 UTC 版)
「性的対象化」の記事における「レイプ神話とポルノ規制論」の解説
「ポルノや性暴力、(なんらかの意味で強制的な)売買春、強制的結婚などが女性を非人間化している」という論点のベースとなったのは「レイプ神話」である。1975年出版の ジーン・マックウェラー『レイプ《強姦》―異常社会の研究』(ASIN B000J9JF62) スーザン・ブラウンミラー(Susan Brownmiller)『レイプ・踏みにじられた意思(原題:Against Our Will)』(ISBN 4326652306) において、彼女たちは、性暴力に対する誤解と偏見を「レイプ神話」として告発した。特に『レイプ・踏みにじられた意思』は「レイプの原因は性欲ではなく、男性グループの女性グループに対する支配である」という主張を一般的にし、2016年時点でも非常に強い影響力をもっている。 スーザン・ブラウンミラーは「人間以外の動物はレイプをしない。レイプのない文化もある。よってレイプは我々の文化の影響下のものだ。我々の文化は男性優位文化(家父長制・パターナリズム)で、男性が女性を支配する必要がある。使われるのがペニスを武器にしたレイプだ」「レイプはセックスや性欲の問題ではなく、文化の影響によって男性はレイプへの指向を学習し、女性に対する暴力を美化・正当化する」と主張した。ここからフェミニストの人々が唱える様々なアイディアが派生した。たとえば「男性は暴力的ポルノなどからそうした支配欲を学ぶので、暴力ポルノは規制するべき」などである。近年では暴力ポルノに限らず、児童向け作品にも批判が及んでいる。 2017年12月、フェミニストで大阪大学教授の牟田和恵はTwitterで、「白雪姫とか眠り姫とかの『王子様のキスでお姫様が長い眠りから目覚めた』おとぎ話、(中略)意識のない相手に性的行為をする準強制わいせつ罪です」とし、「こんなおとぎ話が性暴力を許している」「王子というだけで突然女性にキスする、なんて話、気持ち悪くないですか?男の子にそんなDV男に育ってほしくないし、女の子にはそんな無力な被害者になってほしくないですよね?ひたすら受け身の女の子が幸せになる、みたいな教訓ですか?」などと発言し炎上した。ブログでは「大阪の電車内で、眠っている女性にキスをした男が準強制わいせつの疑いで逮捕されるという事件があった」「『王子様』とはいえ見知らぬ男。眠っているところに勝手にキスするなんて、このニュースの準強制わいせつ容疑者と大して変わりはないのでは?」「物語のなかで、意識のない女性に性的行為を行う性暴力がロマンティックにさえ描かれてきたことが、女性の意思を無視して性的行為を行うことの犯罪性を見過ごしてしまう一因にもなってきた」と指摘した(なお、刑法学的に言えば、「眠っている」のではなく「昏睡状態にある」者を覚醒させるのは医療行為であるから、正当業務行為であり違法性は阻却されるから同罪は成立しない)。 こうした意見の元となったスーザン・ブラウンミラーの主張について江口聡は1990年代に犯罪学・動物行動学・進化心理学から激しい批判を受け、アカデミックな領域ではすでに人気がないとしている。 動物行動学者のランディ・ソーンヒル(Randy Thornhill)とクレイグ・パーマー(Craig T. Palmer)の共著『人はなぜレイプするのか―進化生物学が解き明かす』(ISBN 4862280064)/原題『A Natural History of Rape』(ISBN 0262700832) 実験心理学者・認知心理学者のスティーブン・ピンカー(Steven Pinker)『人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) 』(ISBN 4140910127) これらの本では、フェミニストやその他の従来の社会科学におけるレイプの動機・原因理論に対する反論が行われ、 『人はなぜレイプするのか』では反論が本の半分を占めた。 江口聡は「レイプの動機は性欲ではなく支配欲」などを何の留保もなしに言ってる人々は、1990年代以降のことはなにも勉強してないと思われるため、注意が必要であるとしている。また、ポルノ消費と性暴力の増加を裏付ける科学的なデータは今のところ見つかっていないか、逆の相関があるとしている。たとえば、ポルノをよく見る人々は性暴力をふるう傾向がある、ポルノ消費が盛んな地域では性犯罪が多いなどの科学的データはなく、ポルノが手に入りやすい地域ほど性犯罪は少ないと見られている。 2018年時点において、国内のフェミニスト主流の性的モノ化・性の商品化批判はイデオロギー化し、実態と離れつつあり、性的な問題について抽象的な思いこみで議論しており、危険であると思われる。現実の我々がどんな生活をしているのかを把握しつつ議論することが重要で、社会学、心理学、経済学、生物学など広く調査をおこなうべきである。 神田外語大学准教授の飯島明子は、牟田和恵の「おとぎ話で意識のない女性に同意なくキスする王子様は、電車内で眠っている女性にキスした準強制わいせつの男と大して変わらない」「このようなおとぎ話は男の子をドメスティックバイオレンス男に育て、女の子を無力な被害者にする一因となる。文化に根差した差別であり、変えられていくべきだ」という意見に対し、Twitterで「王子様のキスで目覚める話も、娘が恋人を助けるたに自分の小指を切り落とす話も、カエルが王様になる話も、空からお金が降ってくる頓知話も、龍退治の騎士の話も、子供は何でも読むと良いよ。山ほど読むと、『作りごと』と『現実』、『現実』と『真実』の区別を自分でつけるようになるから」「私は『物語の力』と子供の判断力を信頼しています」と述べた。
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