リチウムイオン電池の開発
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/13 07:35 UTC 版)
1980年代、携帯電話やノートパソコンなどの携帯機器の開発により、高容量で小型軽量な二次電池(充電可能な電池)のニーズが高まったが、従来のニッケル水素電池などでは限界があり新型二次電池が切望されていた。一方、陰極に金属リチウムを用いたリチウム電池による一次電池は商品化されていたが、金属リチウムを用いた二次電池は、充電時に反応性の高い金属リチウムが針状・樹枝状の結晶形態(デンドライト)で析出して発火・爆発する危険があり、また、デンドライトの生成により表面積が増大したリチウムの副反応により、充電と放電を繰り返すと性能が著しく劣化してしまうという大きな難点があるために、現在でもまだ実用化はされてはいない。 吉野は、白川英樹(2000年ノーベル化学賞受賞者)が発見した電気を通すプラスチックであるポリアセチレンに注目して、それが有機溶媒を使った二次電池の負極に適していることを1981年に見いだした。さらに、正極にはジョン・グッドイナフらが1980年に発見したリチウムと酸化コバルトの化合物であるコバルト酸リチウム (LiCoO2) などのリチウム遷移金属酸化物を用いて、リチウムイオン二次電池の原型を1983年に創出した。 しかし、ポリアセチレンは真比重が低く電池容量が高くならないことや電極材料として不安定であるという問題があった。そこで、炭素材料を負極として、リチウムを含有するLiCoO2を正極とする新しい二次電池であるリチウムイオン二次電池 (LIB) の基本概念を1985年に確立した。吉野が次の点に着目したことによりLIB(リチウムイオン・バッテリー)が誕生した。 正極にLiCoO2を用いることで、正極自体がリチウムを含有するため、負極に金属リチウムを用いる必要がないので安全である 4V級の高い電位を持ち、そのため高容量が得られる 負極に炭素材料を用いることで、炭素材料がリチウムを吸蔵するため、金属リチウムが電池中に存在しないので本質的に安全である リチウムの吸蔵量が多く高容量が得られる また、特定の結晶構造を持つ炭素材料を見いだし、実用的な炭素負極を実現した。加えて、アルミ箔を正極集電体に用いる技術や、安全性を確保するための機能性セパレータなどの本質的な電池の構成要素に関する技術を確立し、さらに安全素子技術、保護回路・充放電技術、電極構造・電池構造等の技術を開発し、さらに安全でかつ、出力電圧が金属リチウム二次電池に近い電池の実用化に成功して、ほぼ現在のLIBの構成を完成させた。1986年、LIBのプロトタイプが試験生産され、米国DOT(運輸省、Department of Transportation)の「金属リチウム電池とは異なる」との認定を受け、プリマーケッティングが開始された。 しかし、商品化に1993年まで掛かった吉野とエイ・ティーバッテリ-(当時、旭化成と東芝の合弁会社、2004年解散)は出遅れ、世界初のリチウムイオン二次電池(LIB)は西美緒率いるソニー・エナジー・テックにより1990年に実用化、1991年に商品化された。 現在、リチウムイオン二次電池 (LIB) は携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ・ビデオ、携帯用音楽プレイヤーをはじめ幅広い電子・電気機器に搭載され、2010年にはLIB市場は1兆円規模に成長した。小型で軽量なLIBが搭載されることで携帯用IT機器の利便性は大いに増大し、迅速で正確な情報伝達とそれに伴う安全性の向上・生産性の向上・生活の質的改善などに多大な貢献をしている。また、LIBは、エコカーと呼ばれる自動車 (EV, HEV, P-HEV) や鉄道などの交通機関の動力源として実用化が進んでおり、電力の平準化やスマートグリッドのための蓄電装置としても精力的に研究がなされている。他には、ロケット、人工衛星、小惑星探査機はやぶさ・はやぶさ2、こうのとり (HTV)、国際宇宙ステーション (ISS)などの宇宙開発分野、そうりゅう型潜水艦11番艦のおうりゅうなどの軍艦にも搭載されている。愛車はリチウムイオン電池ではなくニッケル水素電池を採用されているトヨタ・アクア。
※この「リチウムイオン電池の開発」の解説は、「吉野彰」の解説の一部です。
「リチウムイオン電池の開発」を含む「吉野彰」の記事については、「吉野彰」の概要を参照ください。
- リチウムイオン電池の開発のページへのリンク