ユダヤ人共同体内部における反シオニズム
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「反シオニズム」の記事における「ユダヤ人共同体内部における反シオニズム」の解説
シオニズムが始まった当初、超正統派のヒレル・ツァイトリンやジョエル・テイテルバウム、マルティン・ブーバーなどの宗教的ユダヤ人は、ユダヤ人か否かに関わらず、世俗的なイデオロギーであるナショナリズムには反対の立場を採り、シオニズムに対する闘争を展開した。超正統派のEdah HaChareidisもシオニズムを批判している。 ユダヤ人共同体も一枚岩ではなく、集団内外でも様々な反応が見られる。こうしたことから、世俗的ユダヤ人と宗教的ユダヤ人との間に原理的な相違が見られる以上、世俗的ユダヤ人がシオニズム運動に反対する理由は、宗教的なユダヤ人のものとは大きく異なる。 第二次世界大戦以前、多くのユダヤ人はシオニズムを浮世離れした非現実的な運動と見なしていた。啓蒙主義時代のヨーロッパにおいて多くの自由主義者は、ユダヤ人が国民国家に忠誠を誓い、現地の文化に同化した上で完全な平等を享受すべきと説いた。一方、統合なり同化なりを受け入れたユダヤ人には、シオニズムがユダヤ人の市民権獲得の上で脅威に映った。 1912年に設立されたアグダット・イスラエル(Agudath Israel)は、シオニズムに対抗するユダヤ教組織であった。 1940年代にはシオニズムを批判するアメリカのユダヤ人団体American Council for Judaismが結成された。1942年5月、ビルトモア会議はパレスチナにユダヤ人共同体を設立すべきという伝統的なシオニズム政策の放棄を宣言した。 これを受け、一部シオニストの間に、パレスチナにおけるアラブ・ユダヤ連合国家樹立を支持する政党を立ち上げるなどの動きが見られた 。 しかし、シオニズムに対する態度は、第二次世界大戦を境に変貌を遂げた。ホロコーストの実態が知られると、社会主義者で終生無神論を貫いたポーランド系イギリス人ジャーナリストのアイザック・ドイッチャーを含め、1948年以前はシオニズムを批判していた者でさえ見解を改めるようになった。第二次大戦以前、ドイッチャーは国際社会主義運動に害を与えるとしてシオニズムに反対していたが、ホロコースト以後は戦前の見解を撤回し、戦後まで生存したユダヤ人に避難所を与えるのは「歴史的必然」との立場からイスラエルの建国を支持した。なお、ドイッチャー自身は1960年代以降、パレスチナ難民問題を契機として反シオニズムに回帰している。 ヨーロッパやアメリカでは、多くのユダヤ人が左派あるいは国際主義的な信念からシオニズムに反対したし、エジプトでは共産主義の影響を受けたユダヤ人反シオニズム同盟が結成された。一方で、ユダヤ人のジャック・バーンスタインはシオニズムをマルクス主義だとして批判した。ノーマン・フィンケルスタインは両親がドイツ国防軍に強制収用された経験を持っているものの、反シオニズムの立場をとっている。 またイスラエルにおいてもマツペンやハダシュといった政党を中心に、反シオニズムを標榜する組織や政治家が存在する。 イスラエルの人権擁護派イスラエル・ シャハク教授は、イスラエルはユダヤ教徒をイスラエルに呼び戻して彼らに市民権を付与する「帰還法」を掲げる一方で、故郷に戻ることを国際法上認められた500万人のパレスチナ難民の帰還を拒否する人種差別国家であり、露骨な差別主義だと批判している。 またヤコブ・ラプキンは「寛大な古き良きユダヤ教徒の姿をシオニストは侮辱した」と批判した。 アリーヤーを巡る対立 ヘブライ語で「上昇」を意味するアリーヤーという語は、ユダヤ人によるイスラエルへの帰還を表す言葉として古代より用いられてきた。中世に入ると、ナフマニデスやアイザック・ルリア、ヨセフ・カロら多くの有名なラビがイスラエルの地へ戻った。この他世界各地で離散を余儀なくされているユダヤ人も、メシアの時代に果たされるであろう帰還を祈り、その願いは数世代にわたって受け継がれていった。しかしユダヤ啓蒙主義時代には、改革派がアリーヤーを含め伝統的な信条を時代に合わないものと見なし破棄した。その後、イスラエルへのユダヤ人入植者が増加すると、従来の宗教上の信条と並行してイデオロギー的政治的配慮から、アリーヤーが再び脚光を浴びるようになる。 ただ、敢えて離散状態を選択するユダヤ人も少なからず存在することから、アリーヤーへの支持が常に厚いわけでなく、現代のシオニズム運動もそれ程一般的ではない。とは言え、正統派や保守派、近年では改革派に至るまで、シオニズムは一定の支持を得ているのが現状である。
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