ミサオノキ = Aidia henryi とされるまでの経緯
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「ミサオノキ」の記事における「ミサオノキ = Aidia henryi とされるまでの経緯」の解説
ミサオノキに対応する学名が現在の Aidia henryi (E.Pritz.) T.Yamaz.(あるいはその基となった学名、つまりバシオニム basionym である Randia henryi E.Pritz.)とされるまでには紆余曲折があった。まず牧野富太郎は1890年にこの木に初めて「みさをのき」の和名を与えると共に、その学名を Randia densiflora Benth. とした。牧野は後の1944年に、これは自身が採取した標本を1888年にロシアの植物学者マクシモビッチの許へ送って鑑定してもらった結果に基づくものであったということを明かしており、誤同定であったと断じているが、その際にフリードリッヒ・アントン・ヴィルヘルム・ミクェルの Annales Musei Botanici Lugduno-Batavi 第4巻第5図A に描かれている図版が日本産のミサオノキと似ていることを引き合いに出し、「Maximowicz 氏ガ之レヲ間違ヘタノモ無理ハナイ」と擁護している。この誤同定は牧野自らの手による1926年の新品種の記載(参照: #Randia densiflora f. angustifolia Makino)や1940年に発行された『牧野日本植物図鑑』にも反映されてしまっている。また 牧野 (1890) を引用した形跡が特に見られない文献(しかも海外のものも含む)でも誤って Randia densiflora とされた例が見られた。1944年、牧野は真正の Randia densiflora が5数花であるのに対し、日本産のミサオノキの花は4数花である点のほか、花色は淡黄色であってクリーム色ではない点、萼片はさらに鈍角で緑色、しかも早落性であるといった差異を指摘し、後述の Randia nipponensis を新種として発表した(なおそれまでミサオノキとしてきた Randia densiflora には、この時新たにミサヲノキモドキという和名を与えている)。そして1949年に『牧野日本植物図鑑』の改訂版を出した際に Randia nipponensis をAidia属に組み替え、Aidia nipponensis (Makino) Makino とした。しかしこれとは別に Aidia henryi(1970年以前の段階では Randia henryi)を指すべきところで Randia cochinchinensis (Lour.) Merr. を用いてしまう動きも1936年以降に日本・海外を問わずに見られた。そして正宗厳敬は1938年に Randia densiflora を含め、今日キュー植物園系データベース(Govaerts et al. (2021))でAidia属の別種のものとされている様々なシノニムを Aidia cochinchinensis に属するものとしてしまった。正宗は1955年にミサヲノキモドキ(Randia densiflora)を Aidia densiflora に組み替えたが、彼自身はこれをミサオノキであると考え、そのシノニムに Randia cochinchinensis を置くという扱いをしていた。大井次三郎も1965年の自著でミサオノキを Randia cochinchinensis とし、そのシノニムに Randia densiflora のみならず Stylocoryne[正しくは Stylocoryna] racemosa Cav. や Randia nipponensis を置き、後に Tirvengadum & Sastre (1986) や Ridsdale (1996) が別種として扱うことになる分類群を一緒くたにしてしまっている。さらに1989年に『日本の野生植物』(平凡社)でアカネ科を担当することになる山崎敬も日本産のミサオノキは Aidia cochinchinensis で、Randia henryi はあくまでも中国南部にのみ分布する種と考えており、その認識のまま1970年に当時東アジア産のRandia属として知られていた種の見直しの一環として R. henryi を Aidia henryi へと組み替えた。結局山崎は『日本の野生植物』ではミサオノキを Randia cochinchinensis とし、属を細分化した場合はAidia属となるものとして掲載している。Aidia属などアカネ科の数属の見直しを行った Tirvengadum & Sastre (1986) は Randia densiflora について、また東南アジアやマレー群島区系(ニューギニア、ソロモン諸島も含む)に分布するAidia属の見直しを行った Ridsdale (1996) は Randia densiflora と Randia cochinchinensis の両方について、Aidia henryi のことを指すつもりで誤って用いられた例があることを指摘した。そして同時に Ridsdale (1996:139–142) は対象とした地域の範囲内に見られるAidia属および関連属を判別するための検索表を設定しているが、その中からここまでに触れた種に関連する要素と、南西諸島に自生が見られるシマミサオノキ(Aidia canthioides (Champ. ex Benth.) Masam.)に関連する要素を抜き出すと以下の通りとなる。なお、分布域の地域区分に関しては Brummitt (2001) に従うこととする。 1.1a. 花序が退化して短い密散花序(英: fascicle)となり、ほとんど分枝しない…… シマミサオノキ Aidia canthioides (Champ. ex Benth.) Masam.(シノニム: Fagerlindia canthioides (Champ. ex Benth.) Tirveng. ex Ridsdale)分布: 中国(南中央部: 雲南省; 海南省; 南東部: 広東省、旧広西省、福建省、香港)、南西諸島(奄美大島、沖縄)、台湾、ベトナム。 1b. 花序はよく発達し、明らかな分枝が見られる…… 2. へ 2.2a. 4数花である…… ミサオノキ Aidia henryi (E.Pritz.) T.Yamaz.(シノニム: Randia henryi E.Pritz.、Randia nipponensis Makino など)分布: 中国(南中央部: 雲南省、貴州省、湖北省、四川省; 南東部: 広東省、旧広西省、江西省、江蘇省、湖南省、浙江省、福建省、香港)、日本、台湾。後述のシノニム Aidia merrillii (Chun) Tirveng. も含めるとさらに海南省、ベトナム、タイにも分布するということになる。 2b. 5数花である…… 3. へ 3.3a. 花序が扇状集散花序様(英: cincinnoid)で、花が最末枝(英: ultimate branches)上になり、基本的に1つの花が花序の節ごとにつく; 軸に無数の苞が見られる…… Aidia racemosa (Cav.) Tirveng.(シノニム: Randia suishanensis Hayata、Stylocoryna racemosa Cav.)分布: 中国(海南省)、タイ(半島部)、マレー半島、クリスマス島、ジャワ、小スンダ列島、スラウェシ、フィリピン、モルッカ諸島、ニューギニア、ソロモン諸島(ガダルカナル、レンネル、ンゲラ諸島)、オーストラリアなど 3b. 花序は基本的に2出集散花序で、花が最末枝上になるが、基本的に2つの花が花序の節ごとにつく; 苞同士の間には分岐ごとに大きな間隔が見られる…… 4. へ 4.4a. 花糸が有毛である…… Aidia cochinchinensis Lour.(シノニム: Randia cochinchinensis (Lour.) Merr.)分布: 中国(南中央部: 雲南省; 海南省)、ベトナムなど 4b. 花糸は無毛である…… ミサヲノキモドキ Aidia densiflora (Wall.) Masam.(シノニム: Randia densiflora (Wall.) Benth.)分布: インド(ケーララ州、北東部)、アンダマン諸島、ビルマ、タイ、マレー半島、スマトラ(リアウ諸島州を含む)、ボルネオ(インドネシア領カリマンタン、マレーシア領サラワク州)など 以上のように、牧野もリズデイル(スペイン語版)も島嶼部を含まない日本産の種に関しては近縁種と比較して4数花であるという特徴を区別のための要素として挙げている点で一致している。
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