マートンによって明らかにされた官僚制の逆機能(官僚主義)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 14:54 UTC 版)
「官僚制」の記事における「マートンによって明らかにされた官僚制の逆機能(官僚主義)」の解説
ヴェーバーが詳しく言及しなかった近代官僚制のマイナス面については、ロバート・キング・マートン、アルヴィン・グールドナー、フィリップ・セルズニック、ハロルド・ラズウェルなどのアメリカの社会学者・政治学者たちの官僚制組織の詳細な研究によって明らかにされた。 なかでも、マートンによる「官僚制の逆機能」についての指摘は有名である。 規則万能(例: 規則に無いから出来ないという杓子定規の対応) 責任回避・自己保身(事なかれ主義) 秘密主義 前例主義による保守的傾向 画一的傾向 権威主義的傾向(例: 役所窓口などでの冷淡で横柄な対応) 繁文縟礼(はんぶんじょくれい)(例: 膨大な処理済文書の保管を専門とする部署が存在すること) セクショナリズム(例: 縦割り政治、専門外管轄外の業務を避けようとするなどの閉鎖的傾向) これらは、一般に官僚主義と呼ばれているものである。例えば、先例がないからという理由で新しいことを回避しようとしたり、規則に示されていないから、上司に聞かなければわからないといったようなものから、書類を作り、保存すること自体が仕事と化してしまい、その書類が本当に必要であるかどうかは考慮されない(繁文縟礼)、自分たちの業務・専門以外のことやろうとせず、自分たちの領域に別の部署のものが関わってくるとそれを排除しようとする(セクショナリズム)、というような傾向を指し示している。 なお現代では、民間企業の同様の組織システムの問題点については「大企業病」と呼ぶことも行われている。 R.K.マートンの研究書『社会理論と社会構造』(Merton, 1968)に依拠し.官僚制の「逆機能」を検討すれば,以下の(1)~(5)の事案が確認されねばならない. (1)「訓練された無能力」(trained incapacity) 官僚制は訓練による規律によって規則順守の組織運営を実現する.しかし訓練は過去の成功事例から,意思決定を規則化,標準化・ルーティン化する.ゆえに職務上の予測された問題に試行錯誤を要せず,規則を適用し,誰でも職務遂行が可能となる.しかし従来と異なる問題状況,規則制定時に想定しなかった状況での官僚制の対応は不適切な結果を導く.環境が変化しても,従来通り規則を順守すれば,組織目標の達成を妨げ,官僚制は「訓練された無能力」を露呈する.この問題はマートンが指摘するように「アンビバレント」(ambivalent)であり(Merton,1968:252),組織の矛盾過程を意味する.どのような制度・規則も何を達成でき,何を達成できないかの問題がある.ゆえに官僚制の技術的卓越性だけでなく,その限界の認識が重要となる(Merton,1968:252). (2)「目的の転移」(displacement of goal) 官僚制では組織目的の達成のため規則が制定される.しかし規則の順守自体が組織目的の達成より優先され,手段であった規則の順守が目的であるかのような対応が行われる.これが「目的の転移」である(Merton,1968:253).規則の順守は予測可能性を高める.その結果,組織目的の達成は妨げられる. (3)規則への「過同調」(over-conformity) 「過同調」は,組織目的の達成のため規則が制定されるが,「法規万能主義」のように規則から逸脱する意思決定が回避される.前例のない意思決定,規則の枠を超える行動は困難となる.組織目的の達成が妨げられても規則への同調が優先される.マートンは,この問題を継続的な訓練による規則順守への心情(sentiment)を原因とし,「かかる心情から自己の義務に対する献身」によって,非効率でも「きまりきった活動が規則正しく遂行」(Merton,1968:253)される. (4)「繁文縟礼」(red tape) 官僚制の特徴である「文書主義」では,あらゆる指令と意思決定はすべて文書化され,「繫文縟礼」となる(Merton,1968:253).一定の書式の文書のあること,文書に一定の文言が明記され,日付,署名,捺印のあるなしが問題とされ,そのような文書がなければ,手続きが進行せず,手続きは煩雑化し,執行は遅延する.この結果,文書作成それ自体が職務となりかねない. (5)「セクショナリズム」 官僚制の職員は安定的な雇用関係から,同じ職場の職員と利害が共通し,先任順に昇進し,職員同士かばい合い,攻撃は最小化する(Merton,1968:255).職員たちは内部集団で結束する(Merton,1968:257).この結果,公益や市民・顧客より,自分たちの利害を優先する.職場集団の利益が十分に保障されない場合,上司(大臣)の処理できない大量の資料や文書を提出し,必要な文書を隠ぺいし,情報の提供や報告を遅延,回避させる(Merton, 1968:255).こうして自己の保身と所属部署の利益を擁護する. 以上のようなマートンの「逆機能」の指摘は,組織運営の実際の問題を多面的に描写する.理論的に重要な問題は,逆機能を発生させる官僚制の構造にある(Merton, 1968:254).ヴェーバーは,このような組織の矛盾過程を合理性と合理性,「形式」と「実質」の矛盾過程として理論化した.マートンは,この矛盾過程に非合理的な「心情」を介在させ,この点に,ヴェーバーとマートンの違いがある(村上, 2018:55).
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