インディアンと農業
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/17 06:14 UTC 版)
その一方で、1953年にアメリカ連邦政府はインディアン部族に対する経済支援策を打ち切り、インディアン農業者への支援助成金も同時に廃止されていった。こうしてインディアンの農場は荒廃の一途を辿ることとなった。もともと農耕に適した土地はすべて白人入植者のものとなっていて、彼らの保留地は地勢や土地の性質によって農耕に向いておらず、インディアンの農業はかなり制限されたものである。 モンタナ州ブリングスには、インディアンの農場主の援助と発展のための非営利団体、「部族相互農業会議(IAC)」(Intertribal Agriculture Council)の本部がある。これは1987年に創設された、本土とアラスカを含む全米84のインディアン部族を代表するインディアン組織である。IACのロス・ラシーンは、彼らインディアンの保留地では奨励金の付くトウモロコシや小麦などは育ちにくく、結局多くのインディアン農場主が家畜業に転向したと伝えている。これに対してアメリカ農務省は、彼らインディアンに対する連邦の援助の不足をその理由に挙げている。アメリカ農務省は、近年まで保留地の農場をすべてまとめて1つに見なしてきたため、こういった実情を把握するのが遅れてきた。これを農務省が改めたのは2007年度の国勢調査でようやくのことである。 アメリカのインディアン農業者の人口は、この2007年度の国勢調査の報告では約8万人で、その多くは牧場主であり、ほとんどが南西部の沙漠地帯、オクラホマ州、そしてモンタナ州に住んでいる。アメリカの白人の経営する典型的な農場規模は約400エーカー(1,619km2)であるのに対し、インディアンの農場の平均規模は1400エーカー(5,666km2)である。しかし、全米平均の白人農場の年間売り上げが13万5000ドルであるのに比べ、インディアンの農場は年あたり約4万ドルしかなく、彼らが連邦政府から受けられる農業援助の割合は、白人の39%に比べ、13%だけである。まさに「大きな土地と、小さい収入」がインディアン農場の現状である。 こういった格差是正のために35年来働いているオクラホマ州のカイオワ・コマンチ・アパッチ族保留地の農業者ミルトン・ソヴォJrは、シアトル・タイムズ紙に対し、「私たちは、大地の心と魂を私たち自身の存在と共有する文化にいます。」とし、「大地は私たちの一部であり、私たちは大地の一部なのです。常に私たちは、私たちの子供たちのぶんを残すよう教えられてきました。私たちは必要なものだけしか使いません。できればたくさんお金を稼ぎたいとは思いますが、私たちが持っているものは保存したいと思います。」と述べ、インディアン農業者は可能な限り化学物質を使用しないと説明している。つまり、トウモロコシのような大量の窒素肥料を必要とする農作物を彼らは選択しないのである。 このような状況の中、ノースダコタ州の「スタンディングロック・スー族」部族会議議長であり、農場主であるジョージ・キープスイーグル(George B Keepseagle)とその妻マリリンを筆頭原告とするインディアン農業者による集団訴訟が、1999年11月に連邦政府に対して起こされている。この法廷闘争は、キープスイーグルと農務省長官(当時)のアン・ヴェネマンの名から、「ジョージ・キープスイーグル対アン・ヴェネマン法廷戦」と呼ばれている。 この訴訟では、差別のためにインディアン農業者に対する公債や援助が不当に拒絶され、キープスイーグルの1981年から2007年までの収入において、約6億ドルが失われたと主張されている。キープスイーグルは「白人の農場主や牧場主と競争するなかで、インディアンは、飲んだくれで怠け者の役立たずとしてステレオタイプの枠にはめられる。そして、白人はここにたくさん農場を持っていて、融資を得ることができるのに、我々インディアンは融資を得ることができないのだ」とし、連邦から融資を断られたために、農場維持のため南北ダコタ州境界にある自身の農場900エーカーのうち400エーカーを売らざるを得なかったと述べている。 2009年12月8日、連邦裁判所のエメット・サリバン裁判官は、この10年越しの訴訟の和解交渉案に賛成した。これを受けて、アメリカ農務省のトム・ヴィルサック長官は、2010年秋までにはこの集団訴訟の解決を約束すると述べた。農務省は、1999年に同様の訴訟を黒人農業者たちから起こされており、当時のクリントン政権は9億8000万ドルの損害賠償を支払ってこれに決着をつけている。 この裁定を受けてアメリカ司法省は、これらインディアン農業者への援助について取り組む姿勢を見せており、農業局から、「全米部族開発協会(National Tribal Development Association)」に対してプログラム資金を支出し、彼らの農業ローンへの申し込みを援助するとしている。 モンタナ州ボックスエルダーに本部を置くこの「全米部族開発協会(NTDA)」は、「インディアンとアラスカ・エスキモーの経済活力を促進するために官民、および先住民組織と共同して、自己持続型の社会経済発展とその主導権の基礎を確立するための協力体制を開発すること」を目的に、1995年に発足した、アラスカを含む28の州に属する250のインディアン部族が参加するインディアン機関であり、非営利団体である。 しかし長年の監督官庁の不備とサボタージュによって、インディアン側から出された資料がほとんど紛失しているか受理されてきておらず、各農場に対する融資の選定基準を難しくしており、原告団は不安を募らせている。「全米部族開発協会」は、キープスイーグルの「もし融資が受けられないなどということになったら、我々は一生無駄に働くことになる。それは破滅だ」とのコメントを伝えている。
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