アウトレンジ射撃について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 05:51 UTC 版)
「大和型戦艦」の記事における「アウトレンジ射撃について」の解説
NHKの『その時歴史が動いた』にて、46センチ砲を搭載している大和は「敵の砲弾の届かないところから一方的に攻撃できることになります」という内容を語っている 大和型戦艦はパナマ運河の制限により40センチ砲搭載のアメリカ戦艦をアウトレンジする構想のもとで計画された。 1939年6月に策定された「聯合艦隊戦策」では、アウトレンジ戦法を「敵の射撃開始に先立ち一大打撃を加え」「勝敗の帰趨を決するは、帝国海軍にとり戦勝の一大要訣である。」と同戦法を重視している。 しかし直視できないアウトレンジ射撃では着弾位置の確認と補正のために飛行機観測が必要となる。長門型戦艦は昭和14年に観測機を用いた間接射撃訓練で、32,000mで12パーセントの命中率をだし 他の戦艦も高い命中率を発揮して、海軍内では観測射撃に自信をもつようになった。 但し制空権が無く観測機を飛ばせない状態ではアウトレンジ戦法は成り立たない。このため日本艦隊はアウトレンジ戦法を実施する際は「制空権を自陣営が掌握している中で行う」事が前提となり、大和型の設計もそれを前提にしたものとなっている。 こういったアウトレンジ戦法を実現するための訓練・戦術研究を経て、海軍は砲撃戦に大きな自信を抱き「艦隊同士の海戦ともなれば、アメリカ海軍の戦艦の砲が火を吐かぬ前に、その長大射程を持つ「大和」「武蔵」の46センチ主砲で、アメリカ艦隊を全滅させ得る」という確信を抱くに至った。またアウトレンジ攻撃後は決戦距離(戦艦で20-25キロメートル、20センチ砲搭載の重巡で17キロ内外)を保ちながら砲撃戦を続ける事が想定された。 1944年6月2日に大和・武蔵が距離35,000mで実施した砲撃訓練(射法は一斉打ち方)で砲弾の散布界が800m - 1000mと大きくなってしまい問題となった。だがその後の訓練により9月に行われた距離35,000m~36,000mの目標に対する全砲による斉発射撃訓練で、散布界300m(遠近)に縮小し、9月27日の砲術研究会でも「散布界著しく縮小」と報告されている。 ただし「散布界が小さい=命中率が高い」という事ではない。砲撃戦は公算射撃であり、「散布界の中に目標を捉え続ける(夾叉の状態を維持し続ける)」事が重要なのだが、目標も当然動いているので散布界が狭いと敵が変針や変速すると散布界から目標を取り逃がしやすい。特に駆逐艦などの小型高速艦艇が遠距離において絶えず変針しながら移動する場合、敵艦の動きを予想し発射しても着弾に時間を要することから命中弾を得ることが非常に難しかった。 一例としてサマール沖海戦における大和の米護衛空母群に対する砲撃を例にだすと、大和は距離32000mで射撃を開始。数回の斉射を行ったが煙幕とスコールにより目標を見失い射撃を一時中断する。その後、電探射撃を試みたものの効果は分からなかった。 日本戦艦の砲撃は約6分続き、空母は数回夾叉の状態となり、時間がたつにつれ砲撃の量と正確さはしだいに増していた 。このため「その射撃は砲術士官に望みうる最高のものであった」とのアメリカ側証言もある。 だが米軍資料では、日本艦隊の砲撃は米駆逐艦の煙幕やスコールで視界不良となると砲撃精度は急速に低下した。そのためバトルレポートには「敵の水上射撃は我々の海軍の水準より著しく劣る」「斉射の距離測定は正確だったが偏差測定が正確ではなかった。」と報告されている。観測機による測定のため、大和は観測機を2機発進させたが米戦闘機に追い払われてしまった。 アメリカ戦史研究家のRobert Lundgrenの研究調査では、大和個別での戦果は ・護衛空母ホワイト・プレインズへの砲撃は至近弾数発。右舷機関室が破壊。 ・駆逐艦ジョンストン(USS Johnston, DD-557) への砲撃は46cm砲弾3発、15cm砲弾3発被弾 と結論している。 一方、大和幹部が海戦後作成した『戦艦大和戦闘詳報 主砲電測射撃所見』では以下の通り纏められている 「砲戦用電探精度は大型艦船に対し距離精度は良好なるも方向精度不安定なるため電測間接射撃は実施せざるを建前と考え居たるも、今回の如く戦勢上実施を必要とする場合あり」 「圧倒的優勢を得な乍ら之を殲滅するまでに戦果を徹底し得ざる原因を探求する時、目下帝国海軍の水上砲戦術能力向上第一義的喫緊施策は正に電測射撃能力向上に帰すべきを痛感す。」 「即ち、我が術力(電探出現前の砲撃)の方式より看れば極度に向上し艦隊に於いて強き自信を有するにもかかわらず」「遂に存分の戦果を挙げなかったのは、一に我が電測能力貧弱の虚に乗じられたものである」『比島沖海戦並びに其の前後に於ける砲戦戦訓速報』
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