ねじとねじ回し
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/30 20:14 UTC 版)
「ドライバー (工具)」の記事における「ねじとねじ回し」の解説
16世紀のねじの作り方は、まずブランクを鍛錬し、尖らせ、丸い頭部を作る。その後弓鋸を使って頭部に溝を一本つける。最後に手作業でねじ山を切っていく。 16世紀半ばのイングランドでのねじ作りは、家内工業として興り、ミッドランド地方に集中していた。鍛冶職人が頭部の形を付けた錬鉄のブランクを作り「締め屋」に渡す。締め屋は、弓鋸を使って頭部に「刻み目」とも呼ばれる溝を掘る。その後、ねじ山別名「ウォーム」を手作業で切る。原始的な旋盤のようなものを使用する締め屋もあった。どちらにしろウォームは、目算で切るので出来あがったものに一定性は無かった。そのためコストが高く使用は少なく、錠前を留めるか蝶番、特にガーネット蝶番をねじで留める程度であった。1775年に二人のイギリス人が現在でも広く普及している背出し蝶番(鋳鉄製)の特許権を取った。この蝶番は、釘で打ち付けるとドアの開閉を繰り返すと緩んでしまうので、ねじ留めしなくてはならなかった。時同じくして、イングランド・ミッドランド地方・スタフォードシャー出身のジョブとウイリアムのワイヤット兄弟がねじ製造法の改革をした。1760年に「鉄製木ねじの効率的切り出し方法」の特許を取得した。それは、親ねじを追うピンにつなげたカッターでねじを切る自動化された作業とした。ワイヤット兄弟は、バーミンガムの北に世界最初のねじ工場を建てるが、事業は失敗に終わっている。その数年後、新しい持ち主によって背出し蝶番の普及とともに、ねじ製造業を成功させている。品質が良く価格の安いねじは、急激に普及した。その後数度の製造方法の改良により価格は安くなり、使用用途も薄い木材を留める目的で、船・家具・調度品・自動車にも使用されるようになる。英国では、1800年には年間10万本に届かなかった生産量が、60年後には700万本に増えた。 ねじは、ギムリット・ポイント(円錐状の先端部)からねじ山が始まっていないとねじの保持力が弱くなる。当初の大量生産品は、これと異なり先端は鈍く、前もってドリルで開けた穴に差し込まなければ使用できなかった。米国で最初のねじ工場は、1810年に英国製の機械を使ってロードアイランド州に建てられた。1837年からギムリット・ポイントつきねじの問題に取り組んだ特許が多く申請されている。1842年にプロヴィデンスのニューイングランド・スクリュー社のカレン・ウイップルが完全自動化の機械生産方法を発明している。その7年後、先端の尖ったねじの製造法で特許を取っている。トーマス・J・スローンの考案した先端の尖ったねじの製造法は、アメリカン・スクリュー社の主力商品に使われた。これらの改善により、ねじが現在の形になった20世紀初めには、米国式の製造法が世界中で使われるようになった。 ねじの頭部は、15世紀以来四角か八角形をしているか、溝のあるものであった。溝つきねじは、ねじ回しと溝がしっかり噛み合わないため、溝をダメにしてしまう事がしょっちゅうだった。この改良のために1860年から1890年にかけて色々の特許が出願されている。カナダ人の発明家、ピーター・L・ロバートソンが1907年に「四角い凹開口部を持ったソケット付きねじ」の特許を取得し事業化した。特別に作った四角い先端を持つねじ回しで、すべる事無く、片手で扱える便利なねじとして市場に受け入れられた。フォード・モーターの木製車体をカナダで製造していたフィッシャー・ボディ社やフォード・モデルTの生産工場などで大量に採用した。しかし、事業の海外拡大を試みたが、第一次大戦やドイツの敗戦、ロシヤ革命などが次々に起こり会社は1926年に解散した。その後米国の大手ねじ製造会社と交渉するが決裂している。カナダでは現代でも電気工事用の標準ねじとして採用されている。 1936年、アメリカ、オレゴン州ポートランドのヘンリー・F・フィリップスは、ポートランドのジヨン・P・トンプソンからソケットつきねじの特許を譲り受けた。フィリップスは、その特許の特徴である十字形を独自のデザインに改良した。彼は、製造会社を自分で起こさずに特許の使用権をアメリカン・スクリユー社に貸与した。アメリカン・スクリュー社は、ゼネラル・モーターズ社の1936年製造のキャデラックに使用、その効率の良さが認められる。その後の2年間でほとんどの自動車会社がソケットつきねじに切り替えた。1939年には、現在フィリップスねじと呼ばれるねじを作るようになった。フィリップスねじとプラスのねじ回しがそこらじゅうで使用されるようになる。第二次世界大戦でフィリップスねじは標準ねじとなり戦時産業で広く使われた。実は、ねじ回しがスリップするのを防ぎ、作業速度の速いのはロバートソンねじのほうが優れていた。しかし自動車会社がフィリップスねじを使うようになったのは、自動ねじ締め機でねじが完全に締まったときソケットから飛び出すのにある程度スリップするのが都合がよかった。
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