天大中小
(がんばこ から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/25 10:11 UTC 版)
![]() |
この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。(2008年2月)
|
![]()
Four squareのコートのレイアウト
|
|
プレイ人数 | 4名 |
---|---|
準備時間 | < 5分 |
必要技能 | 器用さ 戦略 ソーシャルスキル |
天大中小(てんだいちゅうしょう)とは、主に子供の間で行われるボールを使ったゲームの一つである[1]。
英語圏でフォー・スクエア(four square)、スウェーデンでキング(king, ruta)と呼ばれる競技[2]ははほぼ同様のルールであり、本項で扱う。
歴史
伝承遊びの一種と考えられており、明確な競技規則や競技団体がなく子供の間で受け継がれてきたゲームである[1]。
フォー・スクエアについては、1950年代に同名の競技が行われていた記録が見られるが、ルールなどの詳細な内容は記載されていない[3] 。日本では大正中期の大阪で遊ばれていたという報告があり[4]、戦後も1960年代[5]から1980年代[6]にかけて小学生の間で広く行われていた[7]。
2003年にアメリカでフォー・スクエアのリーグが設立されたが、2012年に終了している[8]。2005年からメイン州ブリッジトンでフォー・スクエアの世界選手権を称する大会が開催されているが、入賞者の多くはメイン州からの参加者である[9]。
2018年(平成30年)の小学校学習指導要領において、体育で実施するネット型ゲームの例として天大中小が記載された[10]。
名称
時期、地域によって名称は千差万別である。藤本浩之輔の学術調査によると、古くは「天下町人」という呼称が一般的であった[4]。1969年の枚方市では、市内の小学校に限った調査でも以下のように12通りの異なる呼称が確認されている[11]。
- 天下町人、天町、天大武士町、よんてん、天大、天大中小、四人天下、天下小人、テニス、天小、たんご、ぽんぽん
中部地方では「してん」、「元大中小」、「小中大元」、「天下取り」などの呼称が確認されている[12]。また関東では「大学おとし」という呼称が見られる[13][14]。
そのほか、ネット情報サイトの調査で「がんばこ」「天下(てんか)おとし」「天下(てんげ)」「げんばく」「天上(てんじょう)」「ドッジピンポン」「おおつぶ」「元大中小」など[15]が確認されている。神戸近辺では「インサ」と呼ばれている[16]。
ゲームの概要
テニスを原型としたゲームと考えられており、特殊な器具(ラケットとネット)を必要としないテニスと見なせる[17]。ラケットを用いないという点で、初期のジュ・ド・ポームとの類似性も指摘されている[18]。詳細なルールは名称と同じく地域、時期によって異なっている。
参加人数
4人またはそれ以上の人数で行われることが多い。5人以上の参加者がいる場合には、残りの参加者は枠の外で列を作り、交代を待つ。人数が少ない場合には3人、2人で行われることもあり、コートの形が異なることもある。
コート
まず地面に大きな四角を描き、縦・横の区切り線を描いて4つの均等な四角形の区画に区切る[13]。上空から見ると漢字の「田」の形になる[1]。これがコートの基本形であり、プレイヤーはそれぞれの区画を陣地として占有する。参加者が3人以下の場合に、2つのマスからなるコートを描くこともある[19]。
陣地は順位を持ち、順位に応じたラベルが付けられる。ラベルの名称はゲームの名称に関連したものであるため、これも地域や時期によってさまざまなバリエーションがある。
- 「社長」「部長」「課長」「平」(企業の役職を模したもの)
- 「天」「大」「中」「小」
- 「元」「大」「中」「少」(元帥、大将、中将、少将の略)
- 「大」「高」「中」「小」(大学生、高校生、中学生、小学生の略)[13]
以下では陣地のラベルを上位から順に1、2、3、4として解説する。陣地1~4の並び方はN字型、交差型、循環型の3つが考えられるが、いずれの例も実際に用いられたことが報告されている[20]。 ジャンケンなどでプレイヤーの初期順位を決め、対応する陣地に入る。
用具
軟式テニスのような小さいボールを使う場合[19][21]や、ドッジボールなどを使う場合がある[1][22]。フォー・スクエアに関しては専用球が販売されている[23]。
ゲームの進行

最初にボールを打つ権利(サーブ権)は最上位(陣地1)のプレイヤーが持つ場合が多いが、最下位(陣地4)のプレイヤーが持つ場合もある[24]。サーブ権を持つプレイヤーが、所定のルールに合ういずれかの陣地に向かってボールを打つ(サーブ)ことでゲームが開始される[13]。ボールがバウンドした陣地のプレイヤーが次のプレー主体となり、ボールをいずれかの陣地に打つ。これをいずれかのプレイヤーがミスをするまで繰り返して、1回のゲームが終わる[1]。
ミスの基準はテニスや卓球に近く、以下のような場合は当該陣地のプレイヤーのミスとなる[24]。
- 打ったボールが自陣以外のいずれかの陣地でバウンドせずにコート外に出る。
- 打つ前に自陣で2回以上バウンドする
- 打つ前に自陣の外に出る(空振り)。
打ったボールが自陣でバウンドした場合はミスとするルールと[25][26]、他の陣地にバウンドさせる前に自陣で必ず1回バウンドさせるように打つ(打ったボールが直接相手陣地でバウンドした場合は打ったプレイヤーのアウト)というルールの存在が知られている[27][28]。コート外枠や陣地を区切る線などにボールがかかった場合は、打ったプレイヤーのアウトとするのが一般的である[25][26]。
-
- ボールが自分のマスに着く前に打ってしまった場合は、ノーバン(ノーバウンドの略)でアウト。ただしこれをセーフとするローカルルールもある。
- ワンバンしたボールを打ち返せずフィールド外へ逃した場合はそのマスのプレイヤーのアウト。
- 境界を越えたボールが同一のマスで2回バウンドするとツーバンで、そのマスのプレイヤーのアウト。
境界を越えたボールがあるマスを通過して他のマスに達したときは、次の判定となる。
- 前のマスをノーバンで通過した場合は次のマスのプレイヤーの責任。
- 次のマスもノーバンでフィールドへ出れば打ち手のアウト。
- 前のマスをワンバンまたはツーバンで通過した場合は前のマスのプレイヤーの責任(実質的に打ち返せなかったためアウト)。
このルールでボールを返していき、ルールどおり返せなくなった者が負けとなる。負けた者は一つ下のランク(“天”→“大”→“中”→“小”の順)に移動し、残りの者が繰り上がる。小の者が負けた場合、枠の外で待っている参加者と交代する。
地域によっては足を用いて相手の陣にボールを入れるルールも存在する[要出典]。ボールを返すルールは上記を踏襲するが、コート中心に書かれた“天”→“大”→“中”→“小”または“大”→“高”→“中”→“小”と書かれた円内にボールが入ってしまうと“ドボン”になり、そこへボールを蹴りいれた者はどこのポジションにいようとも“小”まで戻らなくてはならず、他のメンバーは順次繰り上げとなる。
ボールの打ち方
地域や使用するボールの大きさ・硬さなどによって、片手のみを使う場合と両手を使う場合がある。また、下手打ち(ボールの下側を叩く)という条件を課している事例も見られる[26]。
ゲームの特徴
数度のラリーで決着がつくことが多く、参加者が多数でも効率よく回転していくため、小学校の休み時間等の中途半端な時間に行うのに適する。
一方で“天”からの最初の攻撃で決まることは少なく、適度なゲームバランスを有するといえる。個人競技であるため、野球やサッカーのような役割による不公平が無く、個人のミスが他の人間に影響しないため、人間関係に亀裂を生じることは少ない。
テクニック
低い軌道で強いボールを打つと相手はコントロールしにくくなる。また、バウンドを極限まで弱くすると、相手は低い位置で、かつ他の陣へ入れるため強く打たざるを得ず、有効である。
- オクトパス
- 両手および体をタコのようにくねくねと動かしながら打つ技。
- ビッグバン
- 力強く叩き相手のミスを誘ったり相手陣地の後方までボールを飛ばすこと。
相手に打たれにくくするため、いくつかの特殊な打ち方がある。たとえば以下のような技がある。
- 切り込み
- 打ち込まれて着地寸前のボールを低めに思いきり打ち、自分のマスに着地した後、相手のマスをワンバンまたはノーバンで通過してフィールド外へ出す。弾道が低く速いため、相手は打ち返しにくい。スマッシュともいえる。
- 思いきり弱く打ち、相手のツーバンを誘う。強く打つように見せかけておくとより成功しやすくなる。
-
ある方向に打つと見せかけ、利き手または利き手とは反対の手で他の方向へ打つ。
- さらに、他の方向へ打つと見せかけて本来の方向へ打つ。
- 切り込みや、弱く打つのと組み合わせると相乗効果を生む。
だが、ここに挙げたものは高等技術であり、初心者では失敗して自分が降格ということになりかねないため、練習が必要である。
脚注
- ^ a b c d e 日本スポーツ協会 2020.
- ^ 中京大学. “フォースクエア 競技説明”. 中京大学スポーツミュージアム. 2025年7月25日閲覧。
- ^ “Crowley Lists Play Schedule For Next Week”. Lewiston Daily Sun: p. 2. (1959年7月18日) 2016年12月4日閲覧。
- ^ a b 藤本 1969, p. 65.
- ^ 東京都教組少年文化分科会『青少年文化運動』啓隆閣、1969年、95頁 。
- ^ 日本私立小学校連合会 編『いま私立の小学校で:ほんものの教育の追究』小学館、1985年4月、121頁 。
- ^ 成城学園 1977, p. 227.
- ^ “Contact”. [1]. 2025年7月25日閲覧。
- ^ “20th Annual Four Square World Championships April 2025”. https://https://squarefour.org/. 2025年7月25日閲覧。
- ^ 文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示解説 体育編』(PDF)2017年7月、98頁 。
- ^ 藤本 1969, p. 72.
- ^ 中日新聞 1975, p. 165.
- ^ a b c d 武田 1981, p. 91.
- ^ 成城学園 1977, p. 210.
- ^ “田の字のラインを引いて、ボールをバウンドさせ合うあの遊び 何と呼んでいた?”. Jタウンネット 東京都. (2018年8月7日) 2020年11月4日閲覧。
- ^ ラジオ関西. “インサ・天大士町・大学おとし 昭和のボールゲームの呼び方さまざま 専門家「ゲーム名には地域性が出る」”. 2025年7月25日閲覧。
- ^ 藤本 1993.
- ^ 4 Square - ウェイバックマシン(2025年4月18日アーカイブ分)
- ^ a b 藤本 1969, p. 67.
- ^ 藤本 1983.
- ^ 藤本 1993, p. 64.
- ^ 藤本 1969, p. 69.
- ^ 360 Athletics. “Four Square Playball”. 2025年7月25日閲覧。
- ^ a b 藤本 1983, p. 22.
- ^ a b 米子青年会議所. “天大中小”. 2025年7月25日閲覧。
- ^ a b c 又井裕一郎. “ラリーが続くネット型ゲーム「天大中小」”. TOSS LAND. 2025年7月25日閲覧。
- ^ 藤本 1979, p. 54.
- ^ 豊田市教育委員会、豊田市史編さん専門委員会 編『豊田市史 10(資料 民俗)』豊田市、1978年3月、180-181頁 。
参考文献
- “遊びプログラム 伝承遊び 天大中小(てんだいちゅうしょう)”. アクティブチャイルドプログラム. 公益財団法人 日本スポーツ協会 (2020年). 2020年11月4日閲覧。
- 藤本, 浩之輔「こども文化の伝播と変容(1):天下町人考」『人文研究』第21巻第1号、大阪市立大学文学部、1969年、64-89頁、doi:10.24544/ocu.20180423-048。
- 藤本, 浩之輔「こども文化の伝播と変容:天下町人考(2)」『人文研究』第26巻第9号、大阪市立大学文学部、1974年、501-524頁。
- 藤本, 浩之輔『子どもの遊びを見直そう』第三文明社〈灯台ブックス〉、1979年4月。NDLJP:12040122。
- 藤本, 浩之輔「子ども文化の変容に関する研究:枚方市における天下町人ゲーム13年間の変容」『京都大学教育学部紀要』第29巻、京都大学教育学部、1983年3月31日、18-36頁。
- 藤本, 浩之輔 著「ボールゲーム「天下町人」」、本田, 和子 編『若者と子供の文化』放送大学教育振興会、1993年3月、64-65頁。NDLJP:13169739/35。
- 中日新聞婦人家庭部 編「してん/原型を守りつつ工夫」『こどもの手』中日新聞本社、1975年、165-168頁。NDLJP:12131054/85。
- 武田, 恭宗「子どもの心」『教育改造』第73号、成城学園初等学校研究推進部、1981年6月、91-92頁、NDLJP:6035895/52。
- 成城学園初等学校散歩科・遊び科研究部『正課としての散歩科と遊び科:成城の総合教育の実践』栄光出版社、1977年3月。NDLJP:12126791。
関連項目
- 天大中小のページへのリンク