『地中海』の刊行と「長期持続」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/11 08:36 UTC 版)
「フェルナン・ブローデル」の記事における「『地中海』の刊行と「長期持続」」の解説
1949年、ブローデル47歳のとき『地中海』(博士論文『フェリペ2世時代の地中海と地中海時代』)が刊行され、公開に供された。自費出版であった。三部構成であるが初版は一冊本になっており、1,600ページに達した。当時の印刷事情を反映して、図版や写真は一切なかった。「全体史」を目指したこの大作は、その後の歴史学に多大な影響をおよぼし、「新しい歴史学」のさきがけとなった。なお、17年後の1966年には、豊富な図表や地図、グラフ、挿図なども組み込まれ、二冊本の改訂版『地中海』が出版された。ここでは、イスラーム世界研究の進展や新しい史料の出現にもとづいてオスマン帝国に関する記載が大幅に変更されている。 いっぽう、1949年よりコレージュ・ド・フランス (CdF) の教授を務め、1956年にリュシアン・フェーヴルが死去したのちは雑誌『アナール』(1929年創刊。旧『社会経済史年報』)の編集長および高等研究院第6部門の責任者となって、フェーヴル後のアナール学派の中心的存在として数多くの人材を育て、また、歴史学と隣接諸科学の交流に大きな役割を果たすようになった。こうして、アナール学派からは、クロード・レヴィ=ストロース(人類学)やミシェル・フーコー(哲学・思想史)、ピエール・ブルデュー(哲学・社会学・民族学)などの新しい思潮や人間諸科学から刺激を受け、多くの若手歴史家が輩出した。 1958年には、『アナール』誌に論文「長期持続—歴史と社会科学」を発表し、「歴史家にとって、いっさいは時間に始まり、時間に終わる」と唱えて、レヴィ=ストロースの構造主義の「無時間性」に反駁を加えて「新しい歴史学」(Nouvelle histoire)のリーダーとなった。なお、ブローデルの唱える歴史学における「構造」とレヴィ=ストロースら「構造主義」における「構造」の違いについては1966年の『地中海』第二版の結論部分でも説明がなされている。 1959年には「『アナール』30年」と「マルク・ブロック称賛」を著して「新しい歴史学」の総括をおこなった。この年、第6部門の学績が認められて教育担当官庁から多額の助成金を得たため、数多くのポストが新しく設けられた。1962年には、ロックフェラー財団の援助で歴史学を中心とする社会科学の総合研究機関「人間科学館」が創設されている。また、62年には『アナール』誌の編集事務責任者の地位をマルク・フェローに譲っている。 1963年には、リセ用の教科書『現在の世界』を執筆した。ここでは「歴史には世界の歴史しかない」という思想が貫かれており、ヨーロッパ中心の世界観は完全に克服されている。ただし、この教科書が実際の教育現場で用いられることはなく、1960年代以降、学校教育において「新しい歴史」の授業実践も流行するが、ブローデル自身も後年、歴史の初学者には出来事史を中心に教えるべきで、「新しい歴史」はリセの最終学年で教授すべきものと語っている。『地中海』第二版の刊行された1966年には、イタリアのミラノにおいて、フェリペ2世の父にあたる神聖ローマ帝国皇帝カール5世(スペイン王カルロス1世)に関する伝記『カール5世』を発表した。
※この「『地中海』の刊行と「長期持続」」の解説は、「フェルナン・ブローデル」の解説の一部です。
「『地中海』の刊行と「長期持続」」を含む「フェルナン・ブローデル」の記事については、「フェルナン・ブローデル」の概要を参照ください。
- 『地中海』の刊行と「長期持続」のページへのリンク