IKAROS搭載決定と開発
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/05 22:09 UTC 版)
「DCAM」の記事における「IKAROS搭載決定と開発」の解説
2007年末、金星探査機あかつきのピギーバック衛星として打ち上げられる、ソーラー電力セイル実証機IKAROSの開発が始まった。IKAROS計画自体、計画開始から実際の打ち上げまで約2年半という極めて急ピッチに進められた計画であり、しかも従来の科学衛星の約10分の1という極めて低コストでの開発が求められた。時間、コストに関しての厳しい制約は衛星の開発方針に大きな影響を与えた。 ところでソーラーセイルとは太陽の光圧をセイル(帆)に受けて、太陽系内を航行するいわゆる宇宙ヨットである。そして日本独自のアイデアとして、ソーラーセイルのセイル部分に薄膜太陽電池を貼りつけ、帆としての役割とともに太陽光発電も行うソーラー電力セイルが考え出された。IKAROSはソーラー電力セイルの世界初の実証機として開発が進められていくが、当然、軌道上でセイルを広げることになる。セイルの大きさは1辺14メートルの正方形であり、実際に軌道上できちんとセイルが広げられたのかを検証する方法が課題となった。 IKAROSのセイルが軌道上でしっかり開いたかどうか確認するため、まずは4台のカメラが衛星本体に搭載されることが決まった。当初、その4台のカメラで軌道上で広げられたセイルの形状把握が出来るのではと考えられていたが、計画が進むにつれて1辺14メートルという大きなセイルの形状を固定カメラだけで確認するのは無理であることが明らかとなり、結局は衛星本体から放出されたカメラが離れた場所からセイルを撮影するしかないとの結論となった。そこでIKAROSから放出して外部からIKAROSを撮影するカメラ、DCAM(Deployable CAMera)の開発が始まった。先述のようにIKAROS計画自体に時間とコストに厳しい制約が課せられており、しかもIKAROS本体から分離してIKAROSを撮影するという分離カメラの宿命として、小型軽量なものであることが求められた。なお衛星本体からカメラを放出して衛星の全体像を撮影する、分離カメラという試みは世界初のことであった。 超小型カメラを衛星本体から分離して外から撮影を行えば衛星本体の大型の展開物、IKAROS計画の場合、ソーラー電気セイルの全体像を撮影することが可能となる。しかしこれまで設置されてきた衛星本体の固定カメラに加えて、新たな分離カメラと衛星からの分離機構からなるプローブシステムを搭載することは衛星全体の構造、そしてインタフェースに影響を及ぼすことになる。そこで超小型プローブシステムと従来からある固定カメラとを統合したシステムが開発された。固定カメラと新たに搭載する分離カメラのシステムを統合することによって、衛星本体とのインタフェースの簡略化と、分離カメラが取得した画像の圧縮、保存などが固定カメラと同一の処理系で行うことができる。これは衛星本体から分離された後、短時間で使用を終えることになる超小型プローブシステムのために専用の処理系を搭載するやり方よりも、衛星の構成のみならずコスト面からも有利であった。またシステムの処理系ではマイコンを使用せずFPGAを採用した。ユーザーがオリジナルの論理回路を構築することが可能な半導体デバイスであるFPGAを使用することによって、柔軟かつコンパクトなシステム構築が可能となった。 分離カメラを運用するに当たっての大きな問題の1つが、取得した画像データをどのように衛星本体に転送するかということであった。画像データはテレメトリデータに較べて遥かに容量が大きく、転送時に広い帯域が必要となる。そこでまずは画像データに圧縮をかけて衛星本体にデジタル無線送信するという一般的に使われている方法が考えられるが、この方法を採用した場合、分離カメラ本体に高度な処理系と高速デジタル送信機を搭載する必要がある。超小型、軽量を至上命題とする超小型分離カメラにそのような処理系、送信機を搭載することは困難であった。そこでアナログテレビの技術の1つであるアナログNTSC信号でデータ転送を行うこととした。 結局、IKAROS本体固定カメラ4台、分離カメラ(DCAM)2台、そして固定カメラ、分離カメラを統合してデータの圧縮、保存などを行うカメラコントローラー1台から構成されるシステムが構築された。分離カメラで取得した画像データはアナログNTSC信号であり、カメラ内に内蔵されたアナログビデオ送信機でまずIKAROS本体にあるカメラコントローラーへとアナログ伝送する。しかしこのままでは地球へ画像送信できないので、カメラコントローラー内でデータをデジタル変換し、変換後のデータを圧縮、保存した上で、必要に応じてIKAROS本体のシステムへと転送することにした。実際、DCAMは1秒当たり30コマのペースでアナログ動画を撮り続け、それをまずアナログ通信でカメラコントローラーへ送り、その後、受信したデータの中から適当なタイミングで取り込み、保存する形となった。 またDCAMにとってIKAROS本体からの放出方法と姿勢制御も課題であった。DCAMはIKAROSから放出された後、きちんとソーラー電力セイルが広げられているかどうか、セイルの全体像を撮影せねばならない。また撮影は1度きりではなく連続撮影が求められていた。ただやみくもにIKAROSから放出して撮影をしたところでミッションの成功はおぼつかない。そしてIKAROSはセイル展開後も回転しているものの、回転しているIKAROSの角速度のみではDCAMの姿勢安定には不充分であり、放出時に更に回転をかける必要性があった。つまり放出時にはDCAMに回転をかけつつIKAROS全体を撮影できる方向へと放出することが求められた。 結局円筒形のDCAMの底部を4つの半球状の爪で押さえる形で分離機構に固定することになった、これは本体の一端を固定する片持ち梁と呼ばれる固定方法である。そして分離時にはDCAMの底部にある部材をバネで押し出し、同時にDCAM底部の端2ヵ所を弾くようにして力を加え、回転をかけることになった。 DCAM開発に当たっては上記のようなミッション遂行上必要とされた様々な条件の上に、やはりコスト面についても問題となった。そのため宇宙用ではなく、小型、高性能かつ比較期安価である民生品を大幅に利用していくことになった。しかし宇宙用ではない民生品には、厳しい宇宙環境で性能が発揮できるかどうかの信頼性の問題がある。そこで打ち上げ時の振動に耐えられるかどうかの振動試験、更には熱試験、真空試験を行い、民生品を多用したDCAMが宇宙空間で実際に性能が発揮できるかどうかを確認していった。
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