5つの『ロストワールド』
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「ロストワールド (漫画)」の記事における「5つの『ロストワールド』」の解説
手塚治虫は、『ロストワールド』を5回にわたり執筆したとしており、そのうち4つが公表されている。 第1号(私家版) 手塚によれば、執筆は「北野中学二、三年の頃」(後述するように、実際の執筆時期は北野中学卒業後の1945年夏だとする説がある)。確認される最古の版。当然ながら商業出版を前提としたものではなかったが、保管されていた原稿が1982年に名著刊行会から単行本化され、手塚の死後1994年に手塚治虫漫画全集にも収録された。ただし、原稿は単行本化の時点で一部が欠損している。 第2号(私家版改訂版) 手塚によれば、昭和18年(1943年)から19年(1944年)にかけて執筆したもの(後述するように、実際の執筆時期は戦後の1946年夏だとする説がある)。本格的な装丁が施され、手塚の友人たちの間で読まれていたが、のちに紛失したとされ現存しない。 第3号(関西輿論新聞版) 『関西輿論新聞』(後の『新関西』)1946年10月21日付より連載、終了時期不明。版元都合により連載が中断し未完。2回分の切り抜きが現存していたことは知られていた。後に手塚治虫自身の遺品のスクラップブックから全39回のうち、第7回、第23回、第38回、第39回の4話分全部と第21回の一部が欠損した状態ではあるが、第1回含む35話分の切り抜きが遺されている事が判明し、2020年4月の『手塚治虫アーリーワークス』に現存する話全てが収録された。 手塚の回想によれば毎日8コマ連載で、打ち切りの理由は紙不足で新聞がブランケット判からタブロイド判になり、紙面に余裕がなくなったためという。また、次第に『私家版』の構想を離れ、のちの不二書房版とも異なる独自の展開となり、打ち切り直前には、敷島博士の子を妊娠したあやめが、人間の姿を保つことができなくなって樹の姿になってしまい、木の子、つまりキノコを産み落とす、という展開になっていたという。 第4号(不二書房版) 1948年12月に不二書房から書き下ろし単行本として発売、「地球編」「宇宙編」の全2巻から成る。一般に『ロストワールド』として挙げられるのはこの版であり、手塚治虫漫画全集への収録を含めてたびたび復刻されている。 執筆自体は『地底国の怪人』『魔法屋敷』(共に1948年2月発売)の直後に行われたが、内容が難しいなどの理由から単行本化が一時先送りされていた。しかし実際に発売されると、すぐに前後編合わせて40万部を売り上げ、『週刊朝日』などにも取り上げられるベストセラーとなった。 第5号(冒険王版) 1955年に秋田書店の「冒険王」誌で、『前世紀星』のタイトルで連載、未完。2010年に国書刊行会より復刻された。 これらの作品は大筋において共通するが、細部の描写はそれぞれ微妙に異なっている。手塚治虫の初期漫画作品の中には、『月世界紳士』(1948年、リメイク版1951年)や『地底国の怪人』(1947年、リメイク版は『地球トンネル』1951年、『アバンチュール21』1970年)のように、手塚自身によるリメイク作品が幾つか存在するが、『ロストワールド』は、その回数において最たるものである。しかも手塚は、1982年に『ロストワールド 私家版』が公刊された際「また書き改めることがあるかもしれない」とのメッセージを添えており、彼にとって大きな意味を持つ作品であると言えるだろう。 なお、上述の第1号・第2号の執筆時期については、『ロストワールド 私家版』公刊時に付された手塚の「あとがきにかえて」によるが、第1号の執筆時期が日米開戦(1941年12月)よりも前であることを示唆する記述がある一方で、執筆の時期は『幽霊男』(手塚の日記から、執筆は1945年4月以後であることが判明している)の後だとするなどの矛盾があり、また、手塚自身の発言も一定しておらず、発言のたびに微妙に説明が変わっていることが指摘されている。 漫画研究家の竹内オサムは、手塚の日記に、1946年6月から8月にかけて『ロストワールド』を執筆・製本したとする記述があることや、『幽霊男』が「てづかまんがそうしょ」の2・3巻、公刊された『私家版』が同4・5・6巻となっていることなどを根拠として、現在知られている『私家版』は、実際には1946年夏に執筆された第2号であり、これとは別に、中学時代に執筆された第1号が存在したのではないか、と推測している。一方、手塚プロダクション資料室長の森晴路は、手塚の『昆虫手帳』に、1945年7月4日の項の次のページに『ロストワールド』が「7月20日発行予定」とあることから、『私家版』は1945年7月頃に執筆された第1号であり、1946年6 - 8月に執筆されたものは、紛失されたとされる改訂版(第2号)だと推定している。
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