軸索障害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/28 03:01 UTC 版)
軸索内では蛋白の合成ができないため、細胞体からの軸索輸送がその維持に重要である。軸索の形態的変化は輸送の流れが途絶えたためにその遠位部では細胞骨格や小器官の消失が起こる。それにひき続いて軸索の破壊、髄鞘構造の破壊が起こり、髄鞘の塊(髄球)となりマクロファージによる処理がされる。軸索とともに髄鞘成分も取り除かれた後、シュワン細胞が残存し、軸索の再生に備える。軸索の伸長はgrowth coneと呼ばれる先端の膨らんだ部分が誘導する。多数の軸索の芽が分枝し、かつて1本の有髄線維を取り巻いていた基底膜内に入る。ある分枝は長軸方向からそれたり反転したりして接合先を失う。したがって初期の再生繊維は通常は3本以上の無髄線維や薄い髄鞘をもった線維が共通の基底膜に覆われている。 軸索障害の初期では髄鞘軸索変性が光学顕微鏡でオボイド(ovoid、ミエリン球)として認められる。これは壊れた髄鞘に囲まれた軸索の破片である。圧迫によるアーチファクトとしばしば鑑別は困難である。オボイドは電子顕微鏡やときほぐし像で最も評価ができる。慢性期または進行期の軸索変性では有髄軸索の減少と神経内膜の結合組織の増加である。再生クラスターの存在は、その背景にある病理変化が軸索変性による仮定の良い証拠となる。ときほぐし標本によって神経変性と再生の異なる病期を示し、病変が進行中であることを示すこともできる。軸索径の変化がしばしば診断の手がかりになる。軸索径は軸索にふくまれるニューロフィラメントと微小管の数と相関がある。軸索萎縮はほとんどニューロフィラメント生成の減少よっておこる。大径線維がニューロフィラメントに最も富むため最も病変を認めやすい(神経径依存性の脆弱性)。神経障害が長期に及ぶと二次性脱髄が起こり、重度になると原発性の慢性脱髄に過程が似ることもある。高齢者の軸索萎縮はシャルコーマリートゥース病、尿毒症性ニューロパチー、糖尿病性ニューロパチー、骨髄腫に関連したニューロパチー、種々の中毒性ニューロパチーで認められる。局所性あるいは多巣性のニューロフィラメントやその他の細胞小器官の蓄積によっておこる軸索腫大(スフィロイド)は遺伝性巨細胞性ニューロパチーやn-ヘキサンによる中毒性ニューロパチーで認められる。 軸索変性は次に示す3つのタイプが知られている。どのタイプでも変性の過程が運動軸索に影響すると最終的には筋肉の脱神経をきたす。 ワーラー変性 ワーラー変性は神経離断に対する軸索遠位部の反応である。ヒトでは局所の虚血や圧迫などが対応する。早期には、形態学的には軸索とその髄鞘の破壊が特徴である。続いて修復期では、シュワン細胞の基底膜カラ形成されるくだの中にシュワン細胞が増殖する。管を形成するシュワン細胞の集まりはビュングナー帯を構成している。軸索の再生は切断された神経の近位断端から軸索の萌芽(sprouting)を通じて軸索の切断とほぼ同時にはじまる。進行は1日に1〜3mmと遅い。これらの萌芽は通常1つの切断された軸索に対して2〜5本でありビュングナー帯に入ってくることができる。この過程の結果、形態学的には再生するクラスターや再生繊維の薄い有髄線維の集まりとして観察される。近年ワーラー変性は軸索切断に至らない程度の軸索輸送のブロックでも生じることがわかり、dying-back型ニューロパチーとかなり共通したメカニズムと考えられている。 dying-back型ニューロパチー この軸索障害は、ある一群のニューロパチーに特徴的で、初めは軸索の最も遠位が障害され、ついで徐々により近位が変性する。ほぼ左右対称で亜急性もしくは慢性の変性を伴う。最も長く、大きい線維が初めに侵される。これを長さ依存性の脆弱性といい、多くの軸索性ニューロパチーで手袋靴下型で症状が出現する根拠となっている。脱髄型ニューロパチーでは長さ依存性の脆弱性は認められず、大腿部から症状が発現することもある。遠位部ほど神経細胞から栄養が届きにくいこと、あるいは神経毒素は軸索全般に作用するがそれに対する防御因子は遠位部ほど供給が少ないなどが機序として考えられている。病理学的所見は軸索の萌芽を含めた再生の証拠を伴う有髄線維の減少が特徴的である。後索の変性はこの機序では脊髄の上端から始まり末梢神経伝導速度検査では末期まで正常となることもある。 ニューロノパチー ニューロノパチーは細胞突起に属する軸索ではなく、神経細胞体の障害が最初であると考えられている軸索障害型ニューロパチーである。多少は細胞体障害を伴い、細胞体が障害されるため再生が不可能となっている。ニューロノパチーは、大脳皮質やその他の灰白質での神経細胞変性として、緩徐に進行し、引き続き選択的な神経細胞脱落を伴うことが特徴的である。ビタミンB6欠乏など中毒性ニューロノパチーや傍腫瘍性神経症候群では感覚神経の方が運動神経より障害されやすい。これは後根神経節では血液神経関門が欠いていることが関係すると考えられている。またファブリー病では小さな神経細胞が障害されやすく、傍腫瘍性神経症候群や感覚性ニューロパチーやフリードライヒ運動失調症、無βリポ蛋白血症では大きな神経細胞が障害されやすいといった神経細胞選択性も認められる。
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