計画案の調整
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/03 09:02 UTC 版)
戦後、経済安定本部によって1947年に「尾瀬原・利根川・只見川総合開発計画」が策定され、尾瀬原ダム計画は本格的に国策として推進された。だが、利根川への分水を巡って「只見川本流案」を策定した日発東北支社及びこれを支持する福島県と、「尾瀬分水案」を策定した日発関東支社及びこれを支持する群馬県が対立した。最大の問題は水利権問題である。既に尾瀬沼の水利権は関東水電の流れを汲む日発関東支社が保有していたが、只見川・阿賀野川の慣行水利権を保有する福島県が利根川への分水に強硬に反発した。 1948年には商工省が「尾瀬原・利根川・只見川総合開発調査協議会」が発足し意見調整が図られた。この中で新潟県が奥只見ダム・田子倉ダムから信濃川水系魚野川流域へ只見川の河水を分水する「只見川分流案」(流域変更案)を新たに呈示し、さらに状況は混沌とした。只見川の豊富な水を越後平野の灌漑(かんがい)用水に利用しようと目論む新潟県は福島県との間で「本流案」か「分流案」かで激しく対立しており、「尾瀬分水案」における利根川への分水には福島県との対抗上賛成するなど複雑な状態となった。 尾瀬原ダム計画を戦後日本復興の要と位置付けていた商工省や経済安定本部は、「只見川分流案」を施工法や費用の面で計画に疑問が残るとして再検討を行う一方、利根川案と只見川案の両立を図るために「理想案」を新たに呈示した。これは尾瀬原ダムの規模を大幅に拡大し堤高 100 m 、有効貯水容量 7億2,000万 m3 として利根川・片品川・只見川の三箇所に揚水発電所を建設、矢木沢ダムの他只見川の赤岩地点と、楢俣川・片品川に二箇所のダムを建設して冬季の平均総出力を 45万 kW とする計画である。この時点で三通りのダム案が出揃ったわけである。 案ダム堤高(m)有効貯水容量(千m²)利根川開発案 85.0 330,000 只見川本流案 62.0 250,000 理想案 100.0 720,000 1950年(昭和25年)、第3次吉田内閣は国土総合開発法を施行し全国22地域を対象に「特定地域総合開発計画」を行う方針を発表した。河川を高度かつ広範囲にわたり開発し、治水・灌漑・水力発電に利用して戦後復興の基盤にしようと考えたのである。古くから有望な電源地帯として知られた只見川は1951年(昭和26年)12月、只見特定地域総合開発計画の対象地域として発表された。これにより「本流案」・「分流案」を巡る福島・新潟両県の争いは激化したが、政府はアメリカ合衆国海外技術調査団(OCI)に公表された只見川開発案全てを検討するように依頼する。求めに応じたOCIは来日後只見川・阿賀野川及び分流案の対象となる魚野川流域を実地調査し、費用対効果などの面で「本流案」が採用された。しかし新潟県がこれに反発し、最終的に吉田茂首相及び1952年(昭和27年)発足した電源開発が仲裁し、「本流案」に黒又川への分流を一部加える案(黒又川分水案)が示され、1953年(昭和28年)8月5日に両県が折衷案を受け入れることで合意し、問題は解決した。 この時「尾瀬分水案」は、この最終案に盛り込まれることはなかった。費用対効果の点で「本流案」に劣ること、水利権の問題における福島県の反発、後述する治水・環境問題がその主因であり、事実上棚上げの状態となった。一方「本流案」におけるダム計画についてOCIはまずダムの高さを 50 m として貯水容量を 1億2,500万 m3 に抑えて発電を開始し、その後の電力需要増大に併せて再開発を行って高さを逓信省案と同じ 85 m にまでかさ上げ、総貯水容量を 6億8,000万 m3 にすることで利根川への分水と揚水発電への変更を行うことが望ましいと勧告した。しかしこの勧告も実行に移されることは無く、東京電力は以後10年おきに尾瀬沼の発電用水利権は更新するものの、前述の対立もあってダム計画が進展することはなかった。 なお、OCIはこの勧告を行うに先立ち、ダム建設予定地に赴いて基礎地盤や水量など基本データを調べる予備調査を実施。公益事業委員会への報告書においてダムの設計図を作成している。OCIは当初重力式コンクリートダムの建設を志向したが基礎地盤が悪く断念した。代わりに逓信省案と同様にロックフィルダムを採用。将来のかさ上げを見越して現在御母衣ダム(庄川)や九頭竜ダム(九頭竜川)で採用されているタイプ、すなわち水を遮るダム本体中心の不透水層が斜めに傾いている傾斜土質遮水壁型ロックフィルダムとした。長さは 945 m 、洪水を放流する余水吐きはダム右岸に設置し水門を設けない自由越流型のものを採用している。さらに放流した水が下流に影響を及ぼさないための逆調整池として白沢川との合流点付近に高さ 39 m 、貯水容量 18万 m3 の大津岐ダムを建設することも報告書に盛り込んだ。
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