義太夫の会とは? わかりやすく解説

義太夫の会

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/20 04:23 UTC 版)

器楽的幻覚」の記事における「義太夫の会」の解説

器楽的幻覚執筆の約1か月前の1927年昭和2年11月10日伊豆湯ヶ島滞在であった梶井基次郎は、木炭問屋資産家杉山雑貨商でもある)の屋敷行われた浄瑠璃義太夫の会を観に行った。 その義太夫の会は、基次郎宿泊していた「湯川屋」の主人や、按摩の宗さん(視覚障害者)、飲み屋林川」の女将、宿(郵便局あたりの地名)の菓子屋木村屋」の主人自転車屋の足立多一(道楽者)が集結し、彼らの師匠大阪からやって来た浄瑠璃語りの〈顔色の悪い〉老婆芸名竹本東福)を囲んで1人ずつ義太夫披露するものであった湯ヶ島での生活では、好きな音楽触れ機会もない基次郎は、その素人集会興味持ってお供し、それぞれ得意の喉を一節うなる村人義太夫楽しんだ。 あんまは先代萩をやつたが一生懸命にやつたので下手でも面白くきけた。一生懸命低い声のところなど思ふやうに声が出ないので小節に切り各節を吹[くやうに]きとばすやうにやつてゐたが、これは和洋声楽通じての[下手の]素朴な発声法だらうと思つた。政岡泣き口説くところではあんまさん思ひ切つてえげつない顔をした、彼ははじめから酔つたやうに歌つた。なだらかなところでは眼をあけてやる、すると眼あきとかはらないのだ。そんなのを見てゐると僕は悲しく楽しくなり、あんまさん好意が増すのを感じた — 梶井基次郎淀野隆三宛て書簡」(昭和2年11月11日付) そして基次郎は、別格の上手さを持つ先生格の老婆竹本東福の義太夫に非常に感心して、その喉や三味線聴き入った先生といふのは酒屋の段三勝半七をやつたが思ひ切つて低いバッス。それから最も高い甲声、それからその間の声、それから強めたり弱めたりなどがはつきり変化を持つて行はれ、この人だけが声楽的な感興を起させた、それから三味線もなかなか達者で、あの顔色の悪い萎微〔ママ〕した女がすつかりしやんとして三味線音色、そのかけ声、は器楽的な幻想とも云ふべきものを起す充分だつた。(器楽幻想とは自分勝手な言葉だが、器楽達者弾かれると、下手がやればいかにも楽器でその音を作つてゐるやうな気がするのと反対に、音がその動作遊離し動作がまた音とは遊離してゐるやうな幻想起る、) — 梶井基次郎淀野隆三宛て書簡」(昭和2年11月11日付) ここで基次郎は、〈器楽幻想〉という言葉使い演奏者動作と、奏でる音との遊離現象語っているが、ここで感じた体感翌月執筆の『器楽的幻覚』の創作契機となった。またこの義太夫の会の感興から、大阪生まれながら文楽をまだ見ていなかったことを残念がり、リード練習歌曲愛好思い想起している。 また君と一緒に銀座で買つたリードのなかのメフィストをもつと努力して歌へるやうにならうと思つたりした。(この間京都へ行つたとき十字屋シャリアピンのこのメフィストの歌きき〔ママ〕、到底僕などのやれるものではないと思つて、節をやつただけで感情[のアクセント付けたり性格づけたりするのは断念してゐたのだ)あのリードのうちの半分程をもうやつたが、難しいのであとの半分程は止す気でゐる、器楽がなくてあんなものをやらうとするのは無謀に等しいのだ。然しムッソログスキーといふ作者には非常に敬意を払ふことを得た。 — 梶井基次郎淀野隆三宛て書簡」(昭和2年11月11日付) 『器楽的幻覚』の原稿は、翌12月中旬出来上がったが、同時に仕上げた筧の話』も幻覚扱った作品で、水の音視覚との間に生じ神秘テーマ描いている。この『筧の話』の構想は、『蒼穹』や『闇の絵巻と共に創作ノート「闇への書」に記されているが、『器楽的幻覚』にはそういった草稿がないため、「義太夫の会」での体験から2年前のジル=マルシェックスの演奏会思い出され同様の幻覚幻視テーマ作品同時に出来上がったものと見られている。 『器楽的幻覚』と『筧の話』の2編は、12月20日頃に萩原朔太郎尾崎士郎宛て送付された。これは、萩原北原白秋主宰同人詩誌『近代風景』で発表されることを基次郎望んだためで(三好達治寄稿していた)、それ以前に基次郎東京尾崎宛てに、その詩誌に紹介労をとってもらいたい旨の手紙を書いていたとみられている。

※この「義太夫の会」の解説は、「器楽的幻覚」の解説の一部です。
「義太夫の会」を含む「器楽的幻覚」の記事については、「器楽的幻覚」の概要を参照ください。

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