第1幕への前奏曲
第1幕への前奏曲
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「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の記事における「第1幕への前奏曲」の解説
前奏曲は以下の4つの構成部分からなり、前作『トリスタンとイゾルデ』と比べると、一見穏やかな全音階法、古典的なソナタ形式に回帰している。また、この4部分については、ソナタ形式に対応すると同時に、交響曲の4つの楽章にも対応しているという形式面での多重性も指摘されている。 呈示部第1主題群(第1 - 96小節) ハ長調。冒頭は「マイスタージンガーの動機」であり、決然とした完全4度跳躍下行に始まり、同音反復、1点ホ→2点ホまでの1オクターブを順次進行し、さらに上昇して2点ヘ→2点ハへ完全4度順次下行する。これに伴う低声部も臨時記号のない全音階進行である。しかし、第2小節第4拍から第3小節第1拍にかけて不協和音程(イ音とト音の衝突)があるため、ここに音階固有音でない嬰ハ音を導入してイ音上の属七和音を形成している。この和音からはニ音上の短三和音への進行が予想されるが、音楽はハ長調に固定されたままであり、ニ短調にはならない。したがって、これは自然な全音階法とはいえず、きわめて人工的な全音階法である。 「マイスタージンガーの動機」につづいて、第27小節から木管楽器が新たな「求愛の動機」を示す。この動機の音高線は、4度下行→3度上行→4度下行→3度上行→4度順次下行であり、ここでも完全4度が支配的である。ただし、完全4度の中に半音階が含まれている。すなわち「嬰ヘ→ロ」の間に見られる短2度→増1度→短3度という新しい性格的な音程配置である。 第41小節からは、「ダヴィデ王の動機」(「組合の動機」、「行進の動機」とも)。同音反復とオクターヴを突き抜けたイ音は、「マイスタージンガーの動機」にすでに示されていたもの。 第58小節からは「芸術の動機」。対位法的にホルン、ヴィオラ、チェロの対旋律を伴っており、この対旋律もまた完全4度順次進行である。 第89小節からはオーボエが「情熱(青春)の動機」を示す。これは経過句として第2主題のホ長調を準備する。 呈示部第2主題群(第97 - 121小節) 「愛の動機」はホ長調。冒頭の5度下行音程は「マイスタージンガーの動機」冒頭の4度下行の転回形である。4度の枠組みを転回させて、それより幅広い音程を取ることで、マイスタージンガーの芸術とヴァルターの芸術の関係を象徴する。同時にこれは「求愛の動機」の拡大形でもある。つづく主和音の分散音型は、「ダヴィデ王の動機」と関連しており、この動機においては、ライトモティーフ相互の関連性が際だっている。 「愛の動機」が発展して「衝動(苦悩)の動機」となる。この動機は2連符と3連符の交替、冒頭の減4度音程が特徴であり、劇中では第1幕ヴァルターの「資格試験の歌」の背景となって現れ、さらには第2幕「ニワトコのモノローグ」を支配する「春の促しの動機」へと変容していく。 展開部(第122 - 157小節) イ長調から変ホ長調へと転じ、スケルツォ風の楽想となる。木管楽器によって「マイスタージンガーの動機」が縮小リズムとスタッカートで喜劇的に変容する。つづいて弦楽器群が「衝動の動機」を出す。これらは、ワーグナーの標題的注釈によれば「やきもち焼きの徒弟たちが子供じみた学者気取りで邪魔をし、それに苛立つヴァルター」の心理描写である。 第138小節からは、「芸術の動機」もやはり木管楽器によって縮小リズムとスタッカートで再現され、フーガとして処理される。ここでは飛び跳ねるような「哄笑の動機」を伴っており、「芸術」が揶揄の対象となっている。 再現部(第158 - 210小節) 再現部は計53小節で、呈示部(121小節)に対して極端に切りつめられている。第158小節から「マイスタージンガーの動機」がコントラバス、バス・チューバ、ファゴットの低声部に再現、その上に「ダヴィデ王の動機」(木管、ホルン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ)、「愛の動機」(1番クラリネット、1番ホルン、第1ヴァイオリン、チェロ)が重なり、すぐれて対位法的な処理となる。ただし、これら動機の重ね合わせによって、「マイスタージンガーの動機」の再現効果自体は弱められている。 第170小節から「哄笑の動機」、第174小節から「芸術の動機」、第188小節アウフタクトから再び「ダヴィデ王の動機」が再現し、コーダに向けて高揚する。第207小節からは長いドミナントの保持とトリル音型の度重なる上昇となる。 コーダ(第211 - 221小節) 再現部からの高揚がシンバルの一撃を伴う最終的な頂点を迎え、輝かしい「マイスタージンガーの動機」、飛び跳ねるような「哄笑の動機」、祝祭的なトランペットのファンファーレ音型によって高揚を重ねつつ、第1幕の聖カタリーナ教会の礼拝の場へとつながる。 この前奏曲で用いられる主要動機のすべては「マイスタージンガーの動機」から派生しており、こうしたライトモティーフ相互の関連性は、この前奏曲の大きな特徴となっている。前奏曲の中心となる「マイスタージンガーの動機」は、呈示部から数々の動機を生み出し、再現部では、自ら生み出した「愛の動機」と「ダヴィデ王の動機」に重ね合わせられる。ただし、このことは一見すると「単純から複雑へ」というプロセスを意味するようで、実際は異なっている。すでに述べたように、冒頭の動機処理はそれ自体がすでに複雑であり、展開部の変容や再現部の動機の重ね合わせの過程で、複雑さはさらに増していく。前奏曲のコーダに至って、「マイスタージンガーの動機」は初めて本来の単純さを獲得する。つまり、この前奏曲の理念は「祖型への回帰」であり、第3幕の大詰めの音楽において、この理念がさらに拡大された形で再現することになる。
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第1幕への前奏曲
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イ長調。8分割されたヴァイオリンが奏する縹渺とした和音から始まり、聖杯を象徴する旋律が奏される。旋律は柔らかな管楽器に受け継がれ、次第に音程が低く、厚くなっていく。やがて啓示的なフォルティッシモの爆発に高まるが、再びもとの天空に戻っていくかのように消えていく。1853年にワーグナー自身が書いた解説によれば、この前奏曲は、天使の群れによって運ばれてきた聖杯が、まばゆいばかりの高みから降臨してくる印象である。 この前奏曲はオペラ中でも特に名高く、独立して演奏されることも多い。1851年にリストが発表した論文には「虹色の雲に反射する紺碧の波」と書かれている。1860年にパリでこの前奏曲を聴いたベルリオーズは「どの観点からしても驚嘆に値する。」と述べた。また、1871年にはチャイコフスキーも「おそらくワーグナーの手による最も成功した、かつ最も霊感に満ちた作品」としている。下って1918年にはトーマス・マンが「存在するすべての音楽のうち、最もロマンティックな恩寵にあふれた前奏曲」だと述べている。マンは1949年にもこの前奏曲について触れ、「青と銀で輝く」と表現した。これらのうち、リストやマンが「青色」について言及している点は、イ長調の調性と色彩のイメージとの関連で興味深い。 「共感覚」も参照
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第1幕への前奏曲
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「トリスタンとイゾルデ (楽劇)」の記事における「第1幕への前奏曲」の解説
ここでは作品の主要動機のいくつかが紹介される。冒頭に半音階的下行フレーズAが現れ、これにつづいて4音による上行フレーズBがつづく。フレーズBは冒頭のフレーズAの反行形である。フレーズAの終わりとフレーズBの始まりが連結される際に生じる和音(ヘ-ロ-嬰ニ-嬰ト)が「トリスタン和音」と呼ばれるもので、劇中のさまざまな重要な場面で現れる。これが繰り返されて一段落すると、チェロに「眼差しの動機」が現れ、上昇していく。 冒頭の下行する半音階的フレーズAは「トリスタン」、「トリスタンの負傷」、「悲嘆」、「告白」などの名称が与えられるが、究極的な分類を拒む点で、この作品に特徴的である(#ライトモティーフの用法を参照)。つづくフレーズBとの対照から、フレーズAを「憧憬の動機A」、「トリスタンの愛」または「苦しみ」、フレーズBを「憧憬の動機B」、「イゾルデの愛」または「歓び」などとする場合もあり、後述する解釈につながる。 また、第1幕への前奏曲はそのまま第1幕の音楽へとつながっているが、この前奏曲と第3幕終結部を組み合わせた形で演奏会でも独立して演奏される。「初演の経緯」で述べたように、作曲者のワーグナー自身が終止部を書き残しており、こうした演奏の仕方を認めている。この演奏会形式について、ワーグナー自身は「愛の死」と「(イゾルデの)変容」と呼んでいたにもかかわらず、前奏曲と「愛の死」というタイトルが伝統的に定着している。
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第1幕への前奏曲
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変イ長調。ワーグナー自身は、前奏曲は「劇的」でなく「根源的」に演奏されねばならないと語っていたとされる。また、ワーグナーがルートヴィヒ2世のために書いた注釈には、「愛-信仰-:希望?」と記されている。前奏曲では、主として「愛餐の動機」(イングリッシュホルン、クラリネット、ファゴット、弱音器付きのヴァイオリン、チェロ)、「聖杯の動機」(金管の順次上行。ドイツの賛美歌『ドレスデン・アーメン(英語版)』を借用)、「信仰の動機」(ホルン、トランペット)が扱われる。とくに「愛餐の動機」は、多種の楽器を重ねることで楽器独自の響きがぼかされており、これはバイロイト祝祭歌劇場での上演を意識した音色と見られる。『ローエングリン』前奏曲がイ長調であるのに対し、『パルジファル』前奏曲がそれより半音低い変イ長調で書かれていることも、より柔らかい、くぐもったような雰囲気を表出することに役立っていると考えられる。曲は次第に重苦しくなっていくが、やがて「聖杯の動機」が希望を示すかのように繰り返され、第1幕へとつながっている。
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