空気ブレーキへの移行
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/30 08:58 UTC 版)
「真空ブレーキ」の記事における「空気ブレーキへの移行」の解説
アメリカ合衆国(アメリカ)や大陸ヨーロッパ諸国では、初期には真空ブレーキの導入が図られた例もあったものの、いずれも後にジョージ・ウェスティングハウスの開発した空気ブレーキシステムへと移行している。 特にアメリカは空気ブレーキの開発国であり、1893年に公布された連邦法で通常の鉄道車両における自動連結器およびこの新型ブレーキの搭載が義務づけられたため、以後、アメリカでの真空ブレーキの採用例は事実上皆無となる。 空気ブレーキは、高い圧力の圧縮空気と大気圧の差でブレーキピストンを駆動する仕組みである。真空ブレーキでは気圧差は最大でも1 気圧にしかならないが、空気ブレーキはブレーキ管内の圧力を上げればその何倍もの圧力で動作させることができる。これにより小さなブレーキシリンダーでも同等、またはより高いブレーキ力を発揮できた。また、機関士の操作に対する応答性に優れ、さらに自動空気ブレーキでは三動弁と呼ばれる特殊な弁装置を使用することで列車分離事故などの際にフェイルセーフ性が確保されるなど、真空ブレーキと比べていくつかの重要な利点があった。 しかしながら空気ブレーキでは圧縮空気の供給源として空気圧縮機の搭載が必要で、さらには連続動作や非常時の動作のために一旦圧縮空気を蓄積するエアータンクも搭載せねばならず、真空ブレーキと比較してどうしても構造や配管が複雑なものとならざるをえない。 蒸気機関車の場合、空気圧縮には往復動(レシプロ)式の蒸気圧駆動による空気圧縮機が搭載されるが、保安上重要な機器であることから通常の場合、これは故障時の冗長性確保の意味を含めて複数の装置をまとめたものが搭載されるため、装置全体の容積が大きくなることは不可避であった。 空気圧縮機の独特な形と、ブレーキが緩められる時にブレーキ管に圧縮空気を再度込める独特の音から、ウェスティングハウスシステムを搭載した蒸気機関車は遠目であっても真空ブレーキ搭載車とは容易に区別可能である。 日本ではその創業時にイギリスから技術を導入したという経緯もあって、アメリカの技術導入で開業し、当初から自動空気ブレーキを採用していた北海道を除く全国の幹線鉄道各線で真空ブレーキが広く普及した。 だが、列車速度や牽引定数が増大した1910年代後半以降、曲線半径の小さな急曲線区間や山岳線区が多く、そのためどうしても制動回数の多い、そして車両限界が小さくブレーキシリンダーの大径化が困難な日本の鉄道では、連続使用後の真空度の維持が難しい真空ブレーキの限界が早くに露呈した。 このため、日本の鉄道省は1921年(大正10年)にウェスティングハウス・エア・ブレーキ社(WABCO)製自動空気ブレーキの導入を決断し、同年末より各車両への搭載工事が開始された。 このため、当時量産中であった旅客用蒸気機関車の18900形では1922年(大正11年)製造分から、8620形は遅れて1923年(大正12年)製造分から、貨物用の9600形も同年製造分から、順次自動空気ブレーキ装置と、その動作に必要となる空気圧縮機や元空気溜などを搭載した姿で竣工するようになった。また、同じく1923年(大正12年)より製造が開始された重量貨物列車用の9900形では、当初よりこれらの装備が搭載されており、自動連結器の採用と合わせて貨物列車の牽引定数の大幅な引き上げに成功している。 また、こうした機関車側の変更に合わせて客貨車にWABCO製P(客車用)・K(貨車用)ブレーキがそれぞれ導入開始されており、これらの移行は連環式連結器から自動連結器への切り替えという歴史に残る一大イベントを挟んで徐々に進められた。 最終的には、1930年代初頭までに鉄道省在籍全車両と各私鉄の省線直通車両について、真空ブレーキ搭載車への自動空気ブレーキの搭載工事と、非直通車両からの真空ブレーキの撤去工事が実施され、ここに日本の鉄道からは真空ブレーキ搭載車が完全に消滅した。 なお、ブレーキの移行期間中の機関車各形式については、いずれも原則的に真空ブレーキと自動空気ブレーキを併設した形で運用されており、それらは移行完了後に順次真空ブレーキ用各機器や配管の撤去を実施している。 イギリスでは、グレート・イースタン鉄道(英語版)、ノース・イースタン鉄道、ロンドン・ブライトン・アンド・サウス・コースト鉄道(英語版)、カレドニアン鉄道(英語版)がウェスティングハウスのシステムを採用していた。またワイト島の鉄道でも標準であった。当然のことながら、これにより他の線と直通する列車については互換性の問題が生じた。適切なブレーキシステムを備えていない車両でも、異なるブレーキシステムの列車に連結して走らせられるように車両を引き通すブレーキ管を設けていた。これによりその車両より後ろに連結されている車両のブレーキを制御することができたが、当然ながらその車両自体のブレーキ力は働かない。
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