日本国内における普及と批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/20 15:18 UTC 版)
「インパクトファクター」の記事における「日本国内における普及と批判」の解説
現在、研究者や大学教員の人生および生計維持において、発表した論文のインパクトファクターの数字が決定的かつ絶対的な意味を持つケースは数多くある。例えば2016年に行われた東京女子医科大学の消化器外科講座の教授公募では、2015年に出版した論文のインパクトファクターの合計が15以上であることが公募要件として明記されている。2011年に行われた福井大学の助教の公募では、採用後にインパクトファクターが約10以上の雑誌に論文を出す等の条件を満たせなければ雇用を4年で打ち切ることが明記されている。一方、このような人事評価への利用についての批判も存在する。教授選考の指標として適切かどうかが問題となったこともある。さらに計算対象についても、直近2年の論文データしか用いないのは短すぎるとの批判がある。インパクトファクターを重視しすぎるあまり、重要な研究成果についてはより高いインパクトファクターを求めて国外の著名な論文誌に投稿する研究者もおり、結果的にその国の論文誌には重要な成果は掲載されないことになるため、その国の論文雑誌を衰退させる可能性があるという指摘もある。 2015年11月30日に、秋篠宮文仁親王は、50歳の誕生日に際して行われた記者とのやり取りにおいて、インパクトファクターに関して次のように述べた。 一方、今年もノーベル賞の受賞という大変うれしい知らせが先月ありました。もちろん、ノーベル賞の領域に入らない分野ですばらしい業績を挙げている人も多々おられますので、一つだけ取り上げるのはよくないのかもしれませんけれども、それでもやはり、私たちにとって誠にうれしいニュースでありました。しかも、地道な研究が評価されているということを感じました。ただ、その一方で、今学術の世界でだんだん短期的な成果を求められるようになってきています。例えば論文数ですとか、インパクトファクターの高いところに掲載されるかどうかなどですね。それは非常に大事なことではあっても、それのみで学術・学問が判断されることになると、地道に長い年月かけて行われて、良い成果が出るということがだんだんに無くなってくるのではないかなと、気にかかるときもあります。 2016年のノーベル賞受賞者である大隅良典は、論文不正問題の原因としてインパクトファクターを取り上げたNHKスペシャル『追跡 東大研究不正~ゆらぐ科学立国ニッポン~(2017年12月10日)』のインタビューで次のように述べた。 今の大学院生の気分からいったら「自分が何やりたいです」じゃない。何をやったらいい論文が書けるかで選んだり(している)。研究不正する人って研究を実際には楽しめていないと思う。今、大変大きな問題は、若者も研究の楽しさをなかなか知れない。私、今の時代だったら早々とキックアウト(追い出し)されてたろうなと。それは実感として思います。科学の世界は変なやつもやっぱり内包しながら、面白いことを考えている人たちを大事にする、そういう多様性を認めないといけない。(一億円の私財を投じて作った研究支援財団に関して)研究者の目線でこの人サポートしたらいいねという人たちがサポートできるような財団にしたい。 2017年の日刊工業新聞のインタビューでは次のように述べた。 若手は論文の数や、雑誌のインパクトファクターで研究テーマを選ぶようになってしまった。自分の好奇心ではなく、次のポジションを確保するための研究だ。自分の軸を持てないと研究者が客観指標に依存することになる。だが論文数などで新しい研究を評価できる訳ではない。例えば一流とされる科学雑誌もつまる所、週刊誌の一つだ。センセーショナルな記事を好み、結果として間違った論文も多く掲載される。彼らにとって我々がオートファジーやその関連遺伝子「ATG」のメカニズムを研究していることは当たり前だ。その機構を一つ一つ解明するよりも、ATGが他の生命現象に関与していたり、ATGの関与しないオートファジーがあるという研究の方が驚きをもって紹介される。研究者にとってインパクトファクターの高い雑誌に論文を掲載することが研究の目的になってしまえばそれはもう科学ではないだろう。 視野の狭い研究者ほど客観指標に依存する。日本の研究者は日々忙しく異分野の論文を読み込む余裕を失っている面もある。だが異分野の研究を評価する能力が低くては、他の研究を追い掛けることはできても、新しい分野を拓いていけるだろうか。研究者は科学全体を見渡す能力を培わないとダメになる。 本来、一人の研究者が年間に10本も論文を書くことはおかしなことだ。3年に1本良い論文を出していれば十分良い研究ができている。また科学者は楽しい職業だと示せる人が増えないといけない。 2018年のノーベル賞受賞者である本庶佑は、2018年12月26日に京都大学で行われた記者会見において次のように述べた。 インパクトファクターなるものを作った某社がありまして、これは極めて良くない。トムソンロイター社には直接申し上げたこともあります。論文の中身が分からない人が使うんですね。未だにそれを使われているということは、ほとんどの人が論文の価値を分かっていないということを意味している。こういう習慣をやめなければいけない。 2003年に、日本数学会は、「数学の研究業績評価について」という理事会声明を決定した。その声明の中で、異なる分野の論文を引用数を元に評価することについて次のように述べた。 サッカーの選手と野球の選手の価値をその選手が取った得点で比較するようなものであり、ほとんど意味がない
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