差別政策の推進
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 23:18 UTC 版)
2013年5月、ラカイン州当局は、ムスリムのみに2人までの産児制限を課した。「ムスリムの人口急増」がその理由である。ただし、この時は国際社会の批判もあり、明確な形では施行されなかった。 6月、「仏教保護機構(Buddhist Defence League)」(ティロカ代表)、969運動に近い僧グループのミャンマー愛国協会(マバタ)が結成された。 仏教保護機構、ミャンマー愛国協会は同年7月、仏教徒女性と異教徒男性の結婚を制限する「仏教徒女性特別婚姻法案」など関連4法案を連邦議会に提出した。法案では、仏教徒の女性は異教徒との結婚に両親の同意が必要で、男性は仏教への強制改宗をさせる内容である。強制改宗は、ムスリムが結婚しようとする異教徒に行っていることへの対抗措置という主張である。また、イスラム教で認められている、一夫多妻制の禁止も盛り込まれた。アウンサンスーチーは当初、同法案への反対を表明したが、969運動始め仏教界の反発を受け、ひざを屈した形になった。仏教界に詳しい地元誌『教育ダイジェスト』のキーウィン記者によると、僧の8割が心情的にも969運動を支持しているという。ミャンマー愛国協会は、法案に130万人の署名と請願書を提出した。 2014年5月6日、97の女性団体、地域団体が政府に法案に反対する請願書を提出した。5月9日、ミャンマー愛国協会が、結婚制限法案の反対派を「国家の裏切り者」「背後には、外国人勢力が付いている。『人権』を持ち出すだけで、公共の利益にかなっておらず、国家に対する忠誠心もない」と非難する声明を出した。 同年11月には、これまでの内容に加え、仏教徒の他宗への改宗も許可制とし、ムスリム・ロヒンギャを念頭にした産児制限法案など、関連4法案を改めて提出した。 5月14日、4法案のうち、人口調整法(産児制限法)が可決成立した。 6月21日、969運動とミャンマー愛国協会は、11月にも予定されている総選挙後の要求項目を決めた。ムスリムへの規制として、公立校でのブルカの禁止、イード・アル=アドハーで「無実の」生贄を捧げることの禁止などが挙げられている。また、ウィラトゥは、提出済の残り3法案成立に向け、政府への圧力を強めると述べた。 7月7日、4法案のうち、仏教徒女性特別婚姻法が国会で賛成524、反対44、棄権8で可決された。8月21日、4法案のうち、改宗法と一夫一妻法が可決した。8月26日、改宗法と仏教徒女性特別婚姻法がテイン・セイン大統領の署名により成立し、8月31日、残る一夫一妻法が成立した。これで、969運動とミャンマー愛国協会が起草した4法は全て成立した。4法の内容は、以下の通りである。 人口調整法(産児制限法) - 第1子出生後、36ヶ月(3年)間は次の子供を産むことを禁じ、妊娠した場合は強制堕胎も可能にする。法自体は全住民が対象だが、出生率の高いロヒンギャを標的にした物と指摘された。 仏教徒女性特別婚姻法 - 仏教徒女性と、非仏教徒男性の婚姻を規制する法律。仏教徒女性が非仏教徒と婚姻する場合、その宗教を届け出なければならず、第三者による地方裁判所への異議申し立ても認める。また、非仏教徒の夫は、妻を改宗させようとしてはならず、反仏教言動も禁止される。仏教への強制改宗義務はなくなったが、非仏教への改宗や反仏教言動の罪状に問われた場合、妻側は離婚理由にすることができる。その場合、共有財産は全て妻に没収され、慰謝料支払いの義務があるばかりで無く、親権も奪われる。なお、ミャンマーでは反仏教言動は宗教侮辱罪により、2〜4年の禁錮刑に処せられる可能性がある。 改宗法 - 仏教徒の改宗を許可制にする。改宗は18歳以上のみに許可され、改宗申請者は最低5人の委員による面談の上、90日間の学習期間を通して「宗教の本質、当該宗教の婚姻、離婚、財産分与のあり方、および当該宗教の相続と親権のあり方」を検討させる。また、他宗を侮辱・軽視・迫害目的での改宗、他人の改宗勧誘や、逆に断念させる説得も禁止される。 一夫一妻法 - 一夫多妻を禁じる。在緬外国人も適用される。いわゆる内縁の配偶者、事実婚の形での重婚配偶者との同居も禁じられる。違反者は財産権を没収され、7年以下の禁錮または罰金に処せられる。 ミャンマー愛国協会は、来たる総選挙で、4法に反対した候補者を公表すると発表した。総選挙の立候補届け出では、ロヒンギャであることを理由に政府によって届け出が退けられたり、野党・国民民主同盟が仏教徒の反発を恐れ、ムスリムの公認を自主的に取り消したりしているという。
※この「差別政策の推進」の解説は、「969運動」の解説の一部です。
「差別政策の推進」を含む「969運動」の記事については、「969運動」の概要を参照ください。
- 差別政策の推進のページへのリンク