墨跡の内容
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/09 23:43 UTC 版)
墨跡の内容は禅家特有のもので難解なものが多く、また実にさまざまであるが、大別すると次のように分けることができる。 印可状 詳細は「印可」を参照 印可状(いんかじょう)とは、印可の証として作成される書面のこと。特に禅宗に多い。それは師僧が修行僧に対して悟りを開いたことを認めた証明書であるため、容易に授けられないものである。よって、その授受は大変重要なことであり、墨跡の中で最も高い位置を占める。圜悟克勤の『与虎丘紹隆印可状』、宗峰妙超の『与関山慧玄印可状』、無準師範の『与円爾印可状』などがある。 圜悟克勤『与虎丘紹隆印可状』 宗峰妙超『与関山慧玄印可状』 無準師範『与円爾印可状』 額字 額字(がくじ)とは、禅院に掲げる額の文字のこと。寺名・軒名・室銘などがある。東福寺の円爾が中国から持ち帰った張即之や無準師範のものが有名である。この2人の力強い筆線と確固たる書風は、後世の額字や道号の書にも受け継がれ、一つの模範となった。伝張即之の『禅院額字方丈二大字』、楚石梵琦の『心華室銘』などがある。 字号 字号(じごう、道号・法号とも)とは、禅宗において、師僧が修行僧に号を書き与えたもの。号を大書し、偈頌を書き添えて与えるのが一般的で、その偈頌は道号頌(どうごうのじゅ)などと称し、字号の由来や意義を詠んだ漢詩である。師僧が修行僧を一人前の禅僧として認めたときに与えるものであるため、印可状同様に重要とされる。宗峰妙超の『関山字号』、古林清茂の『月林道号』、清拙正澄の『平心字号』、徹翁義亨の『言外字号』・『虎林字号』などがある。 伝張即之『禅院額字方丈二大字』 宗峰妙超『関山字号』 古林清茂『月林道号』 法語 法語(ほうご)とは、師僧が修行僧に悟道の要諦を書き与えたもの。真名法語と仮名法語があるが、禅家には仮名のものは少なく、漢文調のものがしばしば揮毫され、仮名法語が一般化したのは近世以降のことである。鎌倉時代の禅僧の思想は、中国の宋朝禅の模倣であり、仮名法語は漢文が読めない女性や俗人に対する方便の意味合いが強く、積極的に採用された表現法ではなかった。 法語は広義には師弟間のみならず、同輩間においても贈られ、進道語や餞別語なども含む。虚堂智愚の『法語』、密庵咸傑の『法語』、蘭渓道隆の『法語・規則』などがある。 餞別語 餞別語(せんべつご、餞別偈・送別語・送別偈とも)とは、日本から中国に渡航し、修行を終えて帰る禅僧に師友が餞別として書いて贈る法語、または偈頌のこと。月江正印の『与鉄舟徳済餞別語』、古林清茂の『与別源円旨送別偈』、南楚師説の『送別語』、竺田悟心の『餞別偈』などがある。 進道語 進道語(しんどうご)とは、師友の間で後進の修行僧に禅の肝要を書き与え、激励したもの。了庵清欲の『進道語』、一山一寧の『進道語』などがある。 虚堂智愚『法語』 蘭渓道隆『法語』 古林清茂『与別源円旨送別偈』 了庵清欲『進道語』 偈頌 詳細は「偈」を参照 偈頌(げじゅ、単に偈、または頌とも)とは、仏の教えを漢詩で書いたもの。内容は法語に似ているが、法語が散文体であるのに対し、偈頌は五言・七言の韻文体で表現している。遺偈・餞別偈・道号頌・投機偈(とうきのげ、師僧からの公案に対して修行僧が悟りの心境を詠んだ漢詩)などに細分される。古林清茂の『送幽禅人偈頌』、宗峰妙超の『渓林偈・南嶽偈』、無学祖元の『与長楽寺一翁偈語』などがある。 遺偈 遺偈(ゆいげ)とは、臨終を前に門弟に遺す偈頌のこと。禅僧特有のもので、死ぬ前に一言弟子たちに偈を遺す習慣があった。一生涯の悟りの境地が表された遺偈は偈の中でも特に珍重される。清拙正澄の『遺偈』、円爾の『遺偈』、寂室元光の『遺偈』、一休宗純の『遺偈』、独立性易の『遺偈』などがある。 宗峰妙超『渓林偈・南嶽偈』 無学祖元『与長楽寺一翁偈語』 清拙正澄『遺偈』 尺牘 詳細は「尺牘」を参照 尺牘(せきとく)とは、純漢文体の書簡のこと。大慧宗杲の『与無相居士尺牘』、無準師範の『与円爾尺牘』、兀庵普寧の『与東巌慧安尺牘』などがある。 疏 疏(しょ、または、そ)とは、官僚化された禅林において、下位から上位に対して出される表白文のこと。新しい住持の入寺を祝う文を入寺疏(にゅうじしょ)・山門疏(さんもんしょ)などといい、種々の勧進のための文を幹縁疏(かんえんしょ)・勧縁疏などという。無準師範の『山門疏』、中峰明本の『幻住庵勧縁疏』などがある。 榜 榜(ぼう)とは、官僚化された禅林において、上位から下位に対して告知される掲示文のこと。宗峰妙超の『看読真詮榜』などがある。 像賛 像賛(ぞうさん)とは、頂相の賛のこと。頂相には賛が書かれるのが一般的である。絵画全般に添えられた賛は画賛という。 大慧宗杲『与無相居士尺牘』 無準師範『与円爾尺牘』 無準師範『山門疏』 無準師範頂相と像賛
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