地球の軌道の変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 15:02 UTC 版)
ミランコビッチ・サイクルは、太陽の周りを公転する地球の軌道にみられる特徴で、公転軌道や自転軸の一連の周期的な変化を指す。それらの変化は日射量を変化させるが、各サイクルは異なる長さを持つため、ある時はそれらは互いに効果を強め合い、またある時は(部分的に)相殺され、日射量の変化は複雑な曲線で表示される。 ミランコビッチ・サイクルが氷河時代の中で氷期と間氷期の発生に影響を及ぼすことには有力な証拠がある。現在の氷河時代は、特に最近40万年間については、詳しく研究され、最もよく理解されているが、それは大気組成及び温度指標と氷体積を記録している氷床コアの対象とする期間だからである。この期間内において、ミランコビッチの軌道強制力の期間と氷期/間氷期の振動数の一致が非常に近いので、軌道強制力は一般的に受け入れられている。太陽からの距離の変化(軌道離心率)、地軸の歳差運動、及び地軸の傾き(軌道傾斜角)の変化が複合して、地球が受ける日射量が変化している。特に重要なのは地軸の傾きの変化で、季節ごとの気候の激しさに強い影響を与える。たとえば、7月の北緯65度での太陽放射フラックスの量は22%ほどの割合(450 W/m²から550 W/m²)で変動する。夏があまりに涼しくなると、前の冬に積もった雪を全て解かすことができなくなるため、氷床が発達することは広く信じられている。軌道強制力は弱すぎるので氷河の形成の引き金になることはないと信じる者もいるが、CO2のようなフィードバックの仕組みでこの不一致を説明できるかもしれない。 ミランコビッチ強制力が地球の軌道要素の周期的変化は氷河の記録で表現できると予測する一方で、氷期-間氷期のタイミングにおいてどの周期が最も重要だと認められるかを説明するためには追加の説明が必要である。特に、過去80万年の間、氷期-間氷期振動の卓越周期は10万年であり、それは地球の軌道離心率と軌道傾斜角の変化に合致する。けれども、これはミランコビッチが予測した3つの振動数の中では最も弱い。300万年前から80万年前までの間は、優勢な氷河形成のパターンは41,000年という地球の赤道傾斜角(自転軸傾斜角)の変化に合致する。ある振動数が他の振動数に対して優勢であることの理由はあまり理解されておらず、現在研究の活発な分野であるが、その答えはおそらく地球の気候系における何らかの共鳴の形と関係するだろうと考えられている。最近の研究成果は、増加した南極の海氷による10万年周期の優勢が全体の日射反射率を増大させていることが原因であると示唆している。 従来のミランコビッチの説では、10万年周期の支配的な時期が過去8回あったことの説明が難しい。アメリカの物理学者の Richard A. Muller や Gordon J. F. MacDonald らは、それは地球の軌道の計算が2次元的な手法に基づいているからであり、3次元的な解析を行えば、軌道傾斜角にも10万年周期が現れると指摘している。彼らは、太陽系のダストバンドと地球の軌道との交差が影響している可能性を提示しながら、これらの軌道傾斜角の変化が日射量の変化を導いているのだと述べている。これらは従来提唱されてきたメカニズムとは異なるものだが、計算結果は「予言されていた」最近40万年間について得られているデータとほぼ同じ結果を示している。この Muller と MacDonald の理論に対しては、気候学者の Jose Antonio Rial から反論されている。 古気候学者のウィリアム・ラディマン(英語版)は、10万年周期をもっともらしく説明するモデルとして、歳差運動(26,000年周期)に対する離心率の変調効果(弱い10万年周期)が、41,000年周期と26,000年周期で起こる温室効果ガスのフィードバック効果と結びついたという説明をしている。けれども、Peter Huybers が提案した別の理論では、41,000年周期は常に優勢なのであるが、地球は現在、2番目か3番目の周期だけでも氷河時代の引き金となり得る気候モードに入っているのだと主張している。これは10万年の周期性が実は8万年と12万年の周期が平均されたことによって作り出された錯覚ではないかと暗に示している。この理論は、Didier Paillard によって提唱された、単純な実験に基づく多状態モデルと一致している。Paillard は、更新世後期の氷期のサイクルは3つの準安定的な気候の状態の間の飛躍としてみることができると説明している。それらの飛躍が軌道強制力に誘発されたのに対し、更新世前期には41,000年周期の氷期はたった2つの気候状態の間の飛躍から結果として生じたとしている。この振る舞いを説明する力学モデルは Peter Ditlevsen によって提唱された。これは、更新世後期の氷期の周期は離心率の「弱い10万年周期」が原因ではなく、主として41,000年の自転軸傾斜角の周期に対する非線形の応答であるとする説に裏付けられるものである。
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