再生ファンドと少数株主の対立
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「カネボウ (1887-2008)」の記事における「再生ファンドと少数株主の対立」の解説
2005年5月12日、東京証券取引所は一連の粉飾決算が上場廃止基準に該当するとし、カネボウの上場廃止を決定する。産業再生機構および経済産業省を中心に東証に上場継続を求める声もあったが、市場の信頼性を維持するため上場廃止を決定した。大阪証券取引所は、遅れて5月24日に上場廃止を決定した。上場廃止日は2005年6月13日、上場最終日は6月10日である。 上場廃止直前、産業再生機構の片山執行役員は、受け皿企業に対してTOBの実施を条件にすると発言し、大幅下落していたカネボウ株は復調の兆しを見せる。上場最終日における最終取引価格は360円だった。再生機構は、増減資などの資本整理・事業整理の後、入札を実施し、花王および国内3ファンド(アドバンテッジパートナーズ有限責任事業組合、株式会社MKSパートナーズ、ユニゾン・キャピタル株式会社)連合を支援企業に決定。カネボウおよびカネボウ化粧品株を同ファンドに売却するが、売却価格を「守秘義務に当たる」として公表しなかった(後の同機構によるダイエー再生では、丸紅への売却価格は公表されている)。 2006年2月16日、臨時株主総会にて、中嶋会長を除く経営陣のファンド側出身者への交代を決定。その際、一般株主からTOBについて質問されるが、直前までトリニティ・インベストメントの代表取締役だったファンド出身の小森新社長は、「トリニティ社のTOB価格は知らない」と回答する。 2006年2月21日、カネボウ化粧品の所有するカネボウ株が3ファンド出資の受け皿会社トリニティ・インベスティメント株式会社に譲渡され、同社がカネボウの筆頭株主となる。同日、同社が他株主に対してTOBを実施する。TOB価格は上場廃止時の360円から大きくかけ離れたもので、また多くの一般株主にとって想定外の162円だった。被TOB側のカネボウは、その5日前の株主総会で「知らない」といったにもかかわらず、即日「妥当な株価である」と評価する。また、このTOBで一般株主に郵送された文書では「この公開買付に応募しない場合、産業再生特別措置法に基づく金銭交換(スクイーズアウト)によっての買取となり、162円である保証はない」等と脅迫に近い文言が並び、何も情報を持たない多くの株主はTOBに応じざるを得ないと解釈した人も多かった。 TOB価格についてファンド側は「DCF法、市場株価基準法等を勘案した結果」162円であると結論を出したとTOB公告に記した。しかし、買付期間終了2006年3月28日の7日前である3月21日に、ファンドは市場株価基準法を実際には用いなかったという内容などを含む公告訂正を行った。市場株価から考えると市場株価基準法を用いていないことは明白だったため、ファンドに対して虚偽記載に当たるとの指摘があったためではないかといわれている。しかし、訂正公告が買付期間終了直前だったことや、一般株主への郵送での公告訂正通知を行わなかったことから、「意図的に隠したのではないか」という批判が多く出た。 TOB価格決定については、トリニティ社は第三者機関である国内証券会社のみずほ証券に現資産および将来業績予測などの算定を依頼した。このみずほ証券はカネボウ株を所有していることが判明し、「第三者」とはいえないのではないかとの指摘がなされた。またTOB発表の数日前には、「(TOB価格は)知らない」といったカネボウ側は、このTOB価格について「独自に第三者へ依頼した算定結果を考慮すると妥当」と取締役会にて即時に賛同を示しているなど、疑惑をもたれかねない不審な動きを見せる。 2006年3月18日、ファンド側が示したTOBに個人株主の有志が応じず、株主としてカネボウの再上場を求めていく方針を討議。「カネボウ個人株主の権利を守る会」を発足させる。 その後、TOBは成立する。しかしファンド側の予想を大幅に下回り、ファンド側は議決権の85%程度しか占めることができなかった。 2006年4月に、主要3事業のファンド側企業への営業譲渡が発表される。反対する株主には株の買取請求が可能であることが通知された。ただし、買取請求受付期間が2週間ほどと短かったこと、公告掲載場所が限定的だったこと(カネボウのWEBサイトだけ。法的には問題なし)から、多くの株主が買い取り請求が可能であることを知らずに買取請求期間が終了してしまった。 2006年4月21日、「個人株主の権利を守る会」有志が、東京地裁に営業譲渡の差し止めの仮処分の申し立てを申請。4月28日、同申請は却下される。5月1日、東京高裁に即時抗告。7月28日、仮処分の申し立てを却下される。 2006年12月4日、「カネボウ個人株主の権利を守る会」を中心とする個人株主は、2006年5月の営業譲渡にかかわる免責債務の承認及び自社株式の担保化について、「カネボウの全株主の利益を確保するという取締役の忠実義務に違反し、カネボウに損害を与えた」として、中嶋会長、小森社長ら経営陣を会社法の特別背任罪で東京地検に刑事告発した。東京地検特捜部は2006年12月11日、この刑事告発を受理した。 2006年12月13日、「カネボウ個人株主の権利を守る会」を中心とする個人株主は、中嶋会長、小森社長以下カネボウ取締役5名に対して、営業譲渡債権の未回収分425億円あまりを連帯してカネボウに返済することを求める株主代表訴訟を東京地裁に起こした。 2006年12月27日、カネボウが発表した2007年度3月期中間決算において、先の主要3事業営業譲渡に伴う営業譲渡代金債権について、貸倒引当金を計上していることが明らかになった。これは、監査法人である監査法人トーマツの指摘によるものとされており、カネボウ自身はさしたる根拠もなく、文書中で「本営業譲渡代金は問題なく回収できると考えている」と述べている。しかし、通常貸倒引当金の計上は対象債権が回収不能(貸倒れ)になるリスクの軽減を目的に、その損失を見越して行われる会計処理であり、監査法人は、本債権が回収不能になることをカネボウ側が視野に入れている可能性の指摘をしたと推測される。このことにより、カネボウと3ファンド間での営業譲渡について、既に告発されている営業譲渡債権に絡むカネボウ取締役らの不法性が指摘される根拠となる可能性があり、今後の司法の動向が注目される。 2007年9月28日、旧カネボウの主要三事業の営業譲渡に反対する株主の株式買取価格請求事件において、鑑定人より鑑定結果が提出される。価格は、トリニティ・3ファンド側がTOBや買取請求で提示した価格である162円を大幅に上回る323円とされた(後に、明らかなミスの訂正により360円に改められた)。同鑑定では、価格決定に原告側が主張するDCF法を採用したとされている。一方トリニティ・3ファンド側も、TOB価格を決定するにおいてDCF法を採用したとしているが、両者の価格には大きな隔たりがあり、TOB価格の決定において、DCF法のパラメータを株価が低くなるように意図的な操作を加えた可能性があり、TOBの適法性に疑念が深まることになった。 2008年3月14日、先の東京地裁での「株式買取価格決定申請事件」ついて、裁判長は「1株360円」の鑑定結果を追認する決定をした、しかし旧カネボウ側・株主ともにこの決定を不服として東京高裁に即時抗告を行ったが、2010年5月26日に東京高裁は双方の抗告を却下。株主側による最高裁への特別抗告も却下されて、買取価格は360円と確定した。
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