優先権
(優先権主張 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/21 18:46 UTC 版)
産業財産権法における優先権(ゆうせんけん、英語: priority)は、正規の出願に発生する権利の一つである。優先権が発生した出願に係る権利を有する者は、同一客体の別出願について優先権を主張することができる。この優先権の主張が適法なものであれば、優先権が発生した先願と優先権を主張した出願との間の期間に行われた、第三者の行為によって不利な取り扱いを受けず、当該第三者にいかなる権利・使用の権能を生じさせない(パリ条約4条B)[1]。
- ^ 適法な優先権の主張の効果として、先の出願の時にされたものとみなされる(出願日が遡及する)と説明されることがあるが、登録要件を先の出願時で判断するに過ぎないため、この説明は正確ではない。
- ^ パリ条約の同盟国の国民は、パリ条約第3条の規定により同盟国の国民とみなされる者を含む(第43条の3)
- ^ 世界貿易機関の加盟国の国民とは、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書1C第1条3に規定する加盟国の国民をいう(43条の3)
- ^ 現在は明記しなければ全締約国を指定したものとみなす(PCT規則4.9(a))
- ^ なお、謄本の代わりにそれと同様な内容を有する公報若しくは証明書で、その同盟国の政府が発行したものを提出しても良い(同項)。また、特許出願・実用新案登録出願の場合は、第1国若しくは工業所有権に関する国際機関と電磁的方法によって書類を提出可能であると経済産業省令で定める場合には、必要書面を提出することで優先権証明書の代わりにできる(43条5項)。
- ^ 特許法・実用新案法では、優先日から1年4月、分割・変更・46条の2第1項の出願から3月のうち遅く満了する期間。意匠法・商標法では、出願日から3月以内。複合優先の場合は、基礎となる出願の中で最先の日が優先日として起算される逐条20版(p177)。
優先権主張
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 09:09 UTC 版)
日本が加盟する工業所有権の保護に関するパリ条約(パリ条約)は、優先権というものを認めている。同条約のある同盟国において正規に特許出願をした者またはその承継人は、その出願日(優先日)から一定の期間(優先期間)に他の同盟国において出願すれば、その間に生じたさまざまな事実によって不利益を被らない。 例えば、ある人Xが2000年6月にアメリカ合衆国に特許出願をし、同年12月に日本に特許出願をしようとしたところ、日本ではすでに同年10月に同じ発明を別の人Yが特許出願をしていたという事実があったとする。この場合、前述した先願主義によれば、日本においてはYの出願のほうが先であるため、Xの日本での出願はYの出願によって排除され、Xは特許権を得ることができないはずである。しかし、Xがパリ条約の優先権の規定を主張すれば、こうした不利益な事実は無視される。 しかし、このような優先権を主張するための外国でのXの出願にかかる発明が未完成であれば、日本でのXの出願が完成していても、優先権の主張は否定される。 これが明らかになった酢酸ビニルの製法事件の経緯は、ドイツでの1961年3月の出願に基づいて優先権を主張して1962年3月に日本に出願したところ、日本の特許庁に「ドイツ連邦共和国出願明細書には定量的に記載した実施例がなく、発明の要旨を具体的に開示するに足りる事項が示されていないので、化学方法の発明としてこの発明は未完成と解するほかなく、完成された発明である本願明細書記載の発明とは同一性がない」として優先権主張が認められず、その結果、1961年5月に日本でなされていた出願の後願となって拒絶された、というものである。これに対し、1977年に東京高等裁判所は次のように判示した: 我が国に出願された第二出願について第一出願による優先権を主張することができるためには、第二出願の発明と実質的に同一と認められる発明が第一出願に記載されていることが必要であることはいうまでもない。わが国における当該出願にかかる発明が完成された発明であり、優先権証明書添付の発明が未完成発明であれば両者は発明として同一性を有しないことは当事者間に争いがないから、審決が第一出願によつて完成された発明である第二出願に対して優先権の主張を認めなかつた判断に違法のかどはない。 — 酢酸ビニルの製法事件東京高等裁判所判決
※この「優先権主張」の解説は、「未完成発明」の解説の一部です。
「優先権主張」を含む「未完成発明」の記事については、「未完成発明」の概要を参照ください。
- 優先権主張のページへのリンク