優先構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 10:02 UTC 版)
隣接ペアの中の多くは、ふたつ以上の第二成分を持つ。たとえば「誘い」を第一成分とする隣接ペアは、「受諾」「拒否」というふたつの第二成分を持つ。したがって、第一成分の受け手(「誘い」の場合は誘われたほう)には、複数ある第二成分のうち、どれによって応対するかという選択肢がある(誘いを受けるのか断るのか)。そしてこのとき、肯定的な応対(「誘い」の場合は「受諾」)と否定的な応対(「拒否」)では、それがおこなわれる仕方が異なる。 肯定的な応対は、第一成分に対してすぐに(時間的に近接して)おこなわれる(「映画でもいこうよ」「いいね」)。それに対して否定的な応対は、同じようにはおこなわれない(「映画でもいこうよ」「いやだよ」とはならない)。否定的な応対は逆に、沈黙や「えー」や「うーん」のような間投詞によって時間的に遅延されたあとでおこなわれたり、あるいはそもそもおこなわれずに否定の理由だけが述べられたり(「ちょっと用事があるんだ」)、まず肯定的な応対がなされたあとで否定がおこなわれたりする(「いいね。でも…」)。 こうした特徴からは、第二成分に肯定的なものと否定的なものがあるとき、基本的には肯定的な応対がおこなわれるべきだ(否定的な応対はそれだけでおこなわれるべきではない)という規範があることがわかる。この規範のことを、(肯定的応対の)「優先性()」といい、さまざまな行為にひろく見られるこうした特徴のことを「優先構造」と言う。この優先構造は、個人の心理的特徴(実際問題としてその誘いを受け入れたいかどうか、あるいは断りにくい性格かどうかなど)とは関わりのない、行為をおこなう手続きにかかわる社会的規範である。あるいはより広い意味では、他者への配慮を求める規範であるとも言えるだろう(だから、相手の「自己卑下」や自分への「お世辞」の場合は、上の例とは違って「否定(拒絶)」が優先的になる)。 この観点からは、先行連鎖(3-2-2-1)などは、非優先的である否定的な応対がおこなわれることを避けるための手続きとして考えることができる。誘いの前置き(「明日ひま?」)があれば、誘い本体がくる前にそれがくることをブロックできる(「いや、忙しいんだ」と答えればいい)ので、結果として誘いの拒否はおこなわれずにすむのである。
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