フランスにおける状況
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/10 06:24 UTC 版)
第二次世界大戦終結後、フランスでは英語の使用の増加に対して反感を持つ雰囲気が形成されていった。一部では、「民族語の崩壊」は国のアイデンティティへの攻撃にも等しいと捉えられもしていた。しかしその一方で、この時期、アメリカからの物資の輸入によって英語のフレーズのいくつかがフランス語の中で使われるようになっていった。この流れを食い止めようと、政府はコミック・ストリップに対して検閲を行なったり、フランスの映画産業や吹き替え業界を支援するなどの策をとった。しかしながら、政府のこうした努力にもかかわらず、フラングレは書き言葉・話し言葉の両方において増えてきている。 フランスのマスメディアにおいても英語が使われる場面が目立っている。以下に一例を挙げる。 テレビ番組名に英語のタイトルが多く使われる。「Loft Story」「Star Academy」「Popstars」など。 有名人(セレブリティ)のことを「people」と呼ぶ。 有力紙「ル・モンド」は、週1回「ニューヨーク・タイムズ」からの記事を英語のまま掲載し、さらにフランス語の bavardage / clavardage(チャット)、courriel(電子メール)という単語ではなく、英語の「chat」「e-mail」をそのまま使っている。 若者をターゲットにしたラジオ局「NRJ」(「エネルジー」と発音)は、フラングレでの表現を放送で多用している。 ジェームズ・ユット (James Huth) 監督の映画『Brice de Nice』(「ニースのブリス」の意味だが、英語風に「ブライス・ドゥ・ナイス」と発音)では、格好つけようとして英語を使う10代の若者や流行を追いかける人々を皮肉る意図でフラングレが使われている。 ただし3.の場合、bavardage は実際に顔を合わせてのおしゃべりを指す単語であり、インターネット上でのチャットという意味は薄い。「chat」はフランス語で「猫」を意味する単語でもあり、書き言葉では紛らわしいこともあって、clavier(キーボード)とbavardage のかばん語である clavardage が使われることもある。 電話会社やインターネットサービスプロバイダ (ISP) の大多数も、サービスの名称や広告などに英語やフラングレの表現を使う例が増えてきている。業界第1位のフランステレコム(現Orange)は、当初「France Télécom」という表記だったコーポレートロゴをアクサン記号のない「france telecom」に置き換えたほか、サービスの名称に「Business Talk」「Live-Zoom」「Family Talk」といったものを使用していた。また「Orange」ブランドでも、携帯電話事業において「mobistores」という名称の小売店をフランチャイズ展開していたほか、かつてはISP事業のブランド名に、アメリカ英語のスラング「wanna do (= want to do)」から命名した「Wanadoo」というものを使用していた。フランスで2位のISPの会社名は「Free」で、同社が提供するセットトップボックス (STB) の名称も「freebox」である。これに続き、他のISPからも「neuf-box」「alice-box」など類似の商品名が登場してきただけでなく、「box」という語自体が STB 一般を指す呼び名として広まりつつある。Orangeが提供する同様のサービス名も「Livebox」である。 フランス国鉄は乗客の満足度向上のための「S'Miles」というプログラムを導入した。またエールフランスは、自社のマイレージサービスの名称を Fréquence Plus から「Flying Blue」に変更した。さらに、パリ交通公団が導入したICカード乗車券システムは「NaviGO」という名称である。 アカデミー・フランセーズやフランス語高等評議会といった公的機関は、英語からの借用語に対して代替語を提案している。しかし、それらの代替語が一般に浸透している度合いは単語によってまちまちである。例えば、英語の「computer」や「software」という単語がフランスに上陸するよりも前から存在していた ordinateur(コンピュータ)・ logiciel(ソフトウェア)という単語は広く受け入れられているが、「weekend」やその直訳である fin de semaine の代替語 vacancelle は広まることはなかった。ケベック州フランス語局が「e-mail」の代替として提案した courriel は書き言葉として急速に広まっているが、フランスではインターネット利用者の多くが「mail」を使っているのが現状である。これには、一般的に言って英単語のほうが速く発音でき、新たな概念に対応する新語が登場するのも早いこと、一方でフランス語の代替語は英語の新語が定着した後になってから考えられるということが理由としてある。 アカデミー・フランセーズが提示する代替語は、技術的なことに詳しい人々には反応が悪く、詳しくない人々にとっては意味がよく理解できない場合がある。これらの代替語は、しばしば音声学に基づいて人工的に作られ、語源については考慮されていないことがあるため、曖昧な内容になるばかりか、全くナンセンスな意味になるケースもある。例えばCD-RWの代替語である cédéroms réinscriptibles は、直訳すると「書き換え可能なCD-ROM」であるが、ROMは本来「read-only memory」(読み出し専用メモリ)の略であるため、矛盾する表現になってしまっている。また、pourri(腐った)と、それ自体がかばん語の courriel(電子メール)を合成した pourriel(スパムメール)など、語源が複雑なために奇妙に感じられるものもある。他に、フランス語の音声学に基づいて「chat」の頭に t を加えた tchat や、DVDを1文字ずつ発音した音をつなげて表記した dévédé など、格好悪いと考えられているものも多い。
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