ドメスティック・バイオレンス(DV)をめぐって
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「井上ひさし」の記事における「ドメスティック・バイオレンス(DV)をめぐって」の解説
ひさしが電通のディレクターから寸借詐欺に遭ったときに、前妻である好子も被害者の一人であったことが交際するきっかけとなった。 ひさしの三女である石川麻矢が1998年に自らの生い立ちと家庭について綴った『激突家族 井上家に生まれて』(中央公論社)によると、ひさしと当時の夫人・好子(麻矢の母)は共に強い個性の持ち主で、互いに妥協することをしなかった。夫婦喧嘩は大変派手で、場所をかまわず「やったらとことん」で、子どもが二人の間に介入することも嫌っており、子どもに対して暴力をふるったことはなかった。当時は家庭内が険悪だったわけではなく、好子はひさしにとって「優秀なプロデューサーであり、マネージャーであった」と石川は記している。執筆でひさしの足がむくむと好子はそれを取るためのマッサージをした。やがて、筆が進まなくなるなどで、ひさしは好子に暴力を振るうようになり、編集者も「好子さん、あと二、三発殴られてください」などと、ひさしの暴力を煽った。殴られて顔が変形しても「忍耐とかそんな感情ではなく、作品を作る一つの過程とでも思っているような迫力で父を支えていた」と石川は記している。 ひさしの作品を専門に上演する「こまつ座」の旗揚げは二人にとって共通の大きな夢の実現だったが、石川はその中で夫婦の方向性が少しずつずれてきたと記している。その時期から、好子はどんなに迷惑を掛けても素晴らしい作品を残せばいいというひさしを傲慢だと思うようになった。さらに『パズル』の台本が完成せずに上演をキャンセルしたことで、好子は作家の妻の立場と関係者に迷惑をかけたこととの間で苦しんだと述べている。 この時期に好子とこまつ座舞台監督の西舘督夫との不倫が発覚、1985年に井上家を出て翌年6月離婚。石川は“不倫”が発覚した当時、好子が座長と作家の妻の立場の狭間で疲れ切っていたこと、更年期に当たっていたこと、ひさしが好子にとても厳しかったことを挙げている。 離婚後、西舘好子は『修羅の棲む家』(はまの出版)でひさしから受けた家庭内暴力を明かした。この本で「肋骨と左の鎖骨にひびが入り、鼓膜は破れ、全身打撲。顔はぶよぶよのゴムまりのよう。耳と鼻から血が吹き出て…」と克明に記している。ひさし自身も離婚以前に「家庭口論」等のエッセイで自身のDVについて触れている。一方で、好子がひさしに「嚙み付く、ひっかく、飛び道具を使う、嚙んだら離さない」等の暴力を一方的に振るわれていたわけではなかったという矢崎泰久の目撃証言もある。 これらのDVについて、ひさし側は真偽もふくめて黙殺する対応をとり、公職や公的活動も一切控えることをしないまま、特に追及する声も起らずに話題としては終息した。小谷野敦も『週刊新潮』追悼記事でのコメントでは、作品への賛辞に園遊会問題(政治的発言の項参照)への批判を添えながら、この話題には一切触れていない。西舘好子はその自著で、ひさしが人気作家であることから、いかに出版社の人間たちがひさしを守っていたかを綴っている。また、上記の出版当時、ひさしと疎遠であった石川は数年後に長女の都と入れ替わって、こまつ座の代表に就任するなど急速な和解ぶりを示し、死に際しても異例の記者会見で悼辞を述べるに至った一方、逆に都が臨終にも呼ばれなかったなど複雑な家族関係が『週刊ポスト』に指摘された。なお『激突家族 井上家に生まれて』には、都はひさしの離婚時に「泣いて抵抗したにもかかわらず」こまつ座の代表になったという記述がある(189ページ)。なお、二女の綾も臨終・葬儀に呼ばれていない。 後妻の井上ユリはひさし没後の2010年6月に発売された『文藝春秋』7月号に寄稿した「ひさしさんが遺したことば」において、ひさしとの結婚生活において口論になったことはほとんどなかったと記した。 また、西舘好子は2018年2月20日に発行された『家族戦争 うちよりひどい家はない!?』(幻冬舎)の「第四幕 切っても切れない深い結びつき 家族の晩期」において、「泥沼離婚をしたあと、私たちは真夜中の電話を二十数年間続けていました。(中略)今振り返れば、あの二十数年という歳月は、お互いの憎悪を浄化するために必要な時間だったのかもしれない、と思います。冗談を言い合い、ふざけ合っていたときは、単なる仲のいい友人同士でした。」と述べ、また「家族戦争を終えた今は、井上さんの書いた作品が次の世代に読み継がれ、多くの人に笑ったり泣いたりしてもらえることを、私は心より願っています。」と記した。
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