【MIM-104】(えむあいえむいちまるよん)
Raytheon MIM-104 Patriot.
1966年の「SAM-D計画」により、レイセオン社が開発した長距離地対空ミサイル。
1984年に原型となる「MIM-104A」初号機がアメリカ陸軍に納入された。
元々はMIM-14ナイキ中距離地対空ミサイルの後継として開発されたもので、車両編成は射撃管制装置・レーダー装置・アンテナ装置・電源車・発射機等からなる。
また、今までの中距離地対空ミサイルでは、発射に必要な装置が大型だったため、固定された施設でしか運用できず、配備・展開までに相当の時間がかかっていたが、本ミサイルでは装置が小型化されて全て車両へ搭載できるようになったため、柔軟な運用が可能になった。
戦闘時においては低高度・高高度等に対しても高い要撃能力を持っており、ECMにおいてもECCM能力が有るのでその能力に変化は無い。
本ミサイルは現在、当初運用者であるアメリカ(陸軍で使用)だけではなく、日本(航空自衛隊)・台湾・イスラエル・オランダ・ドイツ・クウェート・サウジアラビア等で使用されており、1991年の湾岸戦争では、イラク軍がイスラエルやサウジアラビアに対し使用したSS-1スカッドB地対地ミサイルの撃墜に成功している。
しかし、その時の命中率は約十分の一程度と悪く、今後の課題となった。
現在、その課題点を解消した新型の「PAC(Patriot Advanced Capability)-3 ERINT(Extended Range Interceptor)」が開発され、アメリカ陸軍や航空自衛隊で使用されている。
また、並行して「PAC-2」系列の改良も行われている。
スペックデータ(MIM-104 A/B)
全長:5.31m
直径:41cm
翼幅:84cm
発射重量:900kg
最大速度:マッハ5
有効射高:60-24,000m
射程:70km+
推進装置:TX-486 1段式固体燃料ロケットモーター(燃焼時間11.5秒、推力10,900kg)
弾頭:HE 近接信管(70kg)
誘導方式:指令更新付慣性誘導/セミアクティブTVM
主な構成
- 発射機(LS):
M901/902発射機を使用する。M901では最大4発、M902では最大16発のミサイルを搭載できる。
1パトリオット中隊は5~8基の発射機を運用する。
- レーダー装置(RS):
AN/MPQ-53(Config.2以前)又はAN/MPQ-65(Config.3以降)Cバンド多機能フェイズドアレイレーダーを使用する。
目標の捜索・追尾の他、IFF、ミサイル誘導などを行う。
1高射隊当り1台が配備される。
- 射撃管制装置(ECS):
AN/MSQ-104(Config.2以前)又はAN/MSQ-132(Config.3以降)を使用する。
1射撃中隊に1台が配備され、RSからの情報を処理し要撃命令を下す。
最大16台の発射機を接続でき、同時に8台の発射機を制御する。
米軍ではM927 5tカーゴトラックまたはLMTVカーゴトラックの荷台に搭載された状態で運用され、2名のオペレーターが操作する。航空自衛隊では73式大型トラックを改修したものを使用する。
RSとは有線でインターフェイスし、発射機との通信はVHF無線または光ファイバーによって行われる。
- 情報調整装置(ICC):
AN/MSQ-116(Config.2以前)又はAN/MSQ-133(Config.3以降)を使用する。
1高射群(BN:Battalion)に1台のICCが配備され、ECSとはUHF無線によってインターフェイスし、隷下に6台のECSを置く。
上位組織及びAWACSとの連接が可能である。
- 無線中継装置(CRG):
AN/MRC-137(Config.2以前)又はAN/MRC-147(Config.3以降)を使用する。
ECS-ICC間の通信でUHF無線の見通しが取れない場合に使用される。
なお日本のものは山岳地であることを考慮して独自改修されており、有線接続にてECS-ICC間の通信ができるようになっている。
- アンテナマスト(AMG):
OE-349/MRCを使用する。
外付けのUHFアンテナであり、ECS、ICC及びCRGに接続されて運用される。
- 発電機
EPP-III発電プラント。M977 HEMTTに搭載されている。
ECSとRSには、EPP-III(Electric Power Plant-III)により電力を供給する。
ICCとCRGには、EPU(Electric Power Unit)により電力を供給する。
またAMGには、接続されているECS、ICC又はCRGから電力供給を受ける。
航空自衛隊仕様は、国産開発のガスタービン発電装置に改良されている。
バリエーション
- MIM-104 BASIC(MIM-104A):初期配備型。
- MIM-104 PAC-1(MIM-104B):ECCM能力向上。ソフトウエアの改良・レーダー最大取り付け角度改良(45°> 90°)・限定的な弾道ミサイル対処能力。
- MIM-104 PAC-2(MIM-104C):ソフトウエア改良・ミサイル変更(MIM-104C:弾頭炸薬向上・信管改良)。
SS-23・スカッド・アルフセイン等の短/中距離弾道ミサイルに対処出来る様になった型。
- MIM-104 PAC-2/GEM(MIM-104D):誘導改良型(Guidance Enhanced Missile)。シーカーの低雑音化など。低RCSの目標や高速の弾道ミサイルの対処能力向上。
- MIM-104 PAC-2/GEM+(MIM-104E):PAC-2系列最新型。低RCSの目標や高速の弾道ミサイルの対処能力向上。ミサイルの信頼性向上。MIM-104C/D順次置き換え予定。
- MIM-104 PAC-3/Conf.1:MIM-104Dベース。射撃管制装置、レーダープロセッサ改良。
- MIM-104 PAC-3/Conf.2:Conf.1のレーダー改良(低RCS、対レーダーミサイル対抗性)。LINK16JTIDS互換性。
- MIM-104 PAC-3/Conf.3(ERINT):テポドン・ノドン等の長距離弾道ミサイルに対処出来る様になった型。ミサイルの数も以前の4発から16発になり要撃能力も上がった、しかしその分射程距離はかなり落ちている。
参考リンク
レイセオン社 パトリオット
http://www.raytheon.com/products/static/node3832.html
関連:ミサイル防衛 RIM-161 THAAD
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