『秋田治亂記(實録)』
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『秋田杉直物語』に描かれた秋田騒動だったが、それに対抗して秋田で作られたと思われるのが『秋田治亂記(實録)』である。『秋田治乱記』と『秋田治乱記実録』の記述はほぼ同じで(やや実録の方が詳細)、いずれも作者や作成年は不明である。 『秋田治乱記』では『秋田杉直物語』の佐竹義堅、佐竹義真暗殺の件は一言も語られず、佐竹義明の代から始まっている。 野尻忠三郎は元来巧らみ深く知謀も人に優れていて、大番役を務めていた。しかし、野尻は近習の人々を語らい、家名を興そうとする野心があった。あるとき、近習達の酒宴の席に加わって「御家中で憎らしいのは四家、一門、座辺である。先祖の正しいことを鼻にかけ、位倒れにのさばっていて、平士を見下している。自分たち平士の方が勤めは大変であるのに報われることは少ない。当君義明公は『御心よし』で万事家老役人任せ、何でも役人の言う通りになさるようである。そこで四家を始め一門辺座の人々を讒言して逆意と言い立てて、彼らを滅ぼそう。その後、今度は殿を亡き者にして若君を取り立て、自分たちが秋田の国を思いのままにしようではないか。仲間としては、まず江戸の那珂忠左衛門を引き入れよう。」と言った。近習達は賛同し、連判の者を募る。家老大越甚右衛門、梅津外記、山方助八郎を始め多数が一味になる。軍法者は野尻忠三郎、江戸の大将は那珂に決まる。 銀札施行での混乱はほとんど史実通りである。野尻忠三郎の計略は佐竹義明が秋田に到着後に佐竹図書や佐竹山城の取り調べが行われる時に、各地から出火させ騒乱を起こし佐竹義明が出馬する際に、寄り添う形で佐竹義明を暗殺し跡に図書や山城の家の提灯をばらまくものであった。禁足中でありながら、大勢の家来を差し出したことから太守殺害の嫌疑がかかり、これを江戸に言上すれば、両家の滅亡は間違いなしとした。 佐竹義明は大山伊織から月額を剃られる時、江戸の箕作茂左衛門からの又聞で家臣の奸佞があることを知り、心中にはそのことを考えてはいた。しかし、秋田城に着いてから大越や山方が家に帰らず昼夜側を離れず詰めていて、太田蔵之介が意見があると言っても伝わらない。どのように尋問するかを考えていたが、26日側近の小野崎源太左衛門、大久保東市、大島左仲を陰の間に召して直接尋問すると、自分たちの悪事を洗いざらい白状する。この後は全体の3分の1にあたる文書量で秋田での一味の処罰と功労者の褒賞が、延々と記されている。 野尻忠三郎は『秋田杉直物語』では、結末の仕置きの条で名前だけが挙がっていた人物であるが、実際に行われた処罰では野尻忠三郎は草生津刑場で断罪という、那珂忠左衛門に次ぐ厳しいものであった。また秋田藩の公式記録である『後藤七右衛門祐良御勘定奉行勤中日記』でも「此の度の一儀は根本野尻忠三郎深き巧みより起こりし候」とまで記録されている。野尻が兵具奉行になった時、物頭達の間で彼の排斥運動が起こり、それを聞いた野尻が野心を起こしたのが騒動の発端であるという。また、那珂は野尻の娘婿であると記されている。 石井忠行は『伊豆園茶話』で「秋田治亂記といふは、共温公(佐竹義明)の御うえの御事より書きそめて、詞のかざりもなく、誠しげに見ゆ、まづは日記のごとし」(十七の巻)と評している。『秋田叢書』(旧版第7巻、昭和7年)の解題では「この書は文書こそやや暢達を欠けど、その筆不偏不党にして公平を保ち、その記事最も正鵠を得たるものの如くである。これを諸家の記録に照らしあわせるに多く支梧を見ない」としている。 三田村鳶魚は『列侯深秘録(p.13)』で「馬場文耕がむやみに藩主毒殺事件を記しているのに反して、本書には『秋田沿革史大成』に書かれている義真侯の毒殺さえもはばかって書かず、逆に派閥によって誅殺されたとされる山方、大越、三枝、那珂、野尻等の家名が復活されたことを記している」と批判している。佐竹義真の急死は当時から怪死と思われていた。三田村の指摘の通り、『秋田沿革史大成(p.103)』には「御側方其他御家中何レモ其急症ヲ疑フ」とある。著者の橋本宗彦はこの資料の出典を明らかにしていないが、恐らく古記録や古文書ではなく、伝承から採ったのではないかと思われる。 『秋田杉直物語』では出だしに佐竹氏の祖先が新羅三郎と誤り無く記述されているのに、『秋田治亂記(實録)』の出だしは、それが八幡太郎と誤りが増えている。しかも、秋田藩内で修正された雰囲気もない。この部分は秋田藩で盛んに信仰されていた「八幡神社」と何らかの関わりがあると考える人もいる。
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