「弘法大師が出会った竜頭太」の縁起
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「伏見稲荷大社」の記事における「「弘法大師が出会った竜頭太」の縁起」の解説
東寺などに伝わる文献では、以下のように空海と稲荷神の関係が伝承されている。これらの説話は平安時代初期を舞台としているが、文献自体の成立は14世紀頃である点には留意すべきである。 『稲荷大明神流記』などにはこうある。 稲荷大明神流記 眞雅記云ゝ弘仁七年孟夏之比。大和尚斗藪之時於紀州田邊宿遇異相老翁。其長八尺許骨高筋太内大權氣外示凡夫相。見和尚快語曰「吾有神道聖在威徳也。方今菩薩到此所弟子幸也」。和尚曰「於霊山面拝之時、誓約未忘此主他生、形異心同。予有秘教紹隆之願。神在仏法擁護之誓、諸共弘法利生、同遊覚台。夫帝都坤角九條一坊、有一大伽藍、号東寺。為鎮護国家、可興密教霊場也。必々奉待々々而巳」。化人曰「必参会」。守和尚之𣳬命等云々。同十四年正月十九日。和尚忝賜東寺。為密教道場也、因之請来法文曼荼羅道具等、悉納大経蔵畢。其後同四月十三日、彼紀州之化人来。臨東寺南門。荷稲提椙葉、率両女二子矣。和尚歓喜、授与法味、道俗帰敬、備飯献果。 爾後暫寄宿二階柴守、其間点当寺杣山。定利生勝地。一七ヶ日夜之間、依𣳬鎮壇法示荘厳。額然而円現矣、為後生記綱目耳。 — 『稲荷大明神流記』 (大意)弘仁7年(816年)4月頃、紀州国の熊野で修行中の空海(弘法大師)は田辺の宿で常人とは思えない老翁に出会った。身の丈は八尺、立派な体躯で威厳が感じられるが、それを表に出さない顔立ちだった。その老人は空海に会えたことを喜んで語った。「自分は(以前そなたに会ったことのある)神である。そなたには威徳がある。私とともに修行して弟子となるがよい」空海は答えた。「霊山であなたに会った時の約束は、たとえ見かけが変わろうと心は同じであり、まだ忘れていません。私は密教を広めたいという願いが有ります。あなたには仏法でそれを守ってくださるようお願いします。京の都の西南の方角の九条というところに東寺という大伽藍があります。ここで私は国家を護るための密教を興すのです。この寺でお待ちしておりますので、必ずお越しください」。睦まじく語らい合って約束を交わした。 弘仁14年(823年)正月19日、空海は東寺を賜って道場を開くため法文や曼荼羅、道具等を運び、経蔵を納めて真言の道場とした。この年の4月13日、紀州の神が東寺の南門にやってきた。神は椙(すぎ)の葉を持ち稲を担ぎ、2人の婦人と2人の子供を連れていた。空海は大喜びで崇敬の心で一行を食事や菓子でもてなし、周りもこれに倣った。しばらく一行は八条二階の柴守(しばのかみ)の家に留まり、その間に空海は東寺の杣(すぎ)山に17日間祈祷して神に鎮まっていただいた。この事が現在まで伝わる由縁となっている。 また、東寺に伝わる『稲荷大明神縁起』では 或記伝、古来伝伝、竜頭太は、和同年中より以来、既に百年に及ぶまで、当山麓にいほりを結て、昼は田を耕し、夜は薪をこるを業とす。其の面竜の如し。顔の上に光ありて、夜を照らす事昼に似り、人是を竜頭太と名く。其の姓を荷田氏と云ふ。稲を荷ける故なり。而に弘仁の比に哉、弘法大師此山をとして難業苦業し給けるに、彼翁来て申し曰く。我は是当所の山神也。仏法を護持すべき誓願あり。願くは大徳常に真密の口味を受け給ふべし。然者愚老忽に応化の威光を耀て、長く垂述の霊地をかざりて、鎮に弘法の練宇を守るべしと。大師服膺せしめ給ひて、深く敬を致し給ふ。是以其面顔を写して、彼の神体とす。種々の利物連々に断絶する事なし。彼の大師御作の面は当社の竃戸殿に案置せらる。 — 『稲荷大明神縁起』 (大意)ある書物では、100年の昔の和銅年間から竜頭太という者が稲荷山の麓に家を構えて住んでおり、昼は田を耕し、夜は山に入って薪を求める仕事をしていた。その顔は龍のようだった。頭の上に光放つものがあり夜でも昼のように明るかった。姓は荷田、名は竜頭太といった。これは稲を背負っていたからという。(中略)空海はその顔を面に写し神体として祀り、それからは収穫が絶えることがなくなった。この面は東寺の竃戸殿に祀ってある。 とあり、当時伏見稲荷大社の社家であった荷田氏の出自を述べていて、社家が秦氏の出身としている。社家の荷田氏は、「和銅年中、初めて伊奈利三ヶ峰の平処に顕坐してより、この神は、秦氏人等が禰宜・祝として春秋の祭りに仕えた」。伝統的な社家には、この秦氏を出自とする荷田氏、西大路氏、大西氏、森氏などがいる。なお、東寺が空海(弘法大師)作という面を竃戸殿に置いた由来についてここでは述べられていない。縁起にある竜頭太は自ら稲荷山の山神を名乗り、「その顔は龍のようだった。頭の上に光放つものがあり夜でも昼のように明るかった。」とあり、これは後光を背した羅刹天を想起させる。
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