「不味い」というイメージ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/22 06:32 UTC 版)
「イギリス料理」の記事における「「不味い」というイメージ」の解説
イギリス料理は、フランス料理やイタリア料理などと比べ種類が少なく食材の多様性も貧弱で、イギリス人自身がイギリス料理の不味さを自虐的にジョークのネタにするほどである。ブリテン諸島は高緯度にあり、気候が冷涼で日射量も少ないため、自生する植物の種類が少ない。また全体的に山地の少ない扁平な地形で森林に乏しく、河川も少ないため水資源も豊富ではない。さらに土壌も大陸ヨーロッパと比較して畑作に向いておらず、殆どが牧草地である。このような地理条件から食文化がさほど多様化せず、英語の料理用語はフランス語などからの借用が多い。 さらには、「野菜は本来の食感がわからなくなるほど茹でる」、「油で食材が黒くなるまで揚げる」、「麺を必要以上にゆでる」などといった食材本来の味や食感を残さないほど加熱する調理法も他国人に好まれない理由である。しかも好みに応じて塩や酢などで味付けされることを前提としているため、調理の段階では味付けらしい味付けがされないことも多く、そのことを知らない旅行者は味のない料理に困惑することになる。実際、現在でも高級店を含むイギリスのレストランの多くでは、塩や酢などの調味料がテーブルに並ぶ様子が見られ、客が好みで味付けすることを想定している。 かつてのイギリス貴族に、日曜日は牛を一頭屠ってローストビーフやステーキを食べるという習慣があった事も一つの原因である。一頭分の牛肉は1日で食べきれない。平日の食事では日曜日に残った肉をそのまま好きなように味付けし、あるいは単に温める。さらに日が過ぎたものはカレーやスープなどの具として再び調理して食べていた。結果として日曜日以外は、「冷たいか、火を通しすぎたか、味が落ちた肉」を誤魔化して食べざるを得ず、個人が好みで味付けするという食習慣が成立した。なお、このような日曜日に大食をするのが贅沢という習慣は、フランスやイタリアなどでも見られたが、やがて美食が贅沢という方向に移っていき、世界的に評判の高いイタリア料理やフランス料理の成立を見た。 また、過剰な加熱がされるようになった一因には、産業革命以降の労働者の居住環境があげられる。当時、都市居住の労働者階級の賃金水準では食材を入手自体が困難であり、また母親や子供までもが重労働に従事して調理に手間をかけることもできなかった。これに食物を加熱殺菌が奨励された当時の衛生学の啓蒙と相まって、とりあえず火だけは通し、胃袋さえ満たせれば味は重要視しないという調理法が普及したのである。 またイングランド人社会学者のスティーヴン・メネル (Stephen Mennell) は、「目の前に、二つの皿が並んでいたら、自己否定の原則に従って、自分の好きでないほうを食べなければならない」と考えるピューリタン的な禁欲主義が、イギリスの食文化の発展を阻んだという見方を、著書で紹介している。なお、メネル自身はこの見方を否定している。 結果、上述の通り現在ではイギリスでも美味しい料理は食べられるが、それは外国料理や、外国の料理の技法を取り入れた新しい料理だったり、伝統的イギリス料理を改革したものという位置づけになった。 イギリス料理に対するマイナスイメージを払拭しようとする試みも始まっている。日本においては、2013年より在日本英国大使館が「Food is GREAT」「A Taste of Britain」「ためしてみて、美味しいイギリス」と題したキャンペーンを展開している。大使館の広報部マーケティングマネジャーは「英国の食べ物はまずいという、10年ほど前にいわれていたことが、日本では都市伝説化している」 と主張しており、日本駐箚英国特命全権大使のティモシー・ヒッチンズを筆頭に大使館職員らがイギリス料理のイメージ改善に取り組んでいる。
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