破壊的技術
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/16 07:25 UTC 版)
概要
破壊的技術とは、従来の価値基準の下では従来製品よりも性能を低下させるが、新しい異なる価値基準のもとでいくつかの優れた特長を持つ新技術のことである。いくつかの優れた特長は低価格・シンプル・使い勝手のよさなどであることが多い。
破壊的技術という概念は1995年にクレイトン・クリステンセンらが提案した[2]。持続的技術と対比される。破壊的技術がもたらす変化を破壊的イノベーション、破壊的革新という[3]。2023年には、人工知能、モノのインターネット、ブロックチェーン、5Gネットワーク、3Dプリンティングが、現時点での破壊的技術のトップ5であるとする体系的な見解が発表されている[4]。
破壊的技術は優れた特長を有しながらも従来の価値基準では性能的に劣るので、当初は主流市場において地位を得られない。かわりに破壊的技術の優れた特長を高く評価する、小規模で新しい市場を創出することになる。
その後、従来製品が持続的技術により着実な性能向上を果たすのと同様に、破壊的製品も持続的技術により従来指標の性能をも進化させていく。どちらの製品も着実に性能向上するため、従来指標での性能はあくまで従来製品に分がある。
ある種の技術では性能向上速度が需要向上速度を追い抜いている。この場合、いずれ「性能が顧客の需要を超える」すなわち性能向上による付加価値が飽和するタイミングが訪れる[5]。メイン顧客にとって更なる性能向上には恩恵がなく、2つ以上の製品がこの基準を満たすとこの機能/性能指標は差別化点から同質化点へと転換する(選ぶ理由から必要条件への転換)[6]。単なる同質化でなく付加価値が飽和した上での同質化であるため、この性能指標はメイン顧客にとってもう必要十分となっている。
破壊的製品がこの段階を迎えるとメイン市場の競争環境は激変する。なぜなら同質化により主要市場の価値基準(差別化点)が他の指標へ移り変わるからである[7]。そして破壊的製品は他の優れた性能を他市場で磨いてきており、これが主要市場の新しい価値基準下で大いに評価され、破壊的製品は従来製品を代替することになる。
従来製品で戦い続ける場合、メイン顧客を破壊的製品へ譲り、メイン顧客以上にその性能を求める市場へ進むことになる。このような高付加価値市場はニッチである一方、高利益率であるケースが多い。
このような遷移を辿るため、企業経営において破壊的技術への投資は重要である。しかし優良企業こそこの投資をシステマチックに避けてしまう傾向がある。このメカニズムはイノベーションのジレンマとして知られる。
持続的技術
持続的技術(じぞくてきぎじゅつ、英: sustaining technology)は主要市場のメイン顧客が評価してきた性能指標に従って性能を高める新技術である[8]。言い換えれば、従来の価値基準のもとで性能を改善するタイプの新技術である。
持続的技術には性能 +1% の部品変更のような漸進的変化から、性能 x2 のアーキテクチャ変更のような抜本的変化まで、様々なレベルがある[9](表参照)。どのレベルであっても明確化された既存性能指標の向上を目指して開発・導入される。
分野 | 性能指標 | レベル | 技術(新 → 旧) |
---|---|---|---|
ディスクドライブ | 記録密度 [MB/cm2] | アーキテクチャ | ディスクパック → ウィンチェスタードライブ |
材質 | フェライトヘッド → 薄膜ヘッド → 磁気抵抗ヘッド | ||
部品 | フェライトヘッド微細成形/巻き付け改良/バリウム添加 |
持続的技術がもたらす変化を、持続的イノベーションという。
- ^ "「破壊的技術」... これは、少なくとも短期的には、製品の性能を引き下げる効果を持つ ... 一般的 に、破壊的技術の性能が既存製品の性能を下回るのは、主流市場での話である。... 破壊的技術は、従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらす。" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press (p.23). 翔泳社.
- ^ Bower, Joseph L. & Christensen, Clayton M. (1995). "Disruptive Technologies: Catching the Wave" Harvard Business Review, January-February 1995.
- ^ Googleスカラー「"破壊的革新" イノベーション OR innovation」
- ^ Păvăloaia, Vasile-Daniel; Necula, Sabina-Cristiana (2023-02-23). “Artificial Intelligence as a Disruptive Technology—A Systematic Literature Review” (英語). Electronics 12 (5): 1102. doi:10.3390/electronics12051102. ISSN 2079-9292 .
- ^ "技術革新のペースがときに市場の需要のペースを上回る ... 顧客が必要とする以上の、ひいては顧客が対価を支払おうと思う以上のものを提供してしまう" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press (p.23). 翔泳社.
- ^ "競合する複数の製品の性能が市場の需要を超えると、顧客は、性能の差によって製品を選択しなくなる。" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press (p.35). 翔泳社.
- ^ 破壊的技術の性能は、現在は市場の需要を下回るかもしれないが、明日は十分な競争力を持つ可能性がある。 ... 破壊的技術は ... いずれ主流市場で確立された製品に対抗しうる性能を身につける ... この事態が起きたとき、競争の基盤、すなわち顧客が製品を比較して選択する際の基準が変化する" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press. 翔泳社.
- ^ "新技術のほとんどは、製品の性能を高めるものである。これを「持続的技術」と呼ぶ。... あらゆる持続的技術に共通するのは、主要市場のメインの顧客が今まで評価してきた性能指標にしたがって、既存製品の性能を向上させる点である。" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press (p.22). 翔泳社.
- ^ "持続的技術のなかには、断続的なものや急進的なものもあれば、少しずつ進むものもある。" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press (p.22). 翔泳社.
- ^ Tushman, M.L. & Anderson, P. (1986). Technological Discontinuities and Organizational Environments. Administrative Science Quarterly 31: 439-465.
- ^ Henderson, R. and Clark, K.(1990) "Architectural innovation: the reconfiguration of existing product technologies and the failure of established firms", Administrative Science Quarterly, 35, pp. 9-31.
- ^ Christensen, Clayton M.;Raynor, Michael E. (2003). The Innovator's Solution. Harvard Business School Press. ISBN 1-57851-852-0.(玉田俊平太監修・伊豆原弓訳(2001)『イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社)
- ^ “イノベーションのジレンマ 《要約》”. 2021年3月9日閲覧。
- ^ http://www.sankei.com/smp/gqjapan/news/140718/gqj1407180001-s.html
- ^ http://japan.zdnet.com/article/35019196/
- ^ http://www.circu.co.jp/x_book_magazine/526
- ^ 大西宏. “テレビもDVDもツタヤも、「終わり」始めている 定額動画サービスの脅威”. ビジネスジャーナル/Business Journal. 2022年11月6日閲覧。
- ^ wikt:disrupt
- ^ 山口栄一(2006)『イノベーション 破壊と共鳴』NTT出版
- ^ “『イノベーションのジレンマ』早わかり講座」”. Biz/Zine (翔泳社). (2014年11月15日)
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