備州とは? わかりやすく解説

び‐しゅう〔‐シウ〕【備州】

読み方:びしゅう

備前(びぜん)国・備中(びっちゅう)国・備後(びんご)国の総称


吉備国

(備州 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/02 03:12 UTC 版)

吉備国(きびのくに)は、古代日本の地方国家である。現在の岡山県全域と広島県東部と香川県島嶼部および兵庫県西部(佐用郡の一部と赤穂市の一部など)にまたがる有力な地域の一つであり、大和筑紫出雲などと並ぶ古代日本の四大王国(四大王権)[1]の一角であった。

別名は、吉備道(きびのみち、きびどう)、備州(びしゅう)。

概要

後の令制国では備前国備中国備後国美作国にあたる。

後代には、単に吉備といえば美作を含めないことが多かった時期もあった。

現代では備前・備中・美作(つまり岡山県の別称)を指すか、備前・備中・美作・備後(岡山県と広島県東部)を指して使用されることが多い。

令制国(備前国/備中国/備後国/美作国)
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備前国()
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備中国()
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備後国()
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美作国()

歴史

吉備地方の平野(鬼城山から望む)

吉備は古代、畿内出雲国と並んで勢力を持っていたといわれ、巨大古墳文化を有していた。また、優れた製鉄技術があり、それが強国となる原動力であったとされる。『古事記』中巻、孝霊天皇の段などに兵庫県の加古川以西が吉備であると捉えられる説話があり、加古川を国境としていた時期があると考えられている。

弥生時代後期の後半に(2世紀初めから3世紀中頃まで)、この地方独特の特殊器台・特殊壺が作られ、綾杉紋や鋸歯紋で飾られ、赤く朱で塗った大きな筒形の土器だった。これは部族ごとの首長埋葬の祭祀に使われ、弥生墳丘墓(楯築弥生墳丘墓)から出土している。また最古級の前方後円墳(箸墓古墳西殿塚古墳)からも出土しており、後に埴輪として古墳時代に日本列島各地に広まった。また吉備は弥生時代からのの生産地だった。

この時代、吉備では鍛鉄技術が進み、入手した材料から鉄製品が作られた。古墳時代に入ると吉備では鉄鉱石を採掘し、中国地方ほかで製鉄も始まったが、弥生時代に製鉄がすでに始められたと考える説もある[2]

古墳時代、吉備地方の現在の岡山平野南部は内海となっていた(吉備穴海、もしくは吉備内海と呼ばれる)。4世紀からこの内海の近くに多数の前方後円墳が造られた。『記紀』や神社伝承においても崇神天皇による四道将軍の遠征によって彦五十狭芹彦命稚武彦命兄弟や鴨氏族が吉備に進出したことが記録されている。

5世紀に大和王権の雄略天皇吉備田狭の乱(463年)の鎮圧に成功し大和中央政府の優位を決定づけた。さらに雄略の死の直後には、吉備稚媛(田狭の元妻で雄略の妃)と星川稚宮皇子(雄略と稚媛の息子)が反乱を起こしたため清寧天皇はこれを鎮圧し(479年)、またしても吉備の勢力を削減させている。

吉備国の前方後円墳の分布

6世紀半ばからは巨大な石で構成した横穴式石室を持つ円墳が造られた。また6世紀後半の千引カナクロ遺跡では製鉄炉が確認されている。一方、浦間茶臼山古墳金蔵山古墳のように初期の古墳においても大量に鉄製品が出土している事情や、吉備氏入植以前から製鉄氏族が先住していたと見られることから、製鉄の起源を弥生時代にまで遡るものと見る説もある[3][4]

造山古墳作山古墳は築造当時の日本列島で最大級、現存する日本の古墳のうちでも第4位及び9位の規模をもち、吉備地方の繁栄とこの地の豪族の力を示すものである。

これら古墳の前にあたる前方後円墳時代の吉備と、後にあたる7世紀の吉備地方には、複数の豪族が並び立っていたと考えられている。造山古墳・作山古墳を統一的な吉備政権の存在の証とする説や、この時代にも複数の有力豪族の連合政権であったとする説、大和政権支配下での有力豪族の集団であったとする説などがある。

国造本紀』によれば、吉備地方には大伯氏(大伯国造)、上道氏(上道国造)、三野氏(三野国造)、下道氏(下道国造)、加夜氏(加夜国造)、笠氏(笠国造)があった。吉備の国造の場合、多く(上道・三野・下道・加夜・笠)が臣(オミ)姓を称している。

この中の下道氏と笠氏は、後に朝臣(かばね)を名乗る(吉備朝臣[5]奈良時代に日本をリードした学者・政治家の吉備真備は下道氏である。その後、上道氏や賀陽氏も朝臣を賜姓されている。

分国は、持統天皇3年(689年)の飛鳥浄御原令の発布をもって備前国備中国備後国に分割、それから遅れること二十数年後の和銅6年(713年)に備前国の内陸部が美作国として分立した。

吉備国守・吉備大宰・吉備総領は、『日本書紀』・『風土記』・『続日本紀』に散見される官職で、吉備国分割の前後に設置されたらしい。職掌・管轄範囲・存続期間は伝わらない。大宰府の前身とおぼしき筑紫大宰とともに、中央から派遣され、管下の複数の国の外交と軍事を統括する任務を負ったものと推測される。史料に見える最後は、文武天皇4年(700年)の吉備総領任命記事である。遅くとも大宝律令制定までに廃止された。

この後今日に至るまで、吉備四国は、一体として統治されることはなく、備前と美作、備中、備後の3つに分かれた状態が明治まで続くことになる。この分裂状況の余波は、同じ岡山県となっているにもかかわらず岡山都市圏(備前)と倉敷都市圏(備中)が対立したり、室町時代以降は備後が安芸と一体化し近代以降は広島県として統合されるなどという形で、現在まで影響している。

現代では吉備(の)国という呼称は、旧備前・備中・美作に相当する岡山県の別称ないし雅称[6]としておもに用いられる。

人物

国司[7]
吉備国守
吉備大宰
  • 石川王 - ?年任官-679年(天武天皇8年)吉備に於いて病死。
吉備総領
按察使
南海道節度使

木簡に記述されている人物

平城京跡,飛鳥京跡出土の木簡
  • 秦老人 - 備前国。
  • 秦忍山 - 備前国。
  • 秦大丸 - 備前国。
  • 秦勝小国 - 備前国。
  • 秦勝千足 - 備前国。
  • 秦部得丸 - 備前国。
  • 秦部(犬)養 - 備前国。
  • 秦部得万呂 - 備前国。
  • 健部臣結 - 備前国。
  • 葛木部小墨 - 備前国。
  • 倭文部東人 - 備前国。
  • 土師寅 - 備前国。
  • 守部思人 - 備前国。
  • 白猪部乙嶋 - 備前国。
  • 白猪部身万呂 - 備前国。
  • 尾治部加之居 - 備前国。
  • 矢田部未呂 - 備前国。
  • 若倭部五百足 - 備前国。
  • 若倭部百足 - 備前国。
  • 和仁部太都万呂 - 備前国。
  • 牛守部小成 - 備前国。
  • 山守部小廣 - 備前国。
  • 鴨直君麻呂 - 備前国。
  • 三家連乙公 - 備前国。
  • 間人連麻呂 - 備前国。
  • 間人連小人 - 備前国。
  • 漆部色人 - 備中国。
  • 帯部益国 - 備中国。
  • 阿曇部押男 - 備中国。
  • 各田部虫(額田部虫) - 備中国。
  • 氷高親王(氷高内親王) - 備後国。
  • 矢田部甲努 - 備後国。
  • 矢田部木身 - 備後国。

関連する地域

備州

備州(びしゅう)とは、備前・備中・備後のいずれか、あるいは全体を指す名称。または、吉備国全体(備前・備中・備後・美作)を指す名称。

三備

三備(さんび)とは、備前・備中・備後の三国の総称。三備地区の繊維産業

両備

両備(りょうび)とは、備前・備中・備後のうち、いずれか2カ国を指す名称、および2カ国に跨る地域である。備前と備中、もしくは備中と備後の場合が多い[8]。備前と備後は備中を間にはさんで地理的距離があるため、この2国を合わせて呼称する機会が少ないためである。

例として、旧備中国である笠岡市・井原市を中心とする井笠地方は、旧備後国の福山都市圏にも含まれるため、これらを中心とする地域をまとめて両備と呼ぶ場合がある。両備軽便鉄道両備信用組合はこれに由来。

なお、バス事業などを展開する両備グループの両備は元々備前と備中と言う意味である[8]が、同業他社のM&Aの結果、バス事業は三備地域に亘って展開されている。

ちなみに、備後の広島県府中市に本社を置く機械メーカーリョービは、カタカナ表記以前に使用した漢字表記は「菱備」であり、備中・備後の「両備」と創業時の取引会社だった三菱を掛け合わせたものである。

脚注

  1. ^ 『日本旧派歌道流派総覧』P13
  2. ^ 鉄の伝播とたたらの始まり」(日立金属)
  3. ^ 高見望『吉備王国残照 古代の十字路からの発信』東京経済、1992年。
  4. ^ 宝賀寿男『古代氏族の研究⑨ 吉備氏 桃太郎伝承を持つ地方大族』青垣出版、2016年。
  5. ^ 天武13年(684年)八色の姓
  6. ^ 吉備の国文化遺産ムービーライブラリー岡山県庁HP
  7. ^ 『吉備郡史』上巻、永山卯三郎、1971年、613頁、備中国司表等より
  8. ^ a b 山陽新聞社『岡山大百科事典』1979年

関連項目


備州

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/18 00:33 UTC 版)

吉備国」の記事における「備州」の解説

備州(びしゅう)とは、備前備中備後いずれか、あるいは全体を指す名称。または、吉備国全体備前備中備後美作)を指す名称。

※この「備州」の解説は、「吉備国」の解説の一部です。
「備州」を含む「吉備国」の記事については、「吉備国」の概要を参照ください。

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備州

出典:『Wiktionary』 (2018/07/05 05:39 UTC 版)

固有名詞

(びしゅう)

  1. 吉備国又はそれを分割した備前国備中国備後国あわせてもしくはこのうちいずれか一国指して呼ぶ名称。備前国から分国後の美作国該当する場合もある。

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備品

備品室

備品管理室入社後、麻理鈴が最初に配属された部署。社内で使用する文房具を中心とする備品の在庫管理やその配達を行う部署。社内では『辞めさせたくても、辞めさせることが出来ない人を飼っておくための座敷牢』と呼ばれている。峰岸ともここで出会う。秘書課2課麻理鈴が備品管理室から異動になった部署。所属スタッフは外国語に堪能で仕事が出来るスタッフが多く、メインスタッフの数が限られている。近江物産本社ビルの高層階に位置し、他の一般の部署とは廊下などの共用部分の作りが異なり、高級感がある。秘書課2課は実質的に会長の秘書業務を行い、秘書課1課は社長の秘書業務を行っている。秘書課2課に隣接するファイル室には、関係者以外の立ち入りが禁止されている。総務部麻理鈴が秘書課より異動になった部署。集計や会議室の予約などの業務を行っている。宇田山チーフ、林、佐々木チエなどのスタッフが在籍し、麻里鈴が備品管理室に在籍していた際にも度々備品の配達を行うなど関係が深い。女性スタッフが多い部署である。Cプロジェクト準備室麻理鈴が総務部に配属のまま出向していた部署。大都市を造りだし、遷都を行うことをプロジェクトのミッションとして掲げている。スタッフの人数は少ないが、海外支社から呼び寄せたスタッフが在籍するなど少数精鋭の部署。Cプロジェクトの具体的な方向性が決まると、『Cプロジェクト推進室』と名前が変更となり、使用する部屋の移動やスタッフの再編が行われた。近江総合研究所つくば市にある近江物産の研究施設。各分野の専門的な研究を行うことで今後の社会経済の方向性を予測する業務を行っている。近江総合研究所で予測された情報は、多くの有名企業などが高い会費を支払い提供を受けている。実力主義で男女ともに平等にチャンスが与えられる。レディースシンクタンクCプロジェクト準備室から総務部に戻った麻理鈴が峰岸に呼び出されチーフを務めることとなった会社。峰岸が立ち上げた近江物産のグループ会社で女性向けの人材派遣会社。ドラマでの外観はニューピア竹芝ノースタワーが使用され、それに伴い近隣でのロケ撮影も行われた。太一呂

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