SPV/SPC
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/02 13:59 UTC 版)
「ストラクチャード・ファイナンス」の記事における「SPV/SPC」の解説
仕組みの中核をなすものがSPV(Special Purpose Vehicle)あるいは、conduit(「導管体」)の利用をあげることが一般的である。証券化は、さまざまな資産を最終的に証券の形に変換する技術なので、このため何らかの仕組みが必要になる。この仕組みの最も典型的なものがSPVであり、証券化と呼ぶことができるスキームでは必ず利用されているといってよい。SPVは主として証券化の対象となる原資産を有価証券の形に変換する機能を担っているが、機能を支障なく果たすためにはSPVに原資産から流れ込むキャッシュ・フローが、途中で減少することなく商品の側に流れ出さねばならない。この場合、最大の曲者がSPVに課せられる法人税である。SPVが原資産から受け取る収益と証券化商品に対して支払う金利が税法上それぞれ収益・費用と取り扱われる限り問題は生じないのだが、さまざまな理由で税法上が配当とみなされる可能性がある。巨額の法人税課税がSPVに対してなされてスキームが崩壊してしまうのである。 SPC SPC(特別目的事業体,特定目的会社)というのは狭義の意味でタックス・ヘイヴンに設立された株式会社のことを指す。もちろん、SPCをタックス・ヘイヴン以外で設立することもある。アメリカの場合、会社法の制約が緩やかなデラウェア州を使うことが多い。タックス・ヘイヴンとは(税金避難地)、産業振興等の目的から、海外から進出してくる企業に対して法人課税に代表される課税の全部または一部を免除しているか、極めて低い税率しか適用していない国をいう。ストラクチャード・ファイナンスでなじみの深いところでは、ケイマン諸島、バミューダ、蘭領アンチルス、バハマが挙げられる。信託勘定は自動車ローンを信託受益権という有価証券に転化するために利用されている。このような機能をファイナンスの形式転換という。証券化の場合は「有価証券」に転換する必要があるので、有価証券を発行することのできる主体である必要がある。日本の場合、信託の利用がきわめて制限されているので、「有価証券」が必要な場合はSPCを利用することが中心となる。 1.チャリタブル・トラスト(慈善信託) 証券化は保有している資産をオフバランス化(資産または取引について、企業会計原則に基づき作成された貸借対照表に計上されない状態)するものだからSPCが売り主と会計上連結されてしまっては意味がない。後述するように、売り主と仕組みとの間を倒産法上隔離するに当たって、売り主がSPCの株主権を自由に行使できては、売り主より高い格付けを取得することができない。こうしてほとんどのSPCは、スポンサーとの資本関係が存在しないように仕組まれている。チャリタブル・トラスト(慈善信託)がSPCの株主として存在しており、弁護士などが当初の発起人になってSPCを設立して株式を全額取得する。この株式を信託会社が全額譲り受けるが、同時に信託宣言という英米法特有の制度を利用して、譲り受けた後この株式を信託保有することを宣言する。この際、委託者であり、かつ受託者でもある信託会社は、例えば21年の間証券化の目的に従って株主権を行使する(端的にいえば何もしない)義務を負い、信託契約満了時には会社の残余財産をすべて慈善団体に寄付することを約する。ただし、この時点では案件は完了しており、期待される残余財産は当初の払い込み資本金のみということになる。このような仕組みにより、SPCは実質的に株主が存在しない状態となる一方、SPCの形式的な所有者は慈善団体に寄付することを最終目的にした慈善信託ーチャリタブル・トラストーということになる。 2.信託 典型的な信託契約というのは、大金持ちの老人(委託者)が父親が戦死してしまった孫たち(受益者)のために、自分が死んでからも遺産が適正に使われるように、信用のおける人(受託者)と契約を締結し(信託契約)、この人に自分の財産の相当分を委託し、孫が成人に達するまで年間一定の金額が孫たちに必ず支払われるようにし、この目的が完了したら残余財産をかくかくしかじかの人に分配してくれと頼むケースを想定している。このように3種類の当事者が関与する信託を他益信託、多くの場合は2当事者しか関与しない自益信託(設定時点で委託者=受益者であるような信託)である。自益信託の典型例としては、企業(受託者=受益者)が余裕資金を信託銀行(受託者)に委託して、その裁量有価証券投資を行ってもらい、そこから生まれた利益から信託銀行の報酬を差し引いた金額を受け取るといったケースが挙げられる。証券化に絡む信託は、この自益信託の形態をとるものがほとんどである。A社から資産を譲り受けたSPCが委託者兼受益者となって銀行に自動車ローンを委託し、そっくりそのままの権利を受益権証書の形でいったん取得する。ただし、受益権証書は優先・劣後の2種類存在するので、投資家が取得するのは実際にはそのどちらかであり、また、そのうちの一部ということになる。こうして、自動車ローンという資産が2種類の小口に分割可能な受益権諸所という有価証券に転換されるわけである。この場合、信託といっているものは実際には契約であって、会社のような組合ではない。しかし、上記の例では、企業が信託銀行に資金を信託する代わりに資産運用会社に出資して運用利益を株式配当の形で受け取る場合と比較してみると、そこには単なる契約とはいいきれない独立した経済実態が存在するようにも思える。実際、証券化との関係でいえば、SPCも信託も働きはほとんど同一であり、これを一種の組織として考えたほうがわかりやすい。さて、日本の税法では、課税対象を原則として組織の法形式に基づいて分類し、その結果を法人格を認める余地のない信託については原則としては税務上の透明性を認めるというアプローチをとっている。こうして、日本では信託勘定をSPVとして採用することによって米国のように税法を手直しせずとも、米国型の証券化スキームのほとんどを問題なく実現することが可能であると思われる。ただし、現在のところ、信託は証券化との関係では、証券取引法における「有価証券」を作り出すための機能を果たしていないという根本的な問題がある。 3.組合 法律的には民法上の組合と商法上の匿名組合がある。税務上は商法上の匿名組合とその他の組合(任意組合という)があり、共にそれそのものには課税がなされない。税務上の透明性を持つSPVということができる。税法上の任意組合は民法上の組合とかなりオーバーラップするが、契約的に組合の形態をとっていても実質的に社団性が強かったり、あるいはそれが法人課税の脱法であるような場合は、任意組合ではなく、人格のない社団として法人課税されることに注意を要する。つまり、税法上の任意組合は人格のない社団に対置される概念であり、この視点から任意組合かどうかが常に実質的議論されるのである。これに対して、匿名組合については、商法上匿名組合であるという形式要件を満たすと、原則として税法上も匿名組合として取り扱われる建前になっている。
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