非言語コミュニケーション実験による被験者の変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 22:22 UTC 版)
「先天盲からの回復」の記事における「非言語コミュニケーション実験による被験者の変化」の解説
全身的動作・姿勢の認知実験に伴ってあらわれた変化 開眼者は全身的動作の認知実験を受けることで初めて他者の動作への関心が生じ、日常生活の中でも人が電話(1970-80年代なので黒電話)を取るときの「上げたり下ろしたりする腕の動き」に注目するようになったり、姿勢認識実験を受けているうちに全盲の友人を、白杖の音が聞こえなくても立っているときの姿勢「じっと動かないで, 首を下げた姿勢で立っている人」で「待ち合わせをしてるのに, 誰かを探す動作をしていない人」を周囲から弁別すれば見つけられると気づいたことを報告している。 表象的動作の認知実験に伴ってあらわれた変化 全身の身体動作を捉えること自体が困難な段階から、身体の表象的動作(動作によってなんらかの象徴的な意味合いを伝達する)を捉える実験開始初期には、動作の意味を「まったく知らない」状態だった(初回の実験以後、まず身振りとその動作の意味は教えられた)。しかし意味教示を受けた後の2度目の実験で同じ動作の読み取り実験の時にもすべて「分からない」という答であった。しかし身振り・手振り実験をきっかけに被験者は「晴眼者が話をしながら身振りをするらしいことに気づいた」が、日常で人の身振りはまだよく見ていないし、意味もまったくわからなかった。 (盲人は)「嬉しいときに, 1人でくるくる回りながら, その場で跳んだりはねたり」することはあっても誰かに何かを伝えるために身振りをすることはない、「一般的に盲人は身体で気分を表現したり, それを読み取ったりしません. 声の調子でそれをしているのかもしれない」「何かを身振りで表現することは知っていましたが, 自分の動作が見えないので私はしたことがありません」と言っていたこの女性被験者は、非言語コミュニケーション実験を受けるようになってから身振り・手振りに興味をもち、なおかつ自身でもそれを試すようになっていった(3度目の実験ではじめてVサインを教わった被験者は自らもそれを試みようとした)。 4度目の実験のときには実験者らに、(自分の子どもを育てる立場になってから)「子どもは普通, バイバイと言いながら相手に手を振るらしい」ことを知ったと言い、「(*バイバイの動作)がわからないため, 自分の子に教えられなくて困っていた」が「近所の人に頼んで教えてもらってからは, 子どもがする動作を見て私も覚えた. 私も最近ようやく“バイバイ”ができるようになりました」と報告した。 姿勢にみられる情緒の認知実験に伴ってあらわれた開眼者の変化 自信・落胆・注目などのとき人がどういう姿勢をするのかと実験者に問われたあと、実演を求められた被験者は「動作はしないので分からない」と答えたが、<落胆>に対してはうなだれて肩を落とす動作をし、<拒否・拒絶>に対しては首を左右に振るなど晴眼者に近い動作を示した。 ほかの動作に関しても説明して自身に演じてもらい、何度か実験を続けると≪自信(腕組み)≫に「くたびれたー」、≪考え込む(頬杖をつき頭を傾ける)≫に「考え事をしているのかな……?」と、誤答・正答ふくめ姿勢が現す精神状態をそんたくする場合もあらわれたが、次の回では同じ頬杖姿勢に「顔が痛い」と答えた。 こうした被験者女性の変化過程を鳥居・望月は身振りの表象的意味の認知 1.身振りの動きや形状を主に捉える段階 → 2.身振りの伝達機能に関心を示す段階 → 3.身振りの意味を推理する段階 姿勢にみられる情緒の認知 1.姿勢の形状のみを把握する段階 → 2.動作・姿勢の目的を推察する段階 → 3.動作・姿勢の模倣を通じて情緒を推察する段階 → 4.動作・姿勢を見て情緒を認知する段階 と分類した。ただし段階の進展では、ポーズによってはまったく成果なく終わったり、あるいは一度はできるようになった認知が次の実験時にはできなくなったりということもあり、順を追って着実に進展するというものではないことが実験結果から伺われる。 非言語コミュニケーション実験全体を通じての開眼者の変化 以前の実験では、視覚的認知は視力との結びつき(対象の大きさ、対象との距離)と課題達成とはきわめて強く連携していたといえる。 非言語コミュニケーションでもそのことは変わらないが、さらに同じ姿勢を見ても答が変わってくるというように、人の気持ちという視対象の非視覚的内容を読み取る実験は被験者に、コミュニケーションに対する新しい視点をもたらした。 「実験の場面ではいつも, 自分の行動は先生方に見られている, ということ」を次第に意識するようになり、それによって「こちらも相手(実験者)を見るようになった」と述べた。 その後、被験者は日常でも、以前は背中合わせに座った状態で話していた「友だちと一緒にいるときも相手を見て話すようになり」、「相手を見ながら話すと,“会話が続く”と感じるようになってきた」と変化を報告した。(【表情認知実験】の影響) 「相手を見るだけではなく, 昨年ぐらいから, 話している相手の動作も見るようになり」「あるとき自分も(晴眼者に)つられて, “うなずいている”ことに気づいた. そうしたら会話が楽しくなった」 「今では, ひとと話をするときには相手の顔がどちらを向いているのか必ず注意するようにしている」顔だけではなく身振り・ジェスチャーなどの視覚言語が対人交信に交えられることで「会話が長続きし, 弾み, より自然で, 楽しいものになった」(【姿勢・動作による情緒表現読み取り実験】の影響) こうした被験者の変化について、実験者(鳥居・望月ら)は“非言語的な交信情報の一部を認知し, 自らも表出することで交信行動は多層的に”なり、その変化がもたらしたものは“伝達内容の厳密化というよりも, むしろ情緒的内容の加味であった”と考察している
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