先天盲からの回復
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先天盲からの回復(せんてんもうからのかいふく、英: recovery from blindness)は、先天的または早期の障害により視覚経験の記憶をもたず生育した人が、外科手術などの方法で視力を得た後の視覚回復過程を指す。17世紀後半にモリヌークス問題という知覚・認識と経験に関する問いを当時の高名な哲学者たちが論じたことで先天盲からの視覚回復に関心が集まった。その後、眼科医による先天盲開眼者の症例報告が増えていくにつれ、17 - 18世紀の認識論の哲学的思考実験から実証的・経験科学的な認知論に展開し、メタアナリシス的手法や術前術後の実験心理学的な観察報告・リハビリ実践の中で研究が重ねられ、さらに人工臓器(眼)やブレイン・マシン・インタフェースといった分野での視知覚回復の研究も拡がっている[1]。
補
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- ^ 『先天盲開眼者の視覚世界』<第8章.視覚の発生と非言語的交信行動の形成過程>,「社会的微笑」はpp.232-233、「社会的視覚」p.256、およびそれ以降。
- ^ a b c 『先天盲開眼者』p.238-9,<表8-1>とその解説
- ^ 『先天盲開眼者』p.244
- ^ (*手術後、最初外科医の顔を見てもそれが何であるかわからなかったが、医師が話し始めると, 声のする方向を見て)「自分の顔に対して感じていたようなもの(口)をそこに見出すこと」でそれが「顔」を見ていると認知した(Latta,1904)_(鳥居・望月『先天盲開眼者の視覚世界』2000年. p.238-239)、「口を少し開けているから,笑っているのではないかしら?」(同, p.244)、「母の歯を見て気持ちの悪いことに身震いした」(資料S:梅津八三)_鳥居修晃『視覚の世界』p.17-18
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- ^ ただ3年目の実験でも「笑っている……私じゃないかしら……顎のあたりに見おぼえがある。でもこんな色の洋服もっていたかしら…」と、服の色などの一致が見あたらないと断定できるほどの自信をもてない様子を示している。同.p248(表8-5_望月, 1983)
- ^ 同書。pp.245-259
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- ^ 上記のEckmanたちの分類では、うなずきには肯定の表象的動作と、言語調整動作(相手の言葉を「うん、うん」とうなずきながら相手の言葉を促す意味でのうなずき)を区別している。この実験で鳥居・望月は表象的動作としてのうなずきを提示している.『先天盲開眼者』p.264
- ^ 同書.pp.264-267
- ^ 『先天盲開眼者』p.268-272
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- ^ Pawan Sinha パワン・シンハが脳がどのように見ることを学ぶかを語ります
- ^ (古代インド医学 & P.クトムビア, pp. 257–258)「外科医は適度の気温の朝,明るい場所で,膝の高さのベンチに腰掛け,自分より低い位地(*ママ)に固定して座らされ,入浴と食事をすませた患者に向き合う。患者の目を息で温め,親指で摩擦し,瞳孔(レンズ)が濁っているのを確かめた後,乱切刀(シャラーカ)を示指,中指,母指でしっかりと保持し,一方,患者に自分の鼻を見させ,頭を固定させる。黒目から1/2横指,外眼角から1/4横指のところで自然の孔隙(ひとみ)に乱切刀を挿入し上向きにあちこちへ動かす。左目の時は右手で,右目の時は左手で刺す。もし,正しく刺せばそこで音がし,痛みのないままに水滴が流出する。一方では患者を励まし,眼を人乳で潤し,痛みを起こさせぬように刃で眼球を掻爬する。それから眼球のなかの粘液をゆっくりと鼻の方へ押し出す,この時患者は鼻の方向にそれを引き寄せるようにしなければならない。病巣(ドーシャ)が固定的であっても,流動的であっても,外から眼に罨法を施す。もし患者が(示された)物を識別できれば,外科医はゆっくり乱切刀を抜き取り,患部に油をヒダした綿を当て,目を動かさないようにして患者を寝かせる」(古代インド外科医ヴァーグバタ記述)
- ^ 2%の水溶液にして使った。ちなみに新大陸で発見されたコカインの研究を熱心にしていたのはフロイドである。(三島済一 & 『白内障手術の歴史』(連載第四回), pp. 1904–1905)
- ^ 偶然ある空軍パイロットの眼球に戦闘機の風防ガラスの破片が刺さったとき、長期間その状態のままでも炎症が起きないことがわかったことでリドリーは眼内レンズを発想した。日本医療器機産業連合会スペシャルコンテンツ「私たちの暮らしと医療器機」第16回page1白内障になっても再び見えるように-眼内レンズ(2010年6月16日)] ,鈴木久晴「目の成人病 白内障 Part.3」4,手術(眼内レンズ)。(学校法人日本医科大学グループ),宮本武「眼内レンズ 人工臓器-最近の進歩、"人工臓器"39巻3号、2010年] 以上すべて閲覧2015-9-4.
- ^ Marius von Senden :20世紀ドイツの心理学者。ハンブルク生まれ。キール大学でWittmann教授に師事、学位論文「Raum-und Gestaltaufassung bei operierten Blindgeborenen vor und der Operation」1932年(英語版タイトル「Space and Sight -The perception of space and shape in the congenitally blind before and after operation」1960年,邦訳『視覚発生論-先天盲開眼前後の触覚と視覚-』)で博士号を取得。ドイツ海軍で心理学者として数年勤務。生没年は不明である。(視覚発生論-先天盲開眼前後の触覚と視覚-』, pp. 3, 301)
- ^ 『先天盲開眼者の視覚世界』p66~68「開眼少女TMの場合」は術後9年を過ぎてから「一回目の虹彩切除のあとの見え方が一番印象的だった.病室で灰皿が見えた云々」と語るようになったが、実際には、手術4ケ月後の検査記録に、”正方形の形はわからず「位置はわかる」、円形では「はっきりしない…何かあるらしい」と図領域を捉えることもできない様子を示した”と記されていた.
- ^ 原作初出は「ニューヨーカー誌」(1993年)オリジナル英文OLIVER SACKS (1993年5月10日). “TO SEE AND NOT SEE” (PDF). Willamette University. 2016年3月6日閲覧。or“TO SEE AND NOT SEE”. CondÈNet The New yorker from the archive (Posted 2006-06-12). 2006年8月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年3月6日閲覧。
なお,この短編を原作とした映画が1999年にアメリカで製作されている.At First Sight (1999)(邦題「あなたが見えなくても」日本-劇場未公開)
- 1 先天盲からの回復とは
- 2 先天盲からの回復の概要
- 3 回復過程
- 4 脳領域との関係
- 5 参考文献
- 6 関連文献・サイト
- 7 脚注
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