雷
『大鏡』「時平伝」 右大臣菅原道真は、左大臣藤原時平の讒言(ざんげん)によって大宰府に流され、死後雷神となった。恐ろしく雷が鳴って、清涼殿に落ちかかろうとした時、時平は刀を抜き、「汝は存命中は私の次位だった。雷神となっても私に対しては遠慮すべきだ」と言って、にらみつけた。すると、一時(いっとき)雷は鎮まった。
『平治物語』下「悪源太雷となる事」 悪源太義平は難波三郎恒房に斬られる時、「雷になって、汝を蹴殺してやる」と言った。以来、雷が鳴るたびに、恒房はこのことを思い出して恐れた。摂津国昆陽野で雷に遭った時、恒房は、悪源太義平を斬った刀を抜いて立ち向かったが、乗っていた馬もろとも雷に打たれて死んでしまった。
★2.雷と性交。雷雨は天と地の性交であり、それに促されて男女も契りを交わす。
『源氏物語』「賢木」 朧月夜尚侍が瘧病治療のため、内裏から父右大臣邸に里帰りしたので、光源氏はしのび入り密会を重ねる。光源氏25歳の夏、激しい雷雨の暁に、右大臣は娘朧月夜の部屋を見舞い、2人の密会の現場を見る。このために、光源氏は須磨に退去することになる。
『好色五人女』(井原西鶴)巻4「恋草からげし八百屋物語」 師走の28日に火事があり、八百屋八兵衛一家は旦那寺の吉祥寺に避難した。16歳の娘お七は、同じく16歳の寺小姓・吉三郎と恋仲になり、正月15日、激しく雷の鳴る深夜に、ただ1度の契りを結んだ。
『日本霊異記』上-1 雄略天皇と后が大極殿で媾合中に、少子部栖軽がそれと知らずに参入した。天皇は恥じて媾合を中止したが、その時、空には雷が鳴っていた。
『湯屋番』(落語) 銭湯に奉公した若旦那が、客の女に見初められ、家に招き入れられる。折からの雷雨に女はおびえ、やがて落雷があって女は気を失う。若旦那が口移しに気付けの水を飲ませると、女は「雷様は怖けれど、私がためには結ぶの神」とほほえむ〔*すべて、番台に座った若旦那の空想〕→〔空想〕3a。
*雷が鳴っても性交しない→〔性交せず〕3の『武家義理物語』(井原西鶴)。
*雷を恐れて、男女が1つの蚊帳の中に入る→〔蚊帳〕1の『盲長屋梅加賀鳶(めくらながやうめかがとび)』(河竹黙阿弥)。
★3.雷の嫁になる。
『太平広記』巻395所引『稽神録』 大雨の後、娘が姿を消したので老母が捜しまわる。1ヵ月後、娘が訪れ「自分は雷の嫁になった」と告げて去り、2度と戻らなかった。
★4.武器としての雷。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第2章 クロノスの子として生まれたゼウスは、成年に達すると、ティタン族との戦争に従事した。一眼の巨人族キュクロプスたちがゼウスに電光と雷霆を与え、ゼウスは以後これを武器として用いた。
★5a.雷の真似をする。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章 高慢なサルモネウスは「私はゼウスだ」と称し、ささげ物を人々に要求した。彼は、乾燥した革を青銅の釜とともに戦車で引っ張って「雷鳴だ」と言い、炬火を空に投げて「雷光だ」と言った。本物のゼウスが雷霆でサルモネウスを撃ち、彼の建てた市と住民を滅ぼした(*サルモネウスはテッサリア出身だった→〔雷〕5b)。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第32巻131ページ サザエが入浴中、窓の外に「ピカッピカッ」と稲光がし、「ゴロゴロ」と雷鳴が聞こえるので、こわくなって飛び出る。しかし波平もフネも「雷?」「いいえ」と言うので、外を見ると、ワカメとカツオが、懐中電灯と太鼓を使っていたずらをしていたのだった。
『金枝篇』(初版)第1章第2節 テッサリアのクランノンの人々は、青銅の戦車を神殿に置いた。雨を欲する時には、この戦車を揺らすと雨が降った。戦車のガラガラ鳴る音はおそらく、雷鳴の模倣である。ロシアでも、鉄槌で薬缶や樽をたたいて雷鳴を真似る、2本の燃え木を打ち当て火花を飛ばして稲光を真似る、などの呪術を行なって雨乞いをした。
★6.雷雨で占う。
『日本書紀』巻28天武天皇元年6月 天智天皇の死後、大海人皇子は大友皇子と対立し、挙兵する。激しい雷雨の夜、大海人皇子は誓約(うけひ)をして、「もし天神地祇が助け給うならば、この雨は止むだろう」と言う。言い終わるとすぐ、雷雨は止んだ。
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