本行のゾクチェン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 14:29 UTC 版)
本行のゾクチェン(智慧のゾクチェン)とは、別名「出家のゾクチェン」とも呼ばれるものを指す。その実際の修行階梯の体系は伝統の流派では閉鎖的で複雑ではあるが、一応の目安となる簡単な項目を、流派に偏らない形で段階的に挙げると以下のようになる。なお、トゥルク(転生者:化身ラマ)の場合は、通常3歳〜5歳ぐらいで自身の所属する寺に入り、複数の師からマンツーマンで専門的な教育を受け、たとえ在家であっても出家以上の修行を10年〜30年ほど重ねる。ただし、現在は亡命中で仏教大学に行くのが普通となり、各流派の専門的な教育を受けられないトゥルクも数多く存在する。 受戒(正式の僧侶になるには最低で2年)と出家作法、伝統の僧衣の授与と初歩の灌頂(ワン) 「三根本法」(グル・デーヴァ・ダーキニーの三尊法)や柔和尊の灌頂と伝授 出家の「前行」(ンゴンドゥ:「四加行」とも訳す、先の前行の長い儀軌を各最低で10万回)の伝授 出家のチュウ(施身法)とポワ(遷識)の伝授、各種の法要や葬儀の伝授 日課経典の『聖妙吉祥真実名義経』(ナーマサンギーティ)を主とするルン(詠唱)とティ(講伝) 諸尊法(主要な100〜400尊)の各「許可灌頂」と伝授 道場荘厳法と護摩法の伝授、曼荼羅作法や「マハームドラー」のヨーガ行法の伝授 「ゾクチェン」の詳細な講義と「導き入れ」(心の本性を浮かび上がらせる、後の「リクパ」の顕現に繋がる) ニンマ派「九大護法尊」(ゴンポ)の体系の灌頂と伝授、各種の「チャム」の伝授 「大幻化網タントラ」の「前行」や、「風と脈管のヨーガ」の初歩の伝授 「マハームドラー」やマハーヨーガの伝授(具体的な本尊法に基づく場合もある) 「蓮華生大師八大変化法」(グル・ツェンギェー)の九尊の灌頂と、四種法の伝授 「蓮華生大師十三成就法」(サンバ・ルンジィ)の十四尊の灌頂と、四種法の伝授 「寂静と憤怒の百尊法」(シト)の大灌頂と伝授 「八大ヘールカ法」(カギェー:八大守護尊の大系)の九尊の大灌頂と伝授 各流派(六大流派)の「テルマ」の大灌頂と総合伝授 阿闍梨灌頂と阿闍梨作法、「阿闍梨の五明」の教学や「阿闍梨戒」等の伝授 テルマや各ニンティクの「ゾクチェン」の灌頂と伝授、特別な「風と脈管のヨーガ」行法の伝授 「大幻化網タントラ」のヨーガ行法や、「イェシェ・ツォギャルの六法」等のアヌヨーガの伝授 「四大タントラ」の大灌頂と伝授 「大幻化網タントラ」の大灌頂 「大幻化網タントラ」のテキストに基づく各種の伝授 「大幻化金剛法」の灌頂と伝授(主要なタントラの「五大金剛法」に属する秘密本尊法) 「カンド・ニンティク」と「ビマ・ニンティク」、「リンチェン・テルズー」の全体の各灌頂と伝授 本行の「ゾクチェン」の伝授(勝義における「テクチュー」と「トガ」、三昧耶戒の「大圓満戒」) チベット仏教のニンマ派は他の三宗派と違って諸派連合であり、その教えや系統も一様ではない。ただし、古くはロンチェンパの指摘したように、それぞれの「ゾクチェン」の教えによって統一した教義を持ち、そのおかげで、現在では「ロンチェン・ニンティク」は六大流派の全てに共通する教えとされている。また、ドゥジョム・リンポチェ(1904-1987)が新たに指摘した歴史上のパドマサンバヴァの教えである「ゾクチェン」・「大幻化網タントラ」・「八大ヘールカ法」・「前行」の4つは、一応は検証に耐えうる教えを伝承している。上に挙げた項目は全ての流派が伝承するものではなく、例えば「四大タントラ」は、「リメー」で知られるジャムヤン・ケンツェ・ワンポ(1820-1892)以降にニンマ派に伝えられたもので、伝承しない流派もある。 ニンマ派に「マハームドラー」が有るか無いかは問題とする研究者もいるが、ニンマ派の代表的な祈祷文である『祈祷七品』(レイトンマ)にある、25人の弟子の一人による「ナナン・ドルジェ・ドゥジョム品」に、「(パドマサンバヴァは)この地においてマハームドラーの成就と覚りをもたらし」とあり、また、四大宗派に共通する『五智如来の三昧耶戒』の中に「マハームドラーを修します」との一文がある。さらに『大幻化網タントラ』は松長有慶の研究にもあるように『金剛頂経』系と『大日経』系の両方の内容を持つ教えであり、「前行」は『金剛頂経初会』に基づくものであるので、カトク寺第2世カトク・レンチェン・ツェワン・ノルブ(別名:黒い行者)が『大持明者の教法興隆祈願文』の中で「ゾクチェンとマハームドラーの双修」を述べているように、古伝の「マハームドラー」は実際に現在も脈々と継承されている。清朝末期から民国年間にかけてチベット人に直接教えを受け、後にアメリカに渡って今日のアメリカにおけるチベット学の基礎を築いた陳健民の『大手印教授抉微』によると、当時はカギュ派の「マハームドラー」(大手印)とニンマ派古伝のものを区別するために、ニンマ派古伝のものは「カルマムドラー」(羯磨手印)と呼ばれていたという。なお、古伝の「マハームドラー」や、特別な「風と脈管のヨーガ」、「イェシェ・ツォギャルの六法」、「大幻化網タントラ」のヨーガ行法、本行の「ゾクチェン」等、高度な密教のヨーガを含む実践法は、宗派としては伝承しているが実際に知る指導者は極めて少ない。
※この「本行のゾクチェン」の解説は、「ゾクチェン」の解説の一部です。
「本行のゾクチェン」を含む「ゾクチェン」の記事については、「ゾクチェン」の概要を参照ください。
- 本行のゾクチェンのページへのリンク