望遠鏡の設計
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/26 09:20 UTC 版)
広い天域をシーイング限界まで高めた解像度で繰り返し撮像するという目標を達成するため、ユニークな設計の光学系が採用された。主鏡は直径4.1 m、焦点口径比(F値)f/1の凹面双曲面鏡である。厚さ17 cmのメニスカス形状で、中央に開けられた1.2 mの穴にカメラを収容してカセグレン焦点に置く。ドイツのショット社がゼロデュアから製造し、モスクワのLZOSが研磨と修正(英語版)を行った。同種の形状でこれほどF値が小さい鏡としては世界最大で、研磨には予定より長い2年の期間を要した。主鏡は背面81基、周沿いに24基のエアシリンダーに支持されており、コンピュータ制御で形状を変えることが可能である。 副鏡は直径1.24 mの凸面双曲面鏡である。これら2つの双曲面鏡を組み合わせた構成は準リッチー・クレチアン系となる。合成F値は約f/3だが、2つの鏡だけによる画像は質が低い。副鏡は6脚の架台に取り付けられ、こちらもコンピュータ制御で位置調整やティップ・ティルト補正を行うことができる。 搭載された赤外線カメラはラザフォード・アップルトン研究所、英国天文技術センター(英語版)、ダラム大学からなるコンソーシアムによって製造されたもので、約3トンという世界最大の重量を持つ。望遠鏡とカメラは合わせて一つの光学系として設計されており、検出器にシャープな像を結ぶにはカメラに備えられた3枚の写野補正レンズが欠かせない。 赤外線カメラの運用では望遠鏡本体やドームからの熱放射を遮断することも重要である。VISTAでは写野補正レンズの前に設置された一連の冷却バッフルがその機能を担っている。さらに副鏡は主鏡辺縁部からの反射光を受けないよう小さめに作られているため、周縁に近い検出器であっても主鏡外の高温物体は視野に入らない。このため、結像面のどの点から見ても開口部の径は3.7 mに制限される。検出器とバッフルを冷却するカメラの真空クライオスタットは、長さ2 m以上、入射窓直径95 cmにする必要があった。検出器の直前には赤外領域の特定の波長域を選択するためのフィルターホイールが設置されている。 結像面には直径1.65°に相当する広さにわたって16基の赤外線検出器アレイが設置されている。各アレイは1個当たり20 μm(0.34")サイズのピクセルを2048×2048個備えている。焦点距離12.1 mとバッフル開口径3.7 mを合わせると焦点比は3.26になる。アレイの間には隙間が開いており、ギャップ幅は二方向それぞれにアレイ幅の90%と50%である。したがって1回の露出で得られるのは動物の足跡のように点々と切り抜かれた像に過ぎない。隙間を埋めて一般的な天の画像を作成するには、場所をずらしながら最低6回の露出を行い、「足跡」画像を組み合わせて「タイル」を作る必要がある。カメラの画像面には波面(英語版)検出器も備えられており、主鏡の形状および副鏡の位置やティップ・ティルトの制御に用いられる(能動光学参照)。 これにより、任意の高度で鏡のたわみを補正して焦点の合った像を作ることができる。 VISTAのエンクロージャ建屋は山頂を造成した平坦地に補助建屋とともに建造された。補助建屋には主鏡を洗浄、剥離、コーティングする設備が備えられている。コーティングはアルミニウムでも可能だが、通常は赤外線特性の優れた銀が保護膜付きで用いられる。エンクロージャは固定基部が回転可能な鋼鉄製ドームを支持する構造である。スリットは左右にスライドして開閉する。ドームには通気性を高めるための扉が備えられ、スリットの一部を覆う風防もある。日中のドーム温度は夜間と同じ温度に保たれる。 4.1 mサイズのVISTA主鏡が光学検査を受けている。 重量3トンのVISTA赤外線カメラが望遠鏡の前に吊り下げられている。 エンクロージャ内部(提供・ESO)。
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