日活ロマンポルノ路線と神代辰巳
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「一条さゆり 濡れた欲情」の記事における「日活ロマンポルノ路線と神代辰巳」の解説
1958年にピークを迎えた映画館入場者数はテレビの普及に伴って急速に減少し、1965年には1958年の約3分の1にまで落ち込んだ。観客数の減少は映画会社を直撃し、1960代半ば以降、日活は経営状態が悪化し始めた。1660年代末には経営の悪化が進み、1969年に撮影所を売却し、翌1970年には本社ビルの売却に追い込まれた。経営再建のため大映と共同出資してダイニチ映配を設立したものの、1年あまりでダイニチ映配も行き詰まり、1971年6月にはダイニチ映配から撤退し、8月には映画製作を中止する事態に陥った。 会社存続の危機に立たされた日活は、まず経営陣より大規模なリストラが提示されたが、労働組合側から労使協調で経営再建策を話し合おうとの提案があり、経営側も同意し、1971年7月に労使双方による「経営」、「映像」の委員会が立ち上げられ、経営再建策を練ることになった。結局再建案は 成人映画 大作映画 児童映画 スタジオレンタル、ビデオ展開を図るための映像開発 という4つの事業で進められることになった。中でも成人映画はロマンポルノと名付けられた。 映画撮影中断時、自宅待機を命じられた日活関係者は、方針決定後、「これからロマンポルノを始めるので、ポルノをやっても良い人は会社に残れ。やりたくない者は辞めてもらって構わない」と通告された。成人映画を経営再建の柱のひとつとする方針には反発も強く、多くの監督、専属俳優が日活を離れた。日活を離れる決断をした人たちの中からは、ロマンポルノなど映画では無いなどという声も挙がった。しかし撮影、録音等の技術スタッフはかなりの数が日活に残る決断をした。 日活の経営危機の再建策として始められたロマンポルノは、低予算、短期間での制作が宿命づけられた。具体的には撮影日数は10日以内、映画は70分以内で750万円の予算で制作すべしとの方針が定められた。当時、日活は平均して映画一本の制作に約3000万円をかけていた。それでも1971年当時、主に独立プロダクションが制作していたポルノ映画は約200~300万円の制作費であり、映画制作に慣れたスタッフらが手掛ける日活ロマンポルノには勝算があると踏んだのである。ロマンポルノ路線転向以前の日活には、「石原裕次郎は決して死んではならない」、「ロケ時は晴天で無ければならない」等の撮影上のタブーが存在したというが、ロマンポルノは70分以内の映画にして成人映画として10分間に1回は絡み場面を入れる等の要件を満たせば企画内容の制限が撤廃され、映画監督が自由に腕が振るえるようになった。 ロマンポルノ路線が動き出す中で、急速に頭角を現してきた人物のひとりが神代辰巳である。神代は1955年に日活に入社後、斎藤武市、蔵原惟繕らのもとで助監督を務めていた。1968年、かぶりつき人生で監督デビューを果たすが、日活始まって以来の不入り映画と言われるほどの不評に終わり、その後、1971年のロマンポルノ路線開始まで不遇の時代を過ごしていた神代はロマンポルノ路線への転向に向けて社内での話し合いの中で、実際にポルノ映画の企画まで出していた。 1971年11月、日活ロマンポルノの初作が封切られ、その後続々と作品が発表される。日活ロマンポルノは順調な滑り出しを見せ、多くのスタッフが辞めていった日活は、映画監督を始めとするスタッフに新人を抜擢していき、日活は活気を取り戻していく。しかし1972年1月28日、山口清一郎監督の「恋の狩人 ラブ・ハンター」、藤井克彦監督の「牝猫の匂い」などが刑法175条の猥褻図画公然陳列罪容疑で警視庁保安一課にフィルムを押収され、日活本社や撮影所にも家宅捜索が入った。そして5月25日には関係者135名が東京地検に書類送検され、6月4日からは日活ロマンポルノ裁判と呼ばれる公判が開始された。 神代辰巳は、猥褻図画公然陳列罪容疑で摘発された「恋の狩人 ラブ・ハンター」の共同脚本執筆者であった。そして自らの監督作品「濡れた唇」も公開直前であった。摘発直後の1月29日、日活は予定通り「濡れた唇」の封切を行い、当初から警察の摘発に抵抗する姿勢を見せた。もともと日活はロマンポルノ路線転向に確たる見通しを持っていた訳ではない。また警察の摘発についても想定はしていた。摘発後、映画関係者や評論家の中から「映画界の面汚し」などと批判する声が上がり、日活内でもこれを契機に新たな退職者も出た。しかし現場ではむしろ摘発に対して闘争心を掻き立てることになった。
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