日本メーカの動向
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/02 23:30 UTC 版)
前述のように世界市場では70年代からディジタル楽器が製品化されていたが、国内は一部メーカを除き、ディジタル楽器の研究が決定的に立ち遅れていた。その原因としては、当時国内の電子楽器専業メーカは成長途上だったため、基礎研究投資を行う余力に欠けていた事、逆に体力に余裕のある大手総合メーカ(電器メーカ含む)は、70年代ディジタルオルガン特許訴訟の影響を受け、ディジタル楽器開発に消極的だった事、等が挙げられる。 そのような中、ヤマハは訴訟問題とディジタル音源開発に真正面から取り組み、1980年以降は次々とディジタル音源製品を発売した(ただしPCM音源は問題の特許と抵触する可能性が高かったからか、当初は発売していない)。他方、多くの国内メーカは、80年代半ばに海外メーカが安価な製品を発売するまで (Alesis, Ensoniq, Emu)、本格的なディジタル楽器を一切発売しなかった。 日本におけるPCM音源製品の草分けは、1982年日本ハモンド/Jugg BoxのPCMドラムマシン「DPM-48」と推定される。サンプルは別売りROMで入れ替え可能だったが、発売時期の関係上MIDIには対応していなかった。その後、ローランド/ヤマハ/コルグ/カシオ/テクニクスといった他の国内メーカもPCMドラムマシンを製品化している。 1985年にはAKAI professionalが国産初のサンプラー「S-612」を発売している。このS612は 最大サンプリング周波数32kHzの12bitサンプラーで、サンプリング時間は最長1秒(32kHz時)だったが、音作りに重要なVCFやVCAは内蔵しておらず、同年先行して登場していた Ensoniq Mirageと比較するととてもシンプルな製品だった。その後AKAI Sシリーズは、S900, S1000でスペックと機能を充実させ、80年代後半 - 90年代にはE-muと並ぶ代表的サンプラーに成長した。同シリーズの設計はDavid Cockerell(前期EMSの各製品やElectro-Harmonixディジタルディレイの設計者)、AKAI S1000のOS開発はChris Hugget(EDP WASP/OSC OSCar/Novation SuperNovaの設計者)が担当しており、イギリスを代表する2人のシンセ・デザイナーによる製品と言えるかもしれない。 1987年ローランドはD-50というサンプル・ウェーブをレイヤーできるLA音源方式シンセを発売した。翌年発売されたコルグ社のM1は、サンプルを幾重にも重ねて発音するレイヤー(コンビネーション)機能やVDF(Variable Digital Filter、フィルター)やVDA(Variable Digital Amplifier、エンベロープ)を備えリアルな音と幅広い音作りを特徴とした。このVDFやVDAによって、ただ鍵盤に楽器音を並べて再生するだけにとどまらず、VDFによって音の明るさを調整したり、VDAによって音の立ち上がりやその消え方といったパラメータを変化させたりすることができる。また、ローランドのJV-1080やJV-2080のように拡張カードを差し替えて膨大な音色を扱えるようにした機種もある。 VDFでは、録音された楽器音を削って暗くすることしかできず、VDAで調整可能な時間的変化も限られた範囲での調整となるため、前述の通り音作りの幅が狭い。この点を克服するため、80年代末から90年代の初頭にかけて、シンセサイザーのメーカー各社は工夫を重ねた。ヤマハではFM音源とハイブリッド型のRCM音源を開発し、PCM波形をFM変調できるSY77を発売する。またコルグの01/Wシリーズではウェーブシェーピングという波形を変調できる方法を採用した。また同社のWAVESTATIONシリーズでは、波形を繋ぎ合わせることで時間的に変化できるようにした。そしてローランド社ではアナログシンセイザーと同じように波形を変調できるリングモジュレータを搭載した。また、JD-800のようにアナログシンセサイザーのノウハウを生かした音作りが可能な機種もリリースされた。しかし、90年代後半以後、波形ROMの容量の増加による、PCM音源の音質の向上、そして、様々な奏法の演奏自体を波形として収録可能になったこと、ハイブリッド音源の音作りの難解さなどの理由からヤマハのEX5など一部の機種を除き、このような工夫を施したPCM音源のシンセサイザーは姿を消していった。
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