建築作品と作風の概要
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『増田友也先生退官記念 著作・作品目録』によると、増田友也の建築作品は84作で、内訳は実施作61作、計画案23作であるという。長岡大樹が増田の言論に基づき、3つの設計態度(作風)の抽出を行っている。 1967年8月に建築と絵との体質的な差異について<建築は絵画や彫刻のように何ものかを再現しようとしていません それは林檎とか風景とか人体とかはもちろんのこと 樹の青 海の蒼をも再現しようとはしていません それは理想的に白一色の大理石でも作るのが本来の建築なのです 線と面と光と翳 それだけが建築の単語なのです 建築と言う考えが成立した当初はまさにこの通りだったのです>。 文脈から察するに、増田自らの設計思想を論じた文章とは異なるため、ここから設計態度(作風)を導き出すことが適切であるかは、議論の余地があり、それでいていくらか恣意的な印象を感じなくもないが、「A:建築は何ものかを再現するものではない。B:一種類の材料(色彩)で作ることが本来の建築である。C:建築の単語は「線と面と光と翳」だけである」とまとめており、これを (1)建築が矩形を基調とし、過度な形態操作をしない(A) (2)コンクリート打放し仕上げが大部分を占める(B/58 作が鉄筋コンクリート造で、うち50 作品が打放し仕上げ) (3)陰影を線・面の構成で建築を表現する と整理する。 とりわけ建築意匠面での特徴として、長岡大樹は (3)陰影を線・面の構成で建築を表現する に注目しており、壁の造形表現の移り変わりを見ることで増田の作風を捉えることができるとして、論文発表されているのが「増田友也の建築と壁の造形」(2011年)である。 この研究論文では、「庇・屋根・壁」の有無と組み合わせと造形的特徴から、次のように8種類の「壁面の構成手法」として整理を行っている。 張出し庇:庇が壁体からキャンティレバーで張出し、ファサードに水平の帯を与える。 壁面全体の門型枠:庇の役割を果たす屋根スラブと両サイドの袖壁が、壁面全体を門型( 型)に枠づける。 屋根の持ち上げ:屋根を壁から持上げて、壁の輪郭(特に壁の上辺)を際立たせる。 柱梁による方形架構:建物の骨組である柱・梁の方形架構を壁面全体に表出させる。 重厚な一枚壁:一枚の重厚な壁を建物の正面に据え内外を隔てる。 バルコン(バルコニー)のルーバー分割:外壁からガラスを後退させて設えたバルコンに垂直にルーバーを並べる。 垂直ルーバー壁:GL から軒まで届く垂直ルーバーを壁体に組み込む。 雁行型屈折壁:隣り合う室を雁行型にずらして並べ、屈折する壁面を構成する。 この8種類の「壁面の構成手法」に加えて、手すりなど「壁の付加要素」、壁面の凹凸となる「外壁面の断面形状」、ガラス・壁・手すりなどの前後関係である「壁面要素の前後関係」を検討材料に、増田友也の建築作品における壁の造形を7つのパターンと4期に区分・整理を行っている。 I期:初期・1957年〜1959年 梁の延長体である張出し庇がファサードをめぐり、各層ごとに水平の帯が走る。 方形架構と横架材による日型のパタンが壁面全体を覆う。 II期:前期・1960年〜1963年 袖壁を屋根スラブがファサード全体を門型に枠づけている。 III期:中期:1963年〜1971年 壁はコーナーで回り込まずに袖壁として余分に伸び、「一枚の壁」として明確に分節化している。 コンクリート壁の懐に深く入り込んだバルコン(バルコニー)を垂直ルーバーが区画するため、壁面には彫りのある矩形が並ぶ。 IV期:後期・1968年〜1980年 (垂直ルーバー壁によって)中期の彫塑的な壁から転じて、「開きつつ閉じる」半透明の相をした壁を実現している。 部屋の数だけ屈折する壁面がファサードを形成している。さらに上階の部屋を下階から後退して、屋上庭園(ルーフテラス)を設けることも多い。
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